第8話 ナンパされる生徒

 俺は、悲鳴の聞こえた方へと足を向ける。

それは、歌舞伎町の中でもかなり奥の方である。


 ここまで来るとキャッチの類はほとんど居ない。

質の悪い酔っ払いがうろうろしているくらいである。


 もう、終電も無い時間帯である。

ちょうど良く酔っ払って、ワンチャンないかとナンパのようなことをしている連中が目に付く。


「ねぇ、ホ別2でどう?」


 1人のサラリーマン風の男が少女に言い寄っている。

ホ別とは、ホテル代とは別に2万払うということである。


「ねぇ、君、こんな時間までここに居るって事は行くとこ無いんでしょ? 君なら3でもいいよ」

「ほっといて。私、そういうつもり無いから」


 少女は制服を着ている。

おそらく、高校生だろう。


 こんな時間まで制服姿で居て、良く補導されなかったなと思う。

ここは、歌舞伎町の中でもかなり奥の方なので、見つからなかったのだろうか。


「いいじゃん。タダでホテル行こうって言ってるんじゃ無いんだからさ」


 そう言って、男は少女の腕を掴む。


「やめてって言ってるでしょ!!」


 その少女は腕を振り離そうとするが、男の力には敵わない。


「君もそれを狙ってここに居たんでしょ?」

「そんなんじゃない!」


 少女は大きな声を出す。


「見てられないな……」


 俺は、男の手を掴むと関節を決める。


「その辺にしときな。いくらモテないからって嫌がってる女の子を無理矢理ってのは関心しないな」

「痛えな! 何なんだよお前!!」


 その男は俺に反抗的な態度を取って来る。


「彼女、嫌がってるじゃねぇか。そんな金あるなら、大人しく風俗でも行きな」

「関係ねぇやつは引っ込んでろ!」


 酔っ払いというのは、気が大きくなってしまうから行けない。


「それ以上、やるなら一緒に来てもらうぞ」


 俺は、スーツのポケットから警察手帳を取り出した。


「ちっ、何だよ。サツかよ」


 そんなセリフを吐いて、男は去って行った。


「大丈夫か? 怖かったよな」


 俺は少女に声をかける。


「すみません。ありがとうございます」


 そう言って、彼女は顔を上げる。


「え!?」


 彼女は驚いた表情を浮かべていた。


「どうかしたか?」


 俺は、何食わぬ顔をする。

彼女は帝華女子の生徒だ。

制服からしてそれは伺える。


「狩谷先生ですよね?」


 その少女の言葉で、俺はちゃんと顔を確認する。

 

 その彼女は綾波瑠璃であった。

ついこの前、自販機の前で会ったばかりである。


 俺の正体がバレたら色々とまずい。

正体を隠す事で俺は必死になる。


「人違いだ」


 俺が警察の人間ということは、生徒たちには隠す事が求めらている。


「絶対、狩谷先生ですよ! 私の目は誤魔化せません!」


 瑠璃は俺の前髪をいじって下ろす。


「ほら、やっぱり」


 俺は、学校の有名生徒である、綾波瑠璃に正体がバレてしまうのであった。

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