第7話 夜回り先生
「あの、すみません」
俺はさっきの女性から声をかけられた。
「ああ、あんたか。大丈夫か? 威勢がいいのは結構だが、無茶すると怪我するぞ」
俺は、忠告を入れる。
俺が間に入らなかったら、間違いなく殴られていたことだろう。
「その件に関しては感謝しています。でも、あそこまでやる必要があったのでしょうか?」
「あそこまでって?」
「警察に通報して、連行なんて。せめて学校に連絡して対処してもらう形でも……」
いかにも正義感が強い教育者にありがちな考えだ。
自分達の教育で、全ての生徒を正しく導けると思っている。
「あのな、いじめは立派な犯罪だし。あれは傷害に恐喝。いじめなんて生優しいもんじゃないよ」
俺も、あそこまで酷くなければ諭すことも出来たかもしれない。
しかし、事態があそこまで深刻化していれば警察に任せるしかないだろう。
「あの子たち、どうなるんですか?」
「警察で厳重注意受けて、その後は学校の判断だろうな。良くて停学、悪くて退学ってとこだろうな」
「そんな……」
なにやら、ショックを受けているらしい。
「あいつらがやった事はそれだけのことなの」
高校生だから仕方ないで、済まされることばかりではない。
そのまま放置していれば、被害者の生徒は殺されてしまうかもしれなかった。
それだけ、事態は最悪の方向へと動いていたのだ。
「俺は俺の仕事をした。あんたも、悔しかったら自分の仕事しなよ。夜回り先生」
「え、なんでそれを?」
「それ、六本木の高校のもんだろ?」
俺は、その女性が付けている腕章を指差した。
その腕章は六本木にある名門高校の教師陣に配られるものだと記憶していた。
「じゃあ、俺はこれで。もう遅いから、あんたも帰った方がいいぞ」
時刻は24時になろうとしていた。
俺は、歌舞伎町の方に戻って行く。
「さてと、俺もそろそろ帰ろうかな」
今回の見回りではそこそこの数の高校生を帰した。
もう、残っているようなことは無いだろう。
「あれ? 狩谷さんじゃん! 元気してる?」
歌舞伎町の中心地。
俺はガールズバーの女の子に声をかけられていた。
「ああ、奈々か。最近頑張ってるらしいな。けど、あんま無理すんなよ。また倒れられたら困るからな」
「相変わらず優しいね」
「松居は相変わらずか?」
「うん、元気にやってるよ」
松居というのは奈々の働くガールズバーのオーナーさんだ。
元々、無職でフラフラしていた奈々を紹介したのは俺だ。
松居とはもう、長い付き合いになるので良くしてもらっている。
「ちょっと飲んでかない?」
「まだ仕事中だから、また今度な。松居によろしく伝えといてくれ」
「しょうがないなぁ。絶対だからね」
「おう」
俺は、奈々との会話を切り上げると再び歩き出す。
自宅まではここから歩いてでも帰れる程度の距離ではある。
俺は見回りつつ自宅の方面に歩いて行った。
「ちょっと、やめてよ!」
その時、悲鳴に近いような声が聞こえた。
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