第5話 いじめ現場

 新宿歌舞伎町を見回りする事、1時間が経過した。

時刻は夜の23時半過ぎ。


 この時間になれば高校生たちは帰らなければならない時間である。

それでも、問題を抱えた青年たちはこの街に集まる。


 ここからが、歌舞伎町の本領発揮の時間帯とも言える。

俺は、高校生たちに何人か声をかけて帰るように促して行く。


「今日は、これ以上何も起こらないといいけどなぁ」


 そんな俺の願いはあっけなく崩れ去って行く。


 それは、歌舞伎町からは少し外れた高架下であった。


「おい、テメェ今日は3万持って来いって言ったよな? 1万しかねぇじゃないか!!」


 そう言って、1人の男子を三人で殴りつけ、蹴り飛ばす。


「もう、無理だよ。親にバレちゃう」


 殴られた男子が腹を押さえながら言った。

もう、制服は汚れて傷らだらけである。


 よく見ると打撲の後も複数ある。

きっと、日常的殴られているのだろう。


「それも何とかするんだろ!! 使えねぇな!」


 いじめの主犯格の男子が髪を掴んで、顔を殴る。


 俺はその現場を目撃し、止めに入ろうとした時であった。


「いじめは止めなさい!!」


 その場に女性の声が響いた。

現場には、30代前半くらいと思われる綺麗な女性だった。


 腕に腕章を付けている。

どこかの学校の教職員であろう。


「やべ、完全に入るタイミング無くなった……」


 その女性の登場によって、俺は入るタイミングを見失ってしまった。


「俺たちはただ、遊んでるだけですよ」

「そうです。いじめんなんてしてませんよ」


 実際に殴っている所を見られていないとでも思っているのだろうか。

どちらにせよ、この時間では深夜徘徊だ。


「彼、怯えているように見えるけど?」


 女性は殴られていた男子に視線を移す。


「うるせー! ババアは引っ込んでろ!」


 そう言って、男子生徒がその女性に殴りかかる。


「見てられないな」


 俺はタイミングを見つけて、女性の前に立つ。

そして、その男子生徒の拳を受け止めた。


「今度は何だおっさん」


 男子生徒は俺の事を睨み付けてくる。


「そんくらいにしとけ。これが、俺からの忠告だ」

「うるせぇ!!」


 男子生徒は殴りかかってくる。


 俺はその拳を躱し、足をかける。

そのまま、男子生徒は転倒するから。


「お前ら、女相手にあんまイキがんなよ」

「何だと!!」


 他の男子生徒も同じく俺に襲い掛かってくる。

それを軽く躱すと、投げ飛ばした。


 こちらも流石に、これは見過ごせない。

傷害事件にまで発展しているのだから。


「お前ら、その制服は隣の区の進学校のだろ? せっかくガリガリ勉強して入ったのにな。お前ら、もう終わりだぞ」

「おっさん、何言ってんだよ」


 俺は、スーツの内ポケットの中から警察手帳を提示した。


「警察だ。お前ら全員署で話聞かせてもらうからな」


 そう言うと、俺はスマホを取り出して電話をかける。


「今から言う場所に至急来い」

 

 そして、数分後には警察車両が到着しているのであった。

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