第2話 もう一つの顔
今日は授業はホームルームだけで、午前中で終了。
俺は帰って行く生徒を見送っていた。
「気をつけて帰れよー」
生徒たちを見送った所で、職員室に戻って事務作業をする。
教師は授業だけやっていればいいという訳ではない。
授業準備から成績処理まで、さまざまな仕事が回ってくる。
「あ、お茶……」
ペットボトルで飲んでいたお茶が切れているのに気づいた。
俺は、集中していると飲み物の消費が早くなる所がある。
「買いに行くか」
俺は職員室のすぐ近くにある自販機へと向かった。
そして、自販機の前で1人の生徒とぶつかった。
「おっと、すまん。大丈夫か?」
「狩谷先生! すみません。私も不注意でした」
ぶつかった衝撃で落ちた小銭を拾い集める。
「これ、悪かったな」
拾い集めた小銭をその生徒に渡す。
「すみません、ありがとうございます」
そこで、俺は初めてその生徒の顔をちゃんと見た。
「何か?」
その生徒は不思議そうな表情を浮かべている。
「いや、こんな時間まで残ってた生徒がいたなんて思わなくてな」
彼女の名前は綾波瑠璃。
アイドル級に可愛いルックスから、女子校でありながらその知名度は大きい。
実際に読者モデルもやっているのだとか。
「ちょっと、先生に頼まれごとしてて、今から帰る所でした」
「そうなのか。お疲れ様。よかったら、ジュース一本奢るよ」
「え!?」
「ほら、頑張ったご褒美とぶつかったお詫びにさ。まだ買ってなかったんでしょ?」
俺は、ポケットから財布を取り出しながら言った。
「何飲みたい?」
「じゃ、じゃあ、これを」
瑠璃は遠慮がちに自販機のレモンティーを指差した。
「了解」
俺は瑠璃のレモンティーと自分の烏龍茶を購入した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。先生って優しいんですね」
そう言って、瑠璃は微笑んだ。
「先生、前髪あげた方が似合いそうですね。上げないんですか?」
「あー面倒だからな」
さっきも生徒に言われたな。
そんなに前髪をあげた方がいいいのだろうか。
「ちょっと、残念です。じゃあ、私は帰りますので」
「おう、気をつけてな」
そう言って、俺は瑠璃を見送った。
「危なかった。俺が彼女と同じくらいの歳なら惚れてた自信があるな」
そんなことを思いながら、俺は職員室に戻った。
そして、自分の仕事が終わったのは辺りが少し暗くなってきている所だった。
「さて、行きますか」
俺は、まだ残っている先生たちに挨拶をして帰宅の準備を整える。
とは行っても帰るわけではない。
ここからはもう一つのお仕事である。
俺は駅のトイレで身なりを整える。
ピシッとしたスリーピーススーツに身を包み、髪の毛をセットしてメガネを外す。
そして、スーツの内ポケットには黒の二つ折りの手帳が入っている。
そう、警察手帳である。
俺は、警察庁長官の命を受けて動く公安警察だったのだ。
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