第60話 西の山の探索と新規ルートの開拓。

【異世界生活 97日目 7:00】


「おはよう、りゅう君」

明日乃あすのが俺に甘えるように抱きつき、起こしてくれる。そして、キスをせがむ。


 ツリーハウスができてからの明日乃あすのの甘えっぷりがすごい。テントに比べてプライベート感が増したが、このところ濃厚なイチャイチャが連日だ。

 そして、他の女の子達にもバレバレだぞ。たぶん。ケモミミは耳がいいからな。


明日乃あすの、最近、甘えっぷりが凄いぞ。俺も好きだからいいけど、ほどほどに、な?」

俺はそう言って、周りにも気を使う。


「だって、りゅう君、また、2週間くらいいなくなっちゃうんでしょ? だから今のうちに、いっぱいりゅう君エキスを補充しておかないと」

明日乃あすのがそう言って俺に抱きつく。

 これはキリがなさそうだ。


 少しだけイチャイチャして、キリがいいところでツリーハウスから降りる。

 挨拶を交わすが、先に起きている女の子達の呆れるような視線が痛い。


 早起きの琉生るうが作ってくれた朝食を食べ、日課の麗美れいみ先生の剣道教室をやってから作業に入る。

 

 今日は午前中に遠征の準備をして、お昼ご飯のあと、西の山の探索に出発する予定だ。


 俺と明日乃あすのは保存食の準備。干し肉や干物の魚をまとめたり、乾燥させたトウモロコシを石臼で挽いて粉にしたりする。石臼はすずさんが作り直してくれた本格的な石臼だ。

 一角いずみ麗美れいみさんは魚を水汲みと魚捕り。残るメンバーの食料と水の確保だ。


 ちなみに、残るメンバーは明日乃あすの麗美れいみさんと一角いずみ

 琉生るうと牛の親子はダメだったら引き返せばいいと、初回から、ルート開拓ついでに引っ越しも一気にやってしまうことになった。

 牛の運搬能力は高いからな。100キロ以上積めるから人の4〜5人分の働きをしてくれる。水と草があるところならどこまでもいけるし、足腰も強い。スピードは期待できないけどな。

 それと、すずさんと真望まもも参加だ。すずさんは鉱石探しが目的だし、真望まもは南の拠点に置いてきた麻の茎が心配、自分が行かないと放置されそうと、無理やりの参加だ。


 琉生るうは牛の世話と、山登りに持っていく牛の牧草の準備、山で牛が食べる草が無かった場合の牛用の非常食だ。乾燥させたトウモロコシも持って行くらしい。あと、大きめな水瓶も積んで途中の川で水を汲む。


 真望まもは近くの林で薪拾い。山の上に薪がないかもしれないので3日分くらい牛に運んでもらう。


 すずさんは石斧や石包丁、石のナタなどの手入れや荒縄など道具の点検だ。


 お昼は、干し肉と野菜や山菜を炒めたものを、トウモロコシの粉を水で溶き、薄く焼いたクレープみたいな皮で巻いた、トルティーヤっぽいものを食べる。塩味だけだが、野菜と肉のエキスが出てなんか美味い。


「これは美味いな」

自称グルメな一角いずみも大満足のようだ。

 


【異世界生活 97日目 13:00】


それぞれ、カバンに道具や食料、水筒、テント代わりの麻布、護身用の槍と予備の槍を持って、牛にも牧草や水瓶、荷物を積んで準備完了。

 山道の探索なので人も牛も荷物は5割ほどに抑える。不慣れな山道だし、帰りは引越しの荷物もあるしな。


「それじゃあ、行ってくるな」

「りゅう君、みんなも気をつけてね」

俺の挨拶に明日乃あすのが心配そうに答える。


 とりあえず、南の林を進んで、滝の上に出る。

 そこで水筒に水を汲み、牛用の飲み水も水瓶に汲み、牛にも水を飲ませる。

 

 その間、俺は、一角いずみから貰った魚捕り用の弓矢、一角いずみが昔使っていたらしい古い方の弓矢で魚を捕る。

 この世界の魚は人を恐れないから釣りをするより簡単に捕れるようだ。

 川を覗いて、魚がいたら弓矢をできるだけ近付けて矢を放つ。矢が刺さったら矢につながった麻紐をたぐり寄せると魚が手に入る。そんな感じだ。


「川沿いの移動なら魚も捕れていいかもしれないな」

俺は3匹魚を捕り、みんなに合流してそう言う。


「飲み水の不安がないのもいいわね」

真望まもが同意するようにそう言う。


 魚のわたを取り、槍に吊るして、牛の準備もできたみたいなので、川沿いの獣道を歩き始める。


 牛がたまに草を食べるために立ち止まるので休みながらゆっくり歩く。なんか、ペースメーカーになってくれているようで落ち着いて歩けるかもしれない。

 

 俺は牛の親子と琉生るうと一緒に、川沿いの獣道を歩き、真望まもすずさんと河原を少し先行して、鉱石探しをしながら歩く感じだ。

 牛が草を食べながら進むペースと、すずさんが鉱石探しでモタモタするペースがいい感じだ。


すずさん、鉱石拾いは帰りだからね。拾った鉱石がまとまったら、どこか置いておいて帰りに拾う感じにしてね」

俺がすずさんにそう声をかけると、すずさんが残念そうに河原の隅に拾った石をまとめだす。その繰り返しだ。

 行きに持って歩いても、鉱石が拠点から離れるだけで何の意味もないからな。体力の無駄だ。

 まあ、すずさんが楽しそうだからいいけど。


 夕方、早めにキャンプを設営、俺は魚を捕って、他の子は薪を集めて、日が暮れたら夕食だ。



【異世界生活 97日目 18:30】

 

「こっちの道は草木があって、気持ち的にも歩き易いな」

夕食の焼き魚を食べながらそう言う。


「そうだね。景色を楽しみながら歩けるから、ハイキングみたいでいいかもね」

琉生るうも少し楽しそうにそう言う。


「だけど、森もあるし、オオカミやクマも出そうだから気をつけないとね」

真望まもがそう言って気を引き締める。


「クマが出たら真望まもに任せるぞ」

俺がふざけてそう言うと、


流司りゅうじ、あんたが一番がんばりなさいよ! 麗美れいみさんも一角いずみもいないんだから」

真望まもが結構本気気味で怒る。

 そうだよな。戦闘狂の一角いずみも武道の達人の麗美れいみさんもいないし気を引き締めないとな。


 話を変えるように、すずさんに鉱石の採取状況を聞くが、かんばしくないようだ。こっちの川は支流で向こうが本流なのか、鉱石や黒曜石、砂鉄なども全部向こうの、南側に流れる川に流れて行ってしまっているのではと予想しているそうだ。

 とりあえず、少量で、小さい物しかないみたいだが、鉄や銅が含まれていそうな鉱石と石英や水晶っぽい石を確保しながら歩いているらしい。

 そういえば、石英を集めて『るつぼ』を神様に作って欲しいとか言っていたもんな。


 20時になるとすずさんと琉生るうがテントに入って就寝、今回、夜の見張りは2交代制、今日は、真望まもが前半5時間、すずさんが明け方5時間担当で6時に起きて朝食、出発する感じだ。

 明日は俺と琉生るうが同じように見張りをする。


 俺は、けもみみ効果で夜行性になったせいか、寝付けず、1時間くらい、真望まもと雑談する。

 真望まもが夜の見張りの間、暇になりそうだからと、麻の繊維を持ってきていたので、俺も麻糸作りを手伝いながら雑談する。

 真望まも明日乃あすのが手の空いた時に麻糸作りをしているらしいが手間がかかりなかなか進まないそうだ。

 最近は砂糖作りに小麦の収穫やトウモロコシの収穫と忙しく、真望まもも麻糸作りは久しぶりらしい。


 麻糸作りの単調作業のおかげか、眠気が出だしたので立ち上がり、寝ようとすると、


すずさんも琉生るうちゃんも、もう、寝てるよね?」

真望まもが俺の服の裾を摘んで上目遣いで恥ずかしそうにそう言う。


真望まもも甘えたくなったのか?」

俺は座り直すと真望まもをからかうようにそう言う。


「だって、最近、流司りゅうじ明日乃あすの凄かったじゃない? あんなの聞かされたら、みんな、我慢できなくなるわよ」

真望まもが、恥ずかしそうに、そして、少し怒るようにそう言う。

 お互い小声でイチャイチャしていたつもりだったのにまる聞こえだったのか。まあ、明日乃あすのの声が大きい気はしていたけど。


「しょうがないなあ」

俺は真望まもを冷やかすようにそう呟くと、真望まもの頬と首筋にキスをする。

 真望まもも嬉しそうに首筋を寄せて、もっとキスして欲しいとせがむ。



☆☆☆☆☆☆



真望まもは耳も尻尾も弱いな」

俺はぐったりした真望まもを抱き寄せて微笑みながらそう言う。

 真望まもが3回気持ち良過ぎて気絶するくらい、狐のようなふわふわな耳ともふもふの尻尾を味あわせてもらった。尻尾や耳を噛むと気持ちよさそうに鳴いてくれるが嬉しくなってつい夢中になってしまう。


「仕方ないじゃない、神様が生やしたんだし、私のせいじゃないし」

そう言って、俺の肩に頭を寄せてしなだれる真望まも

 顔にあたるふわふわの狐耳が心地よい。

 真望まもはぐったりしているが、なんか幸せそうな顔で俺も幸せな気持ちになる。


「なんか、私も最近、こっちに来てよかったかな? って、気がするの。向こうの世界じゃ、流司りゅうじくん、ずっと友達でいるつもりだったでしょ? 明日乃あすのちゃん一筋って感じで」

真望まもが俺に寄り添いながらそう言う。

 真望まもが俺や一角いずみ明日乃あすのに『くん』や『ちゃん』付けする時は、弱気な、素直な、おさげ眼鏡だった、中学生だった頃の真望まもに戻っているときだ。

 

「今も、友達だぞ。真望まもは一番の大親友だぞ」

俺はからかうようにそう言う。


「もう、流司りゅうじくんの意地悪」

真望まもが幸せそうに、そして不満そうにそう言う。


「ねえ、流司りゅうじくん、もう一度キスして。それで私もっと頑張れると思うから」

素直で可愛い真望まもが目を潤ませてそう言う。



☆☆☆☆☆☆



【異世界生活 98日目 5:50】


「おはよう、すずさん、琉生るう

俺は少し早めに目が覚めて、テントから出て挨拶をする。


「おはよう、流司りゅうじ。昨日は真望まもちゃんとラブラブだったみたいね。今夜は私がお願いしようかしら?」

すずさんが冷やかすようにそう言う。


「おはよう、流司りゅうじお兄ちゃん。すずさん、ダメだよ。今日は琉生るうがお兄ちゃんとイチャイチャするの」

琉生るうがそう言うが、俺にはその気が全くない。いまだに気分は妹だしな。


「はあ、失敗したわね。夜の見張りの順番、私が一番不利じゃない」

すずさんが本当に残念そうにそう言う。


「おはよう」

 少し遅れて真望まもも起きてきて、みんなで朝食を食べる。

 何もなかったように、いつもの真望まもの口調で雑談しながら朝食を食べ、他の女の子達も何もなかったように雑談し、キャンプを片付け、出発する。

 

 最初に、川で牛に水を飲ませながら、牛が夜飲んだ分の水を水瓶に補充し、川に沿って山を登る。

 今日も牛はゆっくり草を食べながら、すずさんは河原で鉱石を探しながらゆっくり進む。

 ただ、休みながらがいいのか、疲れずに歩け、ペースも悪くない。明日か明後日には川の分岐点につけそう、予想どおり1週間くらいで南の拠点に行けそうなペースだ。


「ガサッ」

川と反対側にある林の藪が揺れる。


真望まも! すずさん! 敵だ!!」

俺は大声を上げ、荷物を置き、石斧と槍を持ち、牛と琉生るうを庇うように槍と石斧を構える。

 いつもの戦略、石斧を投擲してからの槍での攻撃の構えだ。


 琉生るうも牛の親子を庇うように槍を構える。


 もしかしたら、キャンプをしていた時から追跡されていたのかもしれないな。

 そんなことを考えながら気配のする方を睨みつつ、牛と琉生るうを少しずつ下がらせる。


 少し遅れて、真望まもすずさんも戦列に並ぶ。


 そして、現れたのは、今までに見たこともない、巨大なクマだった。


 次話に続く。

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