第59話 小麦の収穫と新規ルートの開拓案

【異世界生活 91日目 9:00】


「それじゃあ、行ってくるな」

俺はそう挨拶をして、小麦の収穫に向かう。

 小麦の収穫に向かうのは俺、真望まも琉生るう、そして牛の親子。川沿いに下りながら北にある小麦畑をめざす感じだ。

 

 なんか、すずさんと一角いずみ麗美れいみさんは交代で竹を採りに行き、牛小屋を作ってくれるそうだ。

 今は木の下で雨宿りしているが、少し可哀想だし、ニワトリの方がいいところに住んでいるということで雨風しのげる小屋を作ってくれるらしい。

 明日乃あすのは拠点の留守番と小屋づくりの手伝い、荒縄作りらしい。明日乃あすのは力仕事に関してはダメだからな。

 拠点は明日乃あすのが留守番として固定で、麗美れいみさんか一角いずみが戦闘要員として交代で拠点にいる感じにする。



「ねえ、お兄ちゃん、小麦の収穫はどうする? 刈り取ってから小麦畑で乾燥させてもいいし、拠点に持ち帰って乾燥させるのもいいし、どうする? あと、穂の部分だけ刈り取るっていうのもあるよね」

琉生るうが小麦畑に向かって歩きながらそんなことを聞いてくる。 


「麦わらごと拠点に持ち帰りましょ? 麦わらは編めば色々使えるし、荒縄の材料にも良さそうだし、そのままだってヒモ代わりに使える優秀な素材よ」

手芸好きな真望まもがそう言って会話に割って入ってくる。

 なるほどな。麦わらが確保したくて今日は真望まもも小麦刈りについてきたのか。


「リュックサックはちょっと麻布もったいないし、麦わらのバッグや籠ならいくらでも作れるでしょ? 今後の探索や収穫にも役立つと思うのよ」

真望まもがさらにそう言う。


「わかった、わかった。小麦は麦わらごと持ち帰って拠点で干す。それでいいな? 確かに小麦畑に干しっぱなしは鳥や虫に食われたら嫌だし、どうせ麦わらも使うなら拠点まで持っていってしまった方がいいもんな」

俺は真望まもにそういう。


「牛さんたちのベッドにもいいかもね。もちろん私たちのベッドとしても」

琉生るうがそう言う。

 

 そんな感じで、とりあえず、小麦をわらごと収穫して、何度も往復もして拠点に持ち帰ることにする。

 刈り取ったら2~3週間天日干しするそうだ。

 また乾燥か!! 土器といい、麻の繊維といい、乾燥に苦労している気がする。

すずさんにたき火で強制乾燥するような乾燥用の小屋を作ってもらわないとそろそろ時間のロスが気になりだしてきたな。


 小麦畑へは3時間弱で到着。琉生るうの見立てでは収穫して良さそうとのことで収穫を始める。

 1時間ほど麦の刈り取りをして、遅めのお昼ご飯。休憩してから15時くらいまで麦の刈り取りと選別をしていい物だけを拠点に持ち替える予定だ。


「やっぱり、自然にほったらかしの小麦だから、虫に食われていたり、成長が偏ったり、身のつき方が悪い小麦も多いな。あと、雑草も多すぎる」

俺はそう言って選別しながら刈り取っていく。小麦畑というより雑草の中に小麦が混ざっている。という状況に近いかもしれない。

 

「秋ぐらいにちゃんと耕して種まきすれば、次の夏にはちゃんとした小麦ができるんじゃないかな?」

琉生るうがそう言う。


「なあ、琉生るう、一応、神様のアドバイスだとこの島の冬は少し厳しいから、北の島に移動した方がいいって言われているんだが、どうする? この島で冬を越えるか?」

俺は琉生るうに聞いてみる。


「うーん、神様がそれだけ拘るってことは、やっぱり冬を越えるのは難しいのかな?」

琉生るうがそう言う。


「なんか、それだけじゃないっぽいけどな。神様は俺達に魔物を倒させてレベルを上げさせたいんだろうな。多分、日課のお祈りと関係しているのか、何か別の思惑があるのか、やたら魔物狩り推しだからな。悪意や罠みたいなものは感じないけどな」

俺は琉生るうにそう答える。


「神様、魂の浄化とか言ってたもんね。魔物を狩って、魔物のマナを吸収してレベルを上げると、私たちの魂が成長して赤ちゃんも強い子が生まれるとか言っていたような気がするね」

琉生るうがそう言う。そういえば神様がそんなことも言っていたな。


「10分の1の今の俺達の魂を10分の10に成長させる作業か。たぶん、それだろうな」

俺は思い出すようにそうつぶやく。


「お兄ちゃんと琉生るうの赤ちゃんが強い子に育つように、いっぱい魔物を倒さないとダメってことだね。頑張ってね、未来のパパっ!」

琉生るうがそう言って笑う。

 俺と琉生るうの子供とかって想像もつかないけどな。


 思わず、真望まもの方も向くが、俺と目が合うと、真望まもは真っ赤になってそっぽを向く。こいつ、俺と赤ちゃん作る妄想していたな。


「そうなると、畑を耕して麦の籾を撒いたら、他の島に移動して、春になったら帰ってくる感じかな?」

琉生るうがそう言う。


「そうだな。あくまでもこの島を拠点にはしたいな。冬だけ、赤道を越えた、北にある、夏と冬が逆転する島まで移動して、春には帰ってくる感じかな?」

俺はそういう。

 アドバイザー神様の秘書子さんの話では、この星には7つの島があって、3つが南半球に、3つが北半球に縦に6つ並んでいる感じらしい。

 そして、赤道直下、一つだけ離れたところに一つ島があって、そこは強い魔物がいるらしいから、レベルがかなり上がるまでは上陸しない方がいいとのことだ。


「まあ、北にある島まで行けなくても、赤道付近、島を二つ渡るくらいでも冬は越せそうだしな。一応目指すのは北に島二つ渡って冬を越える感じかな?」

俺は自分なりの解答を琉生るうとこっそり聞き耳を立てている真望まもに伝える。


「そうなると、船も必要よね?」

しびれを切らしたのか真望まもが俺にそう聞いてくる。


「そうだな。俺達だけなら竹で作った『いかだ』みたいなのでもいいかなって思っていたんだけど、折角食料も集めたし、牛やニワトリも増えたし、少し立派なカヌーみたいな物を作ってみんなで移動したいな」

俺はそういう。


「私は牛さん達とお別れするのは嫌だよ?」

琉生るうが少し泣きそうな顔でそういう。


「やっぱり、すずさんあたりと相談して牛が乗っても沈まない、大き目なカヌーっぽい船を作らないとだめそうだな」

俺は琉生るうを慰めるようにそう言う。


「その為にも金属加工は成功しないとダメじゃない? いくら何でも石斧でカヌー作りはきついと思うし、島を渡ったら魔物がいるんでしょ? 武器ぐらいは作らないとね」

真望まもがそう言い、俺も琉生るうも同意する。


「小麦の収穫が終わったら、本格的に南の拠点の引っ越しと鉱石集め、そして金属加工に注力しないとな」

俺はそういう。

 まあ、小麦が保存食として加われば、干したトウモロコシと小麦で飢える事はないだろう。金属加工が成功し次第、少し積極的に動物を狩って干し肉作り、魚も捕れるうちにとって、干物にして、食料ごと隣の島に乗り込む感じかな。


 小麦を刈りながらの雑談で色々、今後の事が考えられた気がする。

 というか、単純作業すぎて、みんな話したかっただけっぽいけどな。


 15時前くらいまで作業して、ちょうど牛に積んで、俺達も持てるだけ持って丁度くらいの小麦が収穫できたので、牛に小麦を積んで拠点に帰る。途中、河原で休憩しながらゆっくり帰った。



【異世界生活 91日目 18:00】


 俺達が帰るとすずさんが中心になって牛小屋作りを進めていた。

 壁はまだできていないけど柱と骨組み、屋根はしっかりできていて雨が降っても牛が寒い思いをしなそうだな。

 なんだかんだ言って、たまに通り雨のような、スコールのような雨が結構降るからな。


 作業が一段落したところで、夕食を食べながら、小麦を刈り取りながら話した今後の話を共有する。


「やっぱり、神様はレベルアップを期待しているよね。多分、神様の力になる信仰心とかにもかかわってくるのかな?」

明日乃あすのがそう言う。


「たぶん、そうだろうな。魂が成長すると祈りの力が強くなるみたいな仕掛けなのかもな。だから、俺達や、俺たちの子孫には強くなって欲しいみたいな?」

俺は明日乃あすのの意見にそう賛同する。


「じゃあ、流司りゅうじクンとの子作りはレベルが最高になるまでお預けなのかな?」

麗美れいみさんが俺をからかうようにそう言う。

 

「少なくとも、生活が安定して、この世界が大体把握できてからだろ? 子作りは」

一角いずみ麗美れいみさんのボケをつぶすように真面目に答える。

 まあ、俺としては助かったけどな。


「まあ、その為にも、魔物と戦えるくらいの武器は用意しないとね」

すずさんがそう言う。


「そうだね。だから、小麦の収穫が一段落したら、本格的に金属加工を始めようと思う。まあ、その為にも南の拠点に置いてきた資源の回収もしないとね」

俺は鈴さんにそう言って、これからの金属加工の主任としての活躍を期待する。


「金属の材料だけじゃなくて、干したままの麻もちゃんと回収してきてよね」

真望まもがそうツッコミを入れる。

 それと、北側で新しい麻の採れる場所も探さないとな。


「まあ、そのあたりは、牛に頑張ってもらおう。今日もかなり小麦の運搬で活躍してもらったし」

俺はそう言って牛の運搬力に期待する。


「ああ、そのことなんだけど、あの峠道を牛さん越えられないと思うよ」

琉生るうが残念そうにそう言う。


「マジか? なんで?」

俺は琉生るうに聞き返す。


「今日牛さんといて実感したんだけど、牛さん、私たちが小麦刈っているときはたくさん草食べていたし、途中、川沿い歩いたのはお水飲ませる為だったんだよ。牛さん、私たちより体大きいからお水飲んだり草いっぱい食べたりしないとダメなの。あの峠には草もなければ水もない。あの峠を越えるために牛さんに積めるだけの水と牧草を積まないと峠を越えられない、つまり余計な荷物は積めないと思うの」

琉生るうがそう説明してくれる。


「水の飲める川沿いの道で、草の生い茂ったルートじゃないと牛は活躍できないってことか」

俺はがっかりする。

 この間みたいに人力で運ぶしかないか。何往復必要なんだ? 峠を越えるときは薪とか食料も運ばないといけないし。ろくに荷物は運べなそうだ。


「だったら、先に、山の探索してみない? 私の予想なんだけど、この拠点の隣に流れている川って、南の黒曜石や砂鉄拾った川と源流一緒なんじゃないかってね。こっちの川は黒曜石とか砂鉄はあまり流れてこないみたいだけど、流れてくる方向から考えるとその可能性は高いかな? って。どっちにしろ、鉱石とか探しに行きたいし」

すずさんがそう言う。


「別ルートの開拓か。確かにそっちのルートが遠回りでも、薪や水の心配をしなくていいなら遠回りする価値があるかもしれないし、どっちにしろ、そろそろ黒曜石も欲しいなって思っていたし。ちょっと山を登ってみようか? で、川の分岐を見つけて、そっちのルートで牛が進めそうならそっちのルートで引っ越し、ダメなら人力で最初使った峠を越える。それでいいかもね」

俺はそう言ってすずさんの意見に興味を持つ。


すずさんは鉱石拾いに行きたいだけでしょうけどね」

麗美れいみさんが笑いながらそういう。


「ある程度、道がなだらかで、牛さんが食べられそうな草があれば輸送量も増えるし、いいかも?」

琉生るうも状況によっては賛成って感じらしい。


「まあ、牛が越えられないような厳しい道があったら却下だけど、1回探索してみるのもいいかもな。保存食もトウモロコシを収穫しているときに倒したイノシシやシカの干し肉、魚の干物もあるし、干したトウモロコシも粉にすれば保存食になるし、探索は可能だな」

俺がそう言い、小麦の収穫が終わり次第、山の探索をしながら南の拠点に一度戻りルートを開拓することになった。

 イメージとしては今の拠点の隣を流れている川を上っていき、分岐点を見つけて下り、南の拠点で必要なものを回収、同じルートで戻り、帰りは少し鉱石を拾いながら帰ってくる。そんな感じだ。

 初回は牛を連れずに行き、2回目に牛を連れて南の拠点に置きっぱなしにした素材や鉱石を全部持ってくる。そんな感じだ。


 アドバイザー神様の秘書子さんに相談するとマップにそれっぽいルートが未踏の真っ黒いマップの上に点線で表示される。行けそうかな?

 南の拠点から峠を越えて北の拠点につくのにのに3~4日、山越えの川に沿ってのルートだと1週間、倍ぐらいかかるけど、ルートはあるようだ。


 引っ越しが終わり次第、本格的に金属加工を始める。

 そして、理想としては寒くなりだす秋くらいまでには工具を作り、カヌーのようなちゃんとした船を作って、魔物と戦う武器も作って、隣の島に移動、できればその次の島まで移動する。

 もちろん、それができない場合も想定して、この島で冬を越す準備もしておきたい。



【異世界生活 92日目~96日目 7月初旬】


 今後の予定が決まり、それから5日かけて小麦を収穫、小麦を干したり、拠点で待っているチームには牛の小屋を作ってもらったり、それと、乾燥室もついでにすずさんに作ってもらったり、完成後は留守番の明日乃あすのに乾燥室での小麦の乾燥を試してもらう。


 結構な量の小麦と麦わらが確保でき、琉生るう真望まもを中心にみんな喜んでいた。

 小麦が乾燥したら、小さいお祭りみたいなことをしてもいいかもな。パンを焼いたりうどんを作ったりして。


 そんな感じで着々と生活が良くなっていくのを感じていくのだった。


 次の話に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る