第58話 北の平地に新しい拠点を作ろう。

【異世界生活 64日目 7:00】

 

「りゅう君、朝だよ」

明日乃あすのの声で起こされる。


 昨日は明日乃あすのと俺が夜の見張り役で、久しぶりに人目をあまり気にせずイチャイチャできた気がする。

 砂糖作りで、3人、4人で別れての行動が多かったし。茶葉を摘みに行ったときは3人用のテントだったから一角いずみの寝ている横でイチャイチャするわけにもいかなかったし、明日乃あすのとイチャイチャするのはすごく久しぶりだった気がする。


 明日乃あすのも同じ気持ちだったのか、名残惜しそうに、朝のキスをして、テントから這い出る。


「昨日はお楽しみだったみたいね」

早起きのすずさんがからかうようにそういう。


「おはよう、流司りゅうじお兄ちゃん、明日乃あすのお姉ちゃん。ご飯もできているよ」

明け方の見張り担当だった琉生るうが挨拶してくれる。


「おはよう、二人とも」

俺はそう挨拶して、たき火の周りに座る。

 今日のご飯は魚の塩焼きだ。


「最近、魚が多いな。砂糖作りも落ち着いたし、拠点を移動したら食料集めをするか」

俺はそういう。


「そうだね、最近は、一角いずみさんの取ってくる川魚が主食って感じだよね。クマの干し肉もなくなっちゃったし、北の海岸沿いにバナナの木もあるんでしょ? 久しぶりに焼きバナナもたべたいよね」

琉生るうがそう言う。


「今日は拠点を移動するんでしょ? 私達で、キャンプの片付けしておくから、りゅう君は誰か誘ってバナナを採ってきたらどうかな? バナナ採り行って帰ってきたら片付けも終わっているころだろうし、そのまま、新拠点に移動する感じでどう?」

明日乃あすのがそう提案する。


「そうだな、新しい拠点からだと、バナナの木があるところは遠くなるしな。そうするか」

俺はそう答える。


 砂糖作りが一段落したので、今日は、もう少し暮らしやすいところに拠点を移動するのだ。今の臨時拠点は日影がないし、薪を集める林が遠いし、川の水が少し泥や砂を含んで濁っているし、すずさんが本格的に金属加工を始めたいらしく、水車が作れる場所に行きたい。牛が食べる牧草が豊富にあるところ、そして、飲み水が汲めるところということで、少し南に戻ったところにある滝のそば、その滝のある川から少し東に平地の方に行ったところに拠点を移す。そこにツリーハウスを作るのにちょうど良さそうな林があるのだ。そして目の前には草原が広がっている。


「おはよう」

一角いずみ真望まもが少し遅れて起きてきて、麗美れいみさんがさらに遅れて起きてくる。


 全員がそろったところで朝食を食べながら、バナナの話をする。


「そうだな。さすがにそろそろ魚も飽きてきた。私が付き合おう」

そう言って一角いずみがバナナ採りに立候補する。

 琉生るうは牛の世話もあるので片付け組に、明日乃あすのも片付け、麗美れいみさんはバナナに興味がないらしい。すずさんはお願いしている『ふるい』作りをもう少ししたいらしい。

 結果、真望まもがバナナ採りに加わることになった。


 そんな感じで、いつもの日課、麗美れいみ先生の剣道教室をやってから、俺と、一角いずみ真望まもは少し北にあるバナナの林にバナナ採りに、他のメンバーはキャンプに残って移動の準備をする。



【異世界生活 64日目 13:00】 


「結構、たくさん採ってきたね」

明日乃あすのが俺たちの採ってきたバナナを見て少し驚く。


「まあ、久しぶりだしな。3日くらいバナナ尽くしでもいいかなって。新拠点でツリーハウス作りも忙しくなるし、あまり食料確保には人手が割けないかなって」

俺はそう言って明日乃あすのにバナナを渡す。

 今日の遅いお昼ご飯は焼きバナナと焼き魚だ。


「拠点の移動ができたら、また野菜を取りに行きたいね」

琉生るうがそういう。


「私も牛さんのお世話少しならできるから、行ってくればいいよ」

明日乃あすの琉生るうにそう言う。


 とりあえず、拠点の移動ができたら、3人くらいで日帰りの探索することになった。


 キャンプの片付けも終わったようで、お昼ご飯が食べ終わると後片付けをして、拠点の移動を始める。

 琉生るうと仲良くなった牛が荷物を運んでくれるらしく、かなり移動が楽になった。

 足の遅さは気になるがそもそもみんな徒歩なので気にならないし、何より重い荷物を代わりに持ってくれるのでみんなの荷物を減らせられるし、一度で引っ越しもできるし、採りすぎたバナナも運んでくれた。


「牛は仲間にして正解だったな。牛乳も飲めるし、荷物も運べるし、琉生るうのお手柄だな」

一角いずみがそう言って琉生るうと牛を褒める。


「こっちの拠点ができたら、南の拠点から荷物持ってくるときも牛に運んでもらえばだいぶ楽になるわね」

真望まもがそう言って喜び、すずさんも頷く。

 真望まもは南の拠点に、麻を干しっぱなしだし、すずさんは銅鉱石や砂鉄を置きっぱなしにしているし、土器などの日用品も持ちきらなかった分は置きっぱなしになっている。


「薪を積んで山を登れば、途中のたき火にも困らなそうだしな」

俺はそう言って山越えの苦労を思い出す。


「でも、山の上の方は草も生えていないから、牛さんの食料とか水も持っていかないとね。あと、子牛がもう少し育たないと可哀想かも?」

琉生るうがそう言い浮かない顔をする。

 そうか。山の上の方は牛のエサや水が問題だな。子牛も引き離すわけにはいかないしな。


 そんなことを考えながら、川沿いに南に登り、川が浅くなったあたりで、川を渡り、さらに南に進み、目的の滝に到着。そこから、東に進み、川沿いの林が途切れるあたりが目的地だ。



【異世界生活 64日目 16:00】


「うん、良さそうなところだね」

琉生るうがそう言って周りを見渡す。明日乃あすのも頷く。

 牛も草原の草を美味しそうに食べている。ここなら牛も育てられて、ツリーハウスも作れる木もあって、薪も拾い放題。少し歩けば飲み水が汲める川があり、すずさんが作りたい高低差を利用した水車というのも作れそうだ。そして、川の対岸には竹林もある。


流司りゅうじ、竹を採りにいくぞ。そして私は川魚を捕る」

一角いずみがそう言って荷物の片付けもほどほどに川に行こうとする。


「行ってきていいよ。私たちが片付けしとくから。家作るのにも竹も欲しいし」

明日乃あすのがそう言って、みんなも頷く。

 とりあえず、俺と一角いずみすずさんが竹を採りに行くことになった。日が暮れるまで2時間しかないので急ぎの作業になりそうだが。

 

 急いで、竹を採り、帰ってくると、もう18時で日が暮れてしまった。

 とりあえず、当分の間はテントで過ごしながら竹を運んできて、防衛のための柵作りをして、ツリーハウスを作る予定だ。

 ある程度竹を運び終えたら、食料探しも兼ねた探索も始める。

 とりあえず、今日は少しだけ、柵を作って、夕食を食べ交代で就寝する。



 【異世界生活 65日目~67日目】


 それから3日間はひたすら俺と、琉生るう真望まもは竹を切って運んでくる作業。あと、一角いずみは魚捕り、明日乃あすの麗美れいみさんとすずさんは拠点で留守番をしながら柵やツリーハウスを作り始めたり、それに必要な荒縄を枯草で編んだりしていた。

 牛が竹を運ぶ手伝いをしてくれたので、南の拠点作りのときよりはハイペースで竹を運ぶことができた。それに30分くらい歩けば竹林なので効率もよかった。

 最終日は明日乃あすの麗美れいみさんやすずさんも交代で竹運びに参加、水浴びをしたかったらしい。


 

【異世界生活 68日目~69日目】


 今日は、竹集めも一段落ついたので、俺と、麗美れいみさんと琉生るうで日帰りで探索する。広い草原を北東、東、南東に進んでみる。

 すずさんは拠点でツリーハウス作り。明日乃あすの一角いずみ真望まもはその手伝い。一角いずみ真望まもはたまに竹を採りに行きつつ魚捕りといった感じだ。


 1日目に探索した北東はこの間、牛の群れに会ったところだ。残念ながら牛の群れには会えなかったが、前回同様、トマトやキュウリやナスといった野生の野菜がとれた。

 2日目の東の探索は、トウモロコシ畑を見つけることができた。ちょうど収穫の時期だったようで、持って帰る。トウモロコシは干して保存食にもできるらしいので、小麦の収穫時期になるまで、トウモロコシを収穫することになった。

 そして、晩御飯は焼きトウモロコシが美味しかったが、みんな醤油が欲しくなった。

 

【異世界生活 70日目】


 3日目は南東に探索に行く。

 俺と、麗美れいみさんと琉生るうの3人だ。

 1日目と2日目と変わらず、野菜や山菜などを採りながらの探索だ。

 そして、前日と大きく違ったのは、


流司りゅうじお兄ちゃん!! ニワトリだよ!! 野生のニワトリがいる!!」

琉生るうが小声だが、興奮して俺に声をかける。


「お兄ちゃん、トウモロコシ出して!! 餌付けするよ!!」

琉生るうがそう言うので、お昼ご飯用に持ってきたトウモロコシを渡す。


「ニワトリさん、ご飯だよ。美味しいトウモロコシだよ」

琉生るうがニワトリに話しかけるようにゆっくり近づきながらトウモロコシの粒を石包丁で外すとニワトリの方に撒く。

 そんなのでうまくいくのか?


「ニワトリさん、美味しいご飯食べられるよ。一緒においでよ」

琉生るうが子供か友達にでも話しかけるようにそんな声をかける。

 言葉通じるのか? テイマーのスキルって事か?


 ニワトリが首をかしげながらも近づいてきてトウモロコシを食べだす。5匹のニワトリ。なんか茶色い地鶏みたいな感じ? 野生のニワトリっぽい外見だ。


 なんか琉生るうが一生懸命ニワトリに話かけているので邪魔しないように見ている。


 15分くらい琉生るうとニワトリの会話が続いただろうか?

 自然にニワトリを2匹抱え上げると、こっちに戻ってくる琉生るう

 残りの3匹もついてくる。


「ニワトリさん達も仲間になってくれるって。これで卵が食べられるね」

琉生るうが当たり前のようにそう言うが、俺と麗美れいみさんは茫然としている。


「野生のニワトリって、そんな簡単に家畜化するものなのか?」

俺は疑問に思い琉生るうに聞く。


「テイマーのスキルじゃない? なんとなく、動物と心が通じ合うし、話すと結構分かり合えるものだよ? 基本、安全で、エサがあるならニワトリさんOKみたい?」

琉生るうがそう言って俺にニワトリを渡す。


 麗美れいみさんもよく分からないまま、ニワトリを渡されて、今日はそのまま、ニワトリを両脇に抱えて帰ることにする。

 鑑定すると、オスが2匹、メスが3匹のニワトリの群れだった。

 琉生るう的にはヒヨコを増やす気満々らしい。 

 

「りゅう君、どうしたの? それ?」

拠点についてそうそう、明日乃あすのもニワトリに驚く。


琉生るうが仲間にしたらしい。俺も全く理解できていないけどそういう事らしい」

俺も説明のしようがないので2匹のニワトリを両脇に抱えながらそう言う。


 琉生るうが、抱えたニワトリを地面に下ろすと、逃げる様子もなく、地面をつついてエサを探し出すニワトリ。


「多分、逃げないとは思うけど、柵や小屋を作った方がいいだろうね」

琉生るうがそう言ってすずさんと相談を始める。

 すずさんも理解に困っているようだ。

 テイマーという職業。謎過ぎる。


 とりあえず、早めに帰って来てしまったので、みんなでニワトリの小屋と柵を日が暮れるまで作る。

 ニワトリも少しは飛べるらしいので広めのスペースに1メートルくらいの柵を作って逃げないようにして、夜に休める小屋も作る。

 ニワトリも小屋が気に入ったようだ。


 そして、すずさんが、

「ツリーハウスに使う予定の竹がニワトリの小屋になっちゃったね」

と愚痴をこぼす。


「明日以降、俺がまた、竹を採りにいってくるよ」

そう言って、すずさんに詫びる俺。


流司りゅうじお兄ちゃん、ニワトリさんや牛さんのエサも集めないといけないから、トウモロコシもたくさん収穫してこないと」

琉生るうがそう言う。


 それから、俺は、3週間くらい、竹を採る作業とトウモロコシを取ってくる作業の繰り返し、時々野菜も取ってきたり、小麦畑を見に行ったりして収穫時期を確認する。

 あと、時々イノシシやオオカミ、それとシカにも遭遇したので倒して食料や毛皮を確保する。



【異世界生活 90日目】


 そんな感じで、探索をしながらのツリーハウス作りだったので、3週間以上かかってしまったが無事完成、北の拠点が出来上がった。

 前回、南の拠点では4軒家を作ったが、結局、明日乃あすのが俺の家に定住してしまい、明日乃あすの琉生るうが住むはずだった家が空き家になり、誰でも自由に使える家みたいなよく分からない扱いになっていたので、今回は中ぐらいの家を3軒作った。

 最初から俺と明日乃あすのが暮らす前提の家になった感じだ。

 1軒目は麗美れいみさんとすずさんのお姉さんチームの家。

 2件目は真望まも琉生るう一角いずみの家。

 3軒目は俺と明日乃あすのの家。


 ただ、一角いずみ

「どうせ、真望まもがはた織機を作ったらまた狭くなるんだろ?」

と言って、麗美れいみさんとすずさんの家に引っ越したようだ。

 実際、真望まもが竹を集め始めているようなのですぐにはた織機が復活するんだろうな。北の平地に麻の生えている場所はまだ見つかってないけど。

 

 そして、仲間にしたニワトリの卵も孵化してヒヨコがいっぱい増えていた。

 次世代が確保できたのでこれからは卵も食用にするらしい。


 なんか、牛もニワトリもいる小さな村みたいになった新拠点。

 トウモロコシの収穫も進み、食べる分以外は干して乾燥させて保存食にする。

 季節的には7月に入るらしく、夏っぽくなってきた。

 明日からは念願の小麦が収穫できそうなので牛を連れて収穫に行く予定だ。


 次話に続く。


 

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