第56話 色々あったが、拠点に戻ろう。

【異世界生活 58日目 18:30】


「ねえ、りゅう君、これからどうする? サトウキビ畑のキャンプまで戻る?」

夕食が食べ終わりそうな時間になり、明日乃あすのが俺にそう聞く。


「どうするか。キャンプまで4時間かからずに帰ることはできるけど、もう、真っ暗だしな。キャンプに残ったすずさんと真望まもが心配だけど、真っ暗な中を松明だけで進むのも危険だしな。浅瀬とは言え川も渡らないといけないし」

俺は悩む。


「牛さんも赤ちゃんも休ませた方がいいんじゃないかな? まあ、赤ちゃんは私が抱っこしてでも川は渡れると思うけど」

琉生るうがそう言う。


「担ぐといっても3~40キロくらいあるんじゃないか? その子牛? 最悪俺が担ぐよ。」

俺はそう言って俺が担ぐことを提案する。


「まあ、今日はここで休んだ方がいいんじゃないかな? 拠点はなんだかんだ言って、柵も作ってあるし、2人いれば、不意を突かれなければ大丈夫だと思うわよ」

麗美れいみさんがそういうが、武道の達人の麗美れいみさんだからそう言えるんじゃないだろうか?


「まあ、無理はしない方がいいな。すぐそばに林もあるし、薪も拾える。それに、私と明日乃あすのもちゃんと考えてテントを持ってきてあるし」

一角いずみ

 時間的に遅くなりそうと予測した明日乃あすのが3つあるテントのうち大きいのと小さいのをひとつずつ、畳んで持ってきてくれたそうだ。

 いつものように、木の間に荒縄を張って布を垂らせば簡易テントができる。


すずさんと真望まもちゃんには明日になるかもしれないとは言ってあるよ」

明日乃あすのがそう言う。


「じゃあ、ここで1泊するか。夜の移動はやっぱり危険だしな」

俺はそう言ってここで野営することを決める。


明日乃あすの一角いずみが夜の分の薪を集め、麗美れいみさんと俺でテントを張り、琉生るうが牛たちの休む場所を作る為に枯草を集めて回る。


 寝る準備ができると牛もなんかテントの側に集めた枯草でくつろいでいる。

 琉生るうのテイマースキルすごいな。


 テントもでき、牛も落ち着いたみたいなので、日課のお祈りをしてから、交代で見張りを立てながら休みをとる。

 麗美れいみさんが一人目の見張り、一角いずみが二人目の見張りで琉生るうが明け方の見張り役に決まった。

 誰かしら起きている感じになるので、今日は明日乃あすのとイチャイチャするのは無理そうだな。

 俺と明日乃あすのが2人用の小さいテント、琉生るう一角いずみが3人用の大きいテントに入って休む。

 イチャイチャはできないので静かに抱き合って寝る感じだ。

 テントと言っても麻布を紐で吊るしただけだしな。プライバシーもないので今日は静かに寝る。



【異世界生活 59目 4:30】 

 

 ん? なんか、嫌な気配がするな。そして、牛たちがそわそわしている。

 俺は、そんな気配に目を覚ますと、明日乃あすのも目を覚まし、察したようにうなずく。


「みんな、起きて、オオカミが来たよ」

琉生るうがそう声をかける。


 俺は手元に置いた槍を持ってテントをとび出る。明け方の薄明りの中、気配を消して、近づいてきたオオカミと目が合う。


「寝ている間なら子牛を盗めるとでも思ったのか?」

そう言って一角いずみは俺がテントを出るのと同時にテントから這い出しながら矢をつがえ、引き絞った弓矢をオオカミに向けて、矢を放つ。

 

 至近距離からの首へ矢の一撃。致命傷だ。

 もう1匹のオオカミが慌てて一角いずみに飛び掛かるが、俺が横やりを入れて、オオカミの脇腹に槍で一突き。琉生るうも駆け付けてきて首に一刺し。

 首に矢が刺さったまま逃げようとする1匹は、一角いずみがもう一矢放ち、後ろ足に刺さり、地面に倒れる。 

 俺が駆け寄ってとどめを刺す。


「もう安心だよ、牛さんたち」

琉生るうがそう言って牛の親子に寄り添い撫でる。


「昨日逃げたオオカミだろうな。ボスとボスのつがいのメスってところかな?」

昨日倒したオオカミより一回り大きく強そうな死体を見て俺はそう言う。


一角いずみちゃん、麗美れいみさんは寝ていいよ。って、麗美れいみさん起きてきてないの?」

明日乃あすの麗美れいみさんを探すがそもそもテントから出てきていない。

 まあ、同じテントだった一角いずみ曰く、俺達だけで倒せたから、テントから顔だけ出して、すぐテントに戻って寝だしたようだ。


 一角いずみは眠そうにあくびをするとテントに戻る。

 俺と明日乃あすの琉生るうで倒したオオカミの毛皮を剥いで素材にする。


「結構、オオカミの毛皮とか、クマの毛皮が集まってきたから、冬越えも大丈夫かな?」

明日乃あすのがそう言う。


「なんか、秘書子さんの話だと、北に数珠繋じゅずつなぎに島があって赤道越えた反対側の島に渡れば冬と夏が反転、島の移動をうまく使えば一年中寒さに怯えることはないらしいぞ」

俺は以前、アドバイサー神様の秘書子さんに言われたことを二人に伝える。


「うしさんたちもいかだに乗せて移動させないとダメだよね。結構な作業になるんじゃない?」

琉生るうがそう言う。


「しかも、他の島には魔物がいるんだよね? 魔物と戦うくらいならこの島で寒さに堪えて暮らした方がいいんじゃない?」

明日乃あすのが心配そうな顔でそう言う。


「そうだな。悩むよな。ただ、神様の話だと、魔物を倒してレベルを上げた方が安全度は高くなるし、できる事は増えるみたいだしな。すずさんの鍛冶とかも魔法と併用できたりするようになるらしいし」

俺は明日乃あすのにそう言う。


「そっか。すずさんのレベルが上がると色々作ってもらえるんだね。銅のお鍋とかも作れるようになるのかな?」

明日乃あすのがそう言う。なんか明日乃あすのはお鍋に拘るな。


「まあ、食料を蓄えたり、武器を準備したり、そして、いかだを作らないといけないから今すぐにって訳にはいかないだろうな。すずさんが武器を作れるようになってからかな? 本格的に魔物を狩りに行くのは。あと、みんながそろった時に話あってからにしたいしな」

俺がそう言うと明日乃あすの琉生るうも納得する。


「せめて、青銅製、できれば鋼鉄の槍の穂先とか欲しいな」

俺は追加でそう言う。


 そんな雑談をしながら、オオカミの毛皮を剥ぎ、二度寝する気が起きなかった明日乃あすのと俺は、軽く周りを探索して野生の野菜をもう少し見つけて採取しておく。

 

「そういえば、トマトが手に入ったから、他の野菜とかと混ぜて、ケチャップとかできないかな?」

明日乃あすのがたき火のところに戻り、朝食を作り始めながらそう言う。


「ああ、秘書子さんにケチャップのレシピ聞いたら、トマト、タマネギ、砂糖、塩、酢、コショウ、ニンニクだってさ。あと、シナモンやトウガラシ、スパイス系があると本格的になるらしいが、酢とコショウがないのが致命的だな」

俺は秘書子さんに聞いたことを明日乃あすのに伝える。


「お酢かぁ~。発酵系は難しいよね。玉ねぎっぽい山菜とかニンニクっぽい山菜はあるけどお酢とコショウはちょっと難しいね」

明日乃あすのが残念そうにそう言う。


 明日乃あすのがトマトケチャップをよほど作りたかったのか、朝食は塩味だけのトマトスープになった。トマトとナスと玉ねぎっぽい山菜とニンニクっぽい山菜、あと数種類のハーブ、それにクマ肉を入れたシンプルなスープだ。



【異世界生活 59目 7:00】


 二度寝した一角いずみ麗美れいみさんも起きてきて朝食を食べる。


「調味料が足りないが、結構美味しいんじゃないか? このスープ?」

一角いずみがトマトスープを食べて褒める。


「そうだな。溶かし玉ねぎとか、ニンニクっぽい野菜を煮込んであるから結構濃厚で上手いな」

俺は明日乃あすのの手伝いをしながらレシピも知っているのでそう褒める。

 コショウがないので、味はボケるが、煮込んだ野菜がブイヨンっぽい味を出して美味しい。


「以前から思ってたけど、明日乃あすのちゃんは料理上手よね」

麗美れいみさんがスープを味わいながらそう言う。

 ちなみに麗美れいみさんは料理も洗濯も落第点だ。


「うちはお母さんも働いていたから、中学生くらいから夕食作りを手伝い始めて、最近では夜遅くなるお母さんの代わりに料理作ることも多かったからね」

明日乃あすのがそう言う。

 明日乃あすのは勉強もしつつ、家事もしていたらしい。凄いな。


「あー、コショウが欲しいな。あと唐辛子。できれば醤油も欲しい」

一角いずみがそうぼやく。


「一応、秘書子さんに聞いたら、もっと北の方にある赤道直下の島にコショウと唐辛子があるらしいし、その先の島には大豆があるらしい。ただ、コショウと唐辛子のある島は魔物も強いらしいぞ」

俺もこの世界にコショウがないか気になって秘書子さんに聞いたらそんな答えが返ってきたので伝える。


「コショウがあるのか。それは魔物を倒してGETしないとダメだな」

一角いずみがそう言って魔物狩りにやる気を燃やす。


一角いずみちゃんは魔物狩る気満々だね。怖くない?」

明日乃あすのが心配そうに言う。


「いつかは狩らないといけないんだろ? 放っておいたら増えるかもしれないし、倒せるなら倒した方がいいだろ? 逆に魔物の方が攻めてくる危険性だってあるかもしれないし、レベルは上げておきたい」

一角いずみがそう言う。

 あまり考えずに、行動できる、一角いずみのこういうところは見習いたいよな。


すずちゃんが武器とか作れるようになってからかな?」

麗美れいみさんがそう言って、みんな頷く。


 そんな感じで雑談しながら朝食を終え、キャンプを片付けると、サトウキビ畑の側の臨時拠点に向けて帰路につく。

 牛の親子も普通についてくるので、仲間として迎え入れる。

 途中、子牛が疲れていそうだったので、俺の荷物を麗美れいみさんに任せて、俺が子牛を抱っこして進む。

 生まれたての子牛とは言え、40キロくらいあるんじゃないか?

 異世界効果、ステータスによる筋力強化がなかったら、こんな重い物持って長距離は歩けないだろうな。ステータス効果、恐るべし。   

 川も子牛を抱っこして渡り、渡ったところで、昨日倒したオオカミの毛皮を洗ったり、女の子達は交代で水浴びや洗濯をしたりしてから、お昼過ぎくらいにサトウキビ畑に戻ってきた。

 拠点ではすずさんと真望まもがサトウキビの収穫と皮むきをしていた。


 お昼ご飯は採ってきた野菜をすずさんと真望まもに披露する。


「トマトにキュウリ、久しぶりで美味しいわ」

真望まもがそう言って感動しながら食べている。鈴さんも美味しそうに野菜を食べる。


「これから、どうする?」

俺は昼食を食べながら、小麦の収穫はまだ早かった話をみんなにして、今日明日の予定を決める。


「小麦が収穫できるようになるまで、砂糖作りの継続と、お茶の葉っぱも取りに行きたいね。ただ、私は、牛さんが慣れるまで、牛さんのお世話で動けないかな」

琉生るうがそう言う。

 当分の間、琉生るうは砂糖作りを手伝いながら牛の世話をするらしい。子どもが落ち着けば牛乳も搾れそうだしな。


流司りゅうじ、できれば、今日の午後は海に行きたいんだが。塩をストックしておかないとまたすぐになくなるからな」

一角いずみがそう言う。こいつは塩にうるさいからな。

 ちなみに、サトウキビ畑から1時間半くらい北に歩けば北の海岸につくらしい。

 

「じゃあ、大き目の土器を持って海水多めに汲んできちゃった方が良さそうね。私も手伝うわよ」

そう言って、麗美れいみさんが海水汲みに立候補する。


 俺と、一角いずみ麗美れいみさんが海まで行って海水汲み。

 他の4人が砂糖作りをする流れになった。


 そして、明日からは、俺と一角いずみ明日乃あすのでお茶の葉っぱを採りに行くことになった。収穫作業も考えて1泊以上になる予定だ。



【異世界生活 59目 14:00】


 昼食後、今日は忙しいので麗美れいみ先生の剣道教室はお休み、午後は予定通り、俺と一角いずみ麗美れいみさんで土器を持って海水を汲みに行く。

 明日乃あすの達がサトウキビ畑に来るときに持てるだけ土器も持ってきてくれたが、少し数が足りない気がする。北に正式な拠点ができたら、一度、南の拠点に戻って本格的な引っ越しもしないとな。


流司りゅうじ麗美れいみさん、私は1時間くらい、魚捕りをするから、そこの岩場でイチャイチャしていていいからな」

一角いずみがそう言って、水中眼鏡と銛代わりの水中用の小型の弓矢を持って海に入ろうとする。


「何言っているんだ、一角いずみ!! あと、サメとか気をつけろよ。あんまり沖に出ないようにな」

俺は慌てながらそう言い、一角いずみの心配もする。そのせいで、ちょっと会話がおかしくなった。

 不慣れな海は危険もあるから注意はしておきたい。


流司りゅうじクン、一角いずみちゃんの言葉に甘えちゃおうっか? お姉さん、そろそろ、しっぽ噛み噛みして欲しいなって、我慢できなくなりそうだったの」

麗美れいみさんがそう言って、猫のような尻尾を妖艶に揺らす。


「じゃ、じゃあ、向こうの岩場に行く? あそこなら一角いずみにも見えなそうだし、一角いずみに何かあったらすぐ駆け付けられそうだし」

俺も、麗美れいみさんとイチャイチャするのは嫌いではないので、どもりながらも快諾してしまう。



☆☆☆☆☆☆ 



 岩場の合間にある砂浜で、寝転ぶ、俺と麗美れいみさん

 麗美れいみさんは俺の尻尾甘噛みテクニックに何度も満足してくれたようで、蕩け顔でぐったりしている。


流司りゅうじクン、上手になったよね? 明日乃あすのちゃん相手に毎日頑張ってるから上達しちゃったのかな? お姉さん、ちょっと妬けちゃうな」

麗美れいみさんがからかうようにそう言ってほほ笑む。


「別に毎日はしてないし」

俺は慌てるようにそう言う。

 俺と明日乃あすのが夜の見張りになった時だけだし、実際イチャイチャしているのは。それに明日乃あすのは尻尾であまり感じないみたいだしな。


「まあ、お姉さんとしては、そっちのテクニックも上達してくれればくれるほど嬉しいけどね。凄く気持ちよかったし」

麗美れいみさんがごろんとうつ伏せになり、砂浜に肘をついて、からかうような視線で俺を見つめ、ほほ笑む。


麗美れいみさん、回復したなら、戻るよ。海水も汲まないといけないんだし」

俺はそう言って照れを隠すように立ち上がり、一角いずみが魚捕りしている方に歩きだす。

 

「もう、お姉さんが流司りゅうじクンともっと愛を語りたかったのに」

麗美れいみさんが俺を冷やかすようにそう言うと笑いながら立ち上がり、俺の横に並んで歩きだす。


 そのあと、一角いずみと合流して、土器にたっぷりの海水を汲んで、一角いずみが取った魚を軽くさばいてから槍に吊るして干しながら、臨時拠点に戻るのだった。

 まあ、1時間程度、海に潜っただけなので、大小、5匹の魚しか捕れず、一角いずみは不満そうだったが。


 あと、海岸沿いにバナナの木もあったので、今日は海水が重くて持ち帰れないが、みんなに教えてあげよう。


 夕食は、一角いずみの取った魚をトマト煮込みにする。やっぱり、コショウが足りないが、ニンニクっぽい山菜と玉ねぎっぽい山菜がいい味をだしているし、トマトもナスもいい味が出ていた。


 食後は海水を煮詰めながら塩づくり、明日の遠征の準備もする。石斧や石包丁を研いで準備したり、荒縄やテント、保存食や水を荷物にまとめたりする。


 21時にはみんなでお祈りをしてから交代で睡眠をとる。

 俺と一角いずみ明日乃あすのは明日から遠出するので、見張りは免除と言われたが、昨夜、拠点ではすずさんと真望まもは2人で交代して寝たらしいので疲れてそうなので二人を休ませることも優先し、結局、俺が最初の見張り、2番目が麗美れいみさん、明け方が琉生るうという順番で交代しながら睡眠をとる。


 明日は、お茶を摘みにいって、帰ってきたら、正式な拠点づくりを始め、小麦が実ったら収穫、そんな予定だ。


 次話に続く。

 


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