第52話 砂糖作りと琉生の気持ち。

【異世界生活 49日目 7:00】


「おはよう、琉生るう一角いずみ

「ああ、おはよう」

「おはよう、お兄ちゃん」

俺の挨拶に、一角いずみ琉生るうが答える。

 

 夜の見張りの順番が固定になっているせいか、毎朝同じような感じが続く。

 最初の見張りの一角いずみは十分睡眠がとれているのか朝が最近早い。

 夕方と明け方が強いということで、明け方担当の琉生るうはそのまま、朝食を作る感じ。

 見張りが真ん中の俺は、前後に睡眠が分かれるので、寝不足気味、いつもぼーっとした感じで起きてくる。 


流司りゅうじ、調子悪そうだな。夜の見張りの順番代わるぞ?」

一角いずみがそういうが、やっぱり、男としては一番つらい部分を女の子にはさせられない、意地みたいなものもある。

 まあ、人手不足ゆえに、重い荷物とか持たせちゃったりしているけどな。

 なるべくなら、大変なことは俺が率先してやりたい感じだ。


 琉生るうがすでに作ってくれていた朝食を食べつつ、今日の作業の打ち合わせをする。


「サトウキビの汁を絞る石臼もどきが、完成までもう少しかかりそうだ。俺が今日中に仕上げるから、一角いずみ琉生るうはサトウキビの収穫と皮剥きを頼む。黒曜石のナイフだと刃がかけるかもしれないから、収穫は石斧で、皮むきも磨製石器のなたの方でやってくれ。こっちなら刃が丸まっても砥げばまた使えるしな」

俺はそう言って、石斧より少し石が薄くて、なたのような形に近づけた石のなたと収穫用の石斧を渡す。を二人に渡す。


「石のなたはもう少し数があった方がいいかもな」

一角いずみがそういう。

 そうなんだよな。荷物になるからと2本しか持ってこなかったから、刃こぼれしたら代わりがない。


「石臼ができたら、俺がまた作るよ」

俺はそう言って、ある分でやってもらうようお願いする。


「流れとしては、サトウキビを収穫してきて、固い皮を剥く。で、中の繊維を石うすでつぶしやすい太さと大きさに切る、なるべく細かい方がいいかもしれない。その作業までを一角いずみ琉生るうにして欲しい」

俺はそう言って作業を割り振る。

 

 朝食を終わらせ、日課として始めた一角いずみの杖術教室を1時間ほどやる。


 そういえば、こないだのクマを倒した経験値と、食べて得た経験値で俺もレベル11になることができた。

 神様の話では明日乃あすのもレベル11になったそうだ。拠点の方はちゃんと剣道教室をやっているみたいだな。

 少しの差だが明日乃あすのに経験値が抜かれてしまったようだ。 


 久しぶりにステータスも確認してみた。


名前:りゅうじ

職業:スカウト


レベル 11(ステータス合計121)


ちから   27

すばやさ  26

ちりょく  18

たいりょく 25

きようさ  25


信仰心 低


HP 25


マナ/レベルアップに必要なマナ 34/121

スキル使用枠/スキル習得可能枠 90/121


スキル

①生活級 料理(0) サバイバル術(10)

     獣化解放(10) 木材加工(10)

     動物解体(10) ゾーン解放(10) 

②初級  投擲(20) 剣術(20) 

     槍術(20)

     

ギフト オーラ使い



 なんかバランスタイプの器用貧乏みたいなステータスになったな。一角いずみより、素早さが少し高い感じか?

 あと、色々スキルが追加されていた。

 それと、この間の、すずさんがやられそうになって、とっさに出たスキルは『ゾーン解放』というスキルらしい。集中すると、時間がゆっくりになったような気になるスキルだそうだ。

 それと、スキルには、まさにスキル(技術)と魔法に別れるらしい。

 技術の方はマナを使わない代わりに疲労が溜まる。魔法はマナを消費するという違いがあるらしい。俺は今のところ魔法を習得できていない。

 それと、神様がギフトをくれた。

 オーラ使い。要はマナを効率よく変換して、自分のHPの回復を早めたり、少ないマナで回復できたり、あと、一時的にHPを上げたり、ちからやすばやさを上げたりすることもできるらしい。後者はマナが必要になるが。

 まあ、劣化版、獣化解放? 獣化解放と比べて効果はイマイチだが筋肉痛にはならないらしい。

 前衛で積極的に戦闘するともらえるギフトらしい。前衛向けのギフトだな。


 杖術教室を終え、各自作業に入る。


 俺は近くで石を拾ってきて、サトウキビの汁を絞る石臼をひたすら削る。

 石臼の下のパーツをすり鉢状に、上のパーツを独楽や逆さにしたカサみたいな形にして、上の石の重さと、上の石を回してすりつぶして汁を搾るイメージだ。


 尖った石を別の石で叩いてノミのようにして削っていったり、ざらざらした石で、表面を擦って削ったり、最後は上のパーツと下のパーツをこすり合わせて削り、隙間の無い構造にしていく。これは根気のいる作業だな。


 一角いずみ琉生るうはそれぞれが抱えられるだけのサトウキビを取ってきて、俺の側で皮むきと細断をする。細かくしたサトウキビは土器に入れて、乾燥しないように葉っぱのふたをしておく。俺の石臼が完成するまで、ひたすら皮を剥いて細断して土器に入れるの繰り返し。

 ただ、サトウキビの皮は竹のように固く、中の繊維も石包丁で切断するのに苦労するような繊維の固さ。なかなか思うように作業が進んでいないようだ。


「サトウキビの皮、固すぎるよ」

琉生るうが悲鳴をあげる。

 皮を剥くというより、なたで繊維に沿って裂くイメージみたいだが、とにかく、竹のように硬くて、石のなたもすぐ刃が丸まってしまうようだ。

 途中、石のなたを石で研磨し直して、皮むきを再開する。


「思った以上に重労働だな」

一角いずみもそう言って、サトウキビに悪戦苦闘している。


「鋼のナイフでもあればいいんだろうけどな」

俺は2人にそう言う。


「だよね、無人島で暮らすにしても、ナイフやナタがあるとないとじゃ雲泥の差だよ」

琉生るうがそう言って、手に持った磨製石器を眺めてため息をつく。


 そんな感じで、3人で雑談しながら、気を紛らわしながら作業をしていく。


「そろそろいいか?」

俺はそう言って、石臼を上下合わせて少し動かして見る。隙間はなさそうだな。


一角いずみ琉生るう。ちょっと、俺、水を汲んでくるな。石臼、このまま使ったら、砂糖に石の破片が混ざりそうだしな。あと、持ち上げたり、回したりしやすくするために着ける棒も探してくる」

俺はそう言って二人に断りを入れて水汲みに行こうとする。


「私も行くよ。水汲み一人じゃ大変でしょ?」

そう言って琉生るうがついてきてくれる。

 確かに土器1個分の水だと洗い流せる気がしなかったのでありがたい。


 二人で土器を持って川の少し上流をめざす。サトウキビ畑のあたりの水は泥や砂で少し濁っていて、生活用水としては使えなそうな感じなのだ。


 二人で並んで話をしながら歩く。


「そういえば、一角いずみさんから、お兄ちゃんと琉生るうは夫婦みたいなことはしないの? って聞かれたよ。私はしてもいいと思うけど、おにいちゃんはどう?」

琉生るうがそう言う。

 俺は、その話を聞いて焦りまくる。

 一角いずみ琉生るうに何を聞いているんだ?


「お、俺にとって、琉生るうは妹みたいな存在だから、今の関係をもう少し続けたいと思っているんだが、琉生るうは不満か?」

俺はそう答える。


「うーん、お嫁さんになりたい琉生るうとしては不満だけど、妹としての琉生るうは妹として大事にしてくれている気持ちも凄く嬉しいんだよね。でもね、みんなと仲良くしているお兄ちゃんを見ているとちょっと不満、ううん、不安になることもあるかな?」

琉生るうがそう言って少し寂しそうな顔をする。

 16歳なら、恋愛していてもおかしくない年だもんな。子どもから大人になる難しい年ごろって感じか?


「そうだ、お兄ちゃん、キスしようよ。妹からちょっとだけ恋人に進むおまじない。お兄ちゃんがキスしてくれたら、不安じゃなくなると思うの」

琉生るうがそう言って悪戯っぽく俺の顔を覗く。


「キ、キスだけだぞ。琉生るうはなんだかんだ言ってもまだ16歳なんだし、夫婦になるっていうのはもう少し大人になってからだからな」

俺はそう言って、琉生るうの押しに負ける。


「それじゃあ、ん~~~~」

琉生るうがそう言って、荷物を地面に置くと、目をつぶって、俺に唇を突きだす。

 琉生るうのリスのような尻尾が左右に揺れている。かなり期待している?


 俺は、琉生るうの押しに負け続け、荷物を地面に置くと、琉生るうの唇に俺の唇を重ねる。

 琉生るうの下唇を軽くついばむ感じで、ゆっくり琉生るうの柔らかい唇を味わう。


「満足したか?」

俺は口を放すとそう言う。


「満足というか、びっくり。お兄ちゃんのキスが上手で、大人のキスっぽくてちょっとびっくりしちゃった」

琉生るうがそう言って興奮する。まだまだ、子どもっぽいな。

 琉生るうのイメージでは口と口が触れるくらいのキスを想像していたってことか。やりすぎたか?


「なんか、ずるいな。明日乃あすのお姉ちゃんとかは、もっとすごいキスとかしてもらっているんだろうな。琉生るうと今度するときは、もっとすごいキスしてよね」

そう言って琉生るうがちょっと怒りだす。


琉生るう、そういうところだぞ。まだ子供だっていうのは。大人の女性は、ここでムードを作って、男にもっとキスをしたくさせる。そういうのを勉強してからだな」

俺は笑いながらそう言って、荷物を拾い、歩き出す。

 やっぱり、琉生るうには大人のキスは早すぎたな。


 その後、川で水を汲み、石臼を持ちやすくするための棒に良さそうな流木を5~6本拾う。イメージ的にはお神輿の棒みたいに4本組んで持ち上げたり回したりしやすくする感じだ。片道30分、往復1時間くらいでキャンプに帰る。


 琉生るうは何もなかったかのように、いつもの妹のような琉生るうだった。


 陽も傾きだしたので、急いで石臼を汲んできた水で洗い、枯草を束ねて、たわしのようにして、石の破片が残らないようにしっかり洗う。

 そして、洗い終わったところで、石臼に拾ってきた棒を組んで、荒縄で縛り固定する。石臼の側面に彫った溝と棒が上手くかみ合い、イメージどおりの石臼ができた。


 石臼というかお神輿というかよく分からない、サトウキビ絞り機が完成した。

 

 早速、1日かけて、皮を剥き、細かく刻んでくれたサトウキビを石臼の窪んだ方に入れて、上から尖った方の石を、お神輿のように組んだ棒をうまく使って、俺と一角いずみで乗せ、そのまま二人で時計回りに回ってうすを回転させたり、うすに座って体重をかけたりする。


「なんか面白そう!!」

琉生るうがそう言って、石臼に3人で座る。とにかく重さで絞る作戦だ。


「これくらいでいいか?」

やりすぎなくらい、体重をかけて、石臼を回してから一角いずみに聞く。


「いいんじゃないか? 見てみよう」

一角いずみがそう言うので、二人で石臼の上の部分を持ち上げ、琉生るうがのぞき込む。


「一応できてそうだね」

琉生るうが微妙な反応をする。


「どうした? ダメだったか?」

俺は石臼の上の部分を置くと、琉生るうに聞きながら石臼の窪んだ方を覗く。


「少ないな」

「ああ、少ない」

俺がそう言うと、一角いずみも覗いてそう言う。


「まあ、繊維の部分もとりだして絞れば、少しは汁も出るんじゃない?」

琉生るうがそう言う。


「そういえば、搾るといえば、麻布ないぞ。せないんじゃないか?」

俺は致命的な失敗に気づく。濾す布がない。


「ああ、これくらいなら、真望まもさんから貰ったハンカチがあるから、それで濾して、繊維も搾ればいいんじゃないかな?」

琉生るうがそう言って荷物の中からハンカチより少し大きめの布を出す。

 なるほど、これなら濾せるな。そして、クマの油を濾すにはこの1枚じゃ足りないから諦めたって訳か。

 油作りに使うには小さすぎるし、目がすぐつまるから布の枚数が必要なんだよな。


 とりあえず、そのハンカチを土器の口に合わせ、琉生るうが押さえ、俺と一角いずみでうすの下の方を持ち上げ、こぼさないようにくぼみに溜まった汁を絞った繊維ごと移す。


 移し終わったら、最後に琉生るうが麻布で繊維をうまく包むと、ぎゅーっと搾り、残りのサトウキビの汁も絞り出す。

 繊維に甘みが残っていそうだったので繊維に水を含ませてもう一搾りする。

 一応、サトウキビの搾り汁らしきものが出来上がった。


【異世界生活 49日目 18:00】


 少し茶色く濁って、繊維のカスなど不純物も混ざっているのでそのまま、放置し、ちょうど夕食の時間なので、夕食を作り、夕食を食べて、たき火の明かりで作業を続ける。

 琉生るうは昼行性のリスのけもみみのせいか、夜弱いのと、夜目が俺たちほど効かないので先に就寝する。

 

 残りは一角いずみと俺で作業する。

 1時間以上放置して、ごみを沈殿させたサトウキビの搾り汁をもう一度布で濾し、竹筒の水筒に移し替えると、土器にお湯を張り、湯煎で煮詰める。

 直火だと温度が高すぎて、カラメルになってしまうらしいし、竹筒にしたのは固まってしまった時に、表面がざらざらな土器より削ぎ落しやすそう、最悪、こびりついてしまったら、竹なら二つに割ってヘラでそぎ落とすこともできるだろうということで竹の筒に入れて湯煎することにした。


 竹で作ったヘラで、かき混ぜながら、サトウキビの搾り汁を湯煎していく。少し粘り気が出だしたら、竹筒がらそぎ落とすようにかき混ぜ、湯煎を続ける。


 こびりつく手前で、湯煎からとり出し、あとは水気の減った搾り汁を練るようにかき混ぜ、そぎ落としながら、少しずつ湯煎してさらに水分を飛ばす。


 そして、とうとう、スプーンで数杯程度の量だが、少し茶色い、黒糖のような砂糖が出来上がった。

 一角いずみと俺と、爪の先ぐらい、ほんの少し、味見してみる。


「うまっ!!」

「美味い。そして甘いな」

俺も一角いずみも口をそろえてそういう。

 久しぶりの砂糖に感動すら覚える。不純物を含むので少し、コクのある、まさに、黒糖のような味のする自然の味がする砂糖が出来上がった。


「これは、みんな、喜ぶぞ。明日からもっと頑張ってもっと作ろう」

一角いずみがそう言ってやる気を出す。

 苦労の割には少ししか砂糖ができなかったが、ひと舐めして、作った価値を痛感した。俺も明日から砂糖作りを頑張ろうと心に決めるのだった。


 次話に続く。



 

 

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