第29話 土器の焼き上がりと麻布作りの準備
【異世界生活 13日目 14:00】
「さて、土器が焼きあがるまで、麻布作りの下準備でもするか」
俺は昼ご飯が終わり少しまったりした後でそう言う。
「火は見ていなくて大丈夫なのか?」
「まあ、火加減を見ながら薪を足せばいいだけだし、別の作業をしながらでもできるだろ?
俺がそう答えると、
「で、
俺は手芸裁縫が得意な
「大体ならね。とりあえず、水に浸けて皮を腐らせた麻の茎を、棒で叩いて繊維を柔らかくするの。その後は、」
「じゃじゃん!」
そう言ってくしの化け物? みたいな、 とがった竹串がいっぱい突き出た木の棒を取り出す
「これで、すいて、麻の繊維を細かくしつつ、ゴミも取り除くの」
「なんかどこかで見たことあるような、ああ、社会だか歴史だかの教科書で見た、稲の脱穀する時に使う、なんだっけ、うーん、そうだ、
俺は小学校の社会の記憶を思い出しそう言う。
「そそ、そんな感じ。このくしみたいな機械に麻の繊維を通すと繊維がが細く裂かれて、表面に残った皮も取れる感じ? これで、取れない皮は手で取って繊維を綺麗にする感じね。で、1個だと作業効率悪そうだから、私、もう一個作るから作っている間、
とりあえず、俺、
少し太めの木の棒でひたすら麻の端から端まで順番に叩く。全体が柔らかくなるまで何度もたたく。麻の茎自体が1メートル以上あるので叩くだけでも一苦労だ。しかも結構な数の麻の茎の束がある。
「こりゃ、叩くだけでも1日がかりかもしれないな」
俺は叩きながら泣き言をいう。
「今日は水浴びどころじゃないな。残念ねぇ」
「竹も取り行きたいけど、明日かな?」
麗美さんに答えるようにそう言う。
「今回は量が多くないんだから、叩いて、千歯扱き通して繊維にするところまでやるんだからね。それに、繊維ができてもそこから繊維をよって、麻糸にするのはもっと根気がいるし、布を織るのなんてさらに大変なんだからね」
俺たちの隣で千歯扱きモドキを作っている
「麻布ができれば下着が作れるわね。頑張るしかないかな。下がすうすうする感じはやっぱり落ち着かないし」
麗美さんがそう言って、棒を振り上げて麻の茎を叩く。
そうか、みんなノーパンだし、ブラジャーとかも欲しいのかもしれないな。女の子は色々大変だ。
とりあえず、俺も頑張ることにした。布ができればと色々やれることも増えるしな。
3人頭を並べて、黙々と木の棒で麻の茎を叩く。
「こんなもんでどうだ?」
俺は麻の茎を端から端まで何度も何度もたたいて柔らかくなったものを
「そうね、とりあえず試作みたいな物だからこのくらいでいいかしらね。本当は専用の道具があって、それがあればもっと柔らかくできるんだけどね」
なんか
「繊維が柔らかくなったら、これの登場ね。このくしみたいなやつですくことで繊維が細かくなって余分な部分も取れるの。結構ゴミが出て、麻糸として使える繊維が減るけど、がんがんすいちゃってね」
ここからは
そこから、また黙々と地味な作業が続く。千歯扱きもどきで麻の繊維をすいた後は、さらに今朝、
「こんなもんでいいかしらね」
時間はもう、20時近い。
「結構、麻の繊維って残らないものなんだな」
俺は、繊維をすくことによって出るごみと残った繊維を見比べて、使える繊維が半分以下に減っていることにがっかりする。
「繊維のいい部分だけ残そうとするとこんなもんよ。初めてにしてはいい物ができたんじゃない? 本当はこれをさらに漂白したいんだけどね。漂白剤、ダメなら重曹とかあればよかったんだけど」
「重曹か。作れないことはないみたいだけど、鉱石集めとか大変だし、不純物を取り除いたり、抽出したりするのが難しいみたいだな。素人にはちょっと無理か」
俺は気になったので、アドバイサーの神さま、秘書子さんに聞いてみたが、作ることは可能だが難し過ぎる内容の作り方を教えてくれた。原理としては塩水の電気分解だが純粋な重曹を作るのが難しい。鉱石を利用する場合は鉱石をとかして二酸化炭素を加えて加熱すると結晶化したものが重曹らしい。ただしその鉱石はこの島にはないそうだ。
「前にもいったけど、科学の知識があっても結局、原料、純度が高い原料や、酸やアルカリ水溶液、そういったものが容易に手に入らないから化学薬品は作れないのよね。原料がすぐに手に入るという文明こそ科学の根本なのよね」
そこらへんの川や山で石を拾ったり、温泉や塩湖で水溶液や酸やアルカリを汲んできたりで原料にするなんてことは基本的に不可能。そこから純度の高い物質を取り出すことに膨大な作業や時間、人の手、他の原料も必要になったり電気や燃料も必要になったりする。電気なんてそれこそ作るのが大変だ。
俺たちは、製造過程としては比較的簡単で100円ショップでも売っていたような重曹すらろくに作れないのだ。
「まあ、そこらへんは、仲間が7人揃った後、祈りの力が貯まったらある程度融通させることもできるから腐る必要はないぞ」
突然後ろから声をかけられる。
振り返ると、いつものおっさん。神様が宙に浮いていた。
「神様!?」
「神様?」
俺はおどろいて、声を上げて、その声に他の仲間たちも驚く。
「よっ」
気さくに挨拶を返す神様。
「まあ、力の無駄使いになるから簡単に言うが、仲間を7人召喚した後、祈り続けてくれれば、祈りの力が貯まり次第、希望の物をこちらの世界に生むことはできる。例えばナイフとか薬とかもな。ただし、複雑な構造の物、こちらの世界では原料が確保しにくいものなど、こちらで再現するのにかなりの神の力が必要だとかなりの祈りの期間が必要だからな。ちなみに最新式のサバイバルナイフなら7人で祈って1か月コースだ。簡単な抗生剤1週間分だと2か月コースだな」
あっけらかんとそう言う神様。
「ちなみに異世界らしく、鋼の剣、鋼の鎧なんてコースもあるぞ。2~3か月は祈ってもらうけどな。おっと、力がもったいない。もう少ししたら6人目も呼べそうだから期待してくれ」
神様、そうやって、言いたいことだけ言うと消えてしまった。
「今のが神様?」
そう言えば
「まあ、あんまり腐るなよって、アドバイスしに来てくれたんだろうな。ナイフ1本でももらえるなら生活が大分楽になるだろうし、薬が常備できるなら、もしもの時に助かるし」
俺は麗美さんと
「まるで、神様が常備薬の営業マンみたいな言い方だね」
「いま、神様来ていたのか?」
少し離れたところにいた
「ああ、まだ、神様の力がカスカスみたいでほとんど話できなかったけど、仲間が7人揃ったあとは、祈りの量に応じて欲しい物をくれるらしい。ちなみにサバイバルナイフは1カ月くらい祈れだってさ。難しいものほど祈りは必要っぽいな」
俺はあとから来た二人にも説明しておく。
「ナイフは欲しいね。あとお鍋とか?」
「醤油や味噌、調味料が欲しい」
「やっぱり私は医薬品かな」
「私は鏡。よくうつる姿見の鏡が欲しいわ」
「俺もとりあえず、ナイフかな? のこぎりとか
俺はそう言って欲しい物を並べる。
「まあ、7人揃ってからって話みたいだけどね」
「ちょうどいいから、ご飯たべよ? 晩御飯できたよ」
晩御飯を食べた後は、焼いた土器を確認する。
「結構割れちゃったね」
そして、実際に水を入れてみると、水漏れやヒビが入って使えない物もでて、実質使えるものは2割、3個ほどの鍋代わりの土器と水瓶が一つ、皿や小さな器やコップが少し残った感じだ。
「とりあえず、この使えるものでしのいで、自然乾燥している分も乾き次第焼こう。そして、時間があるときにまた土器は作ればいいしな」
俺はそう言う。
「でも、使えそうな土器が残ってよかったよ。実は、今日、土器ができることを前提にして、いのししの脂を残しておいたんだ。油作ろ? 油作って石鹸も作ろ?」
少しだがイノシシの脂を残しておいたそうだ。今日から水で煮て油を煮出すことになった。今日の夜の見張り役の仕事が増えたな。そして、昨日、多めに水を汲んできてよかったよ。
明日からは麻糸作りと油を作りながら、石鹸の材料集めかな?
次話に続く。
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