第28話 土器を焼こう

【異世界生活 13日目 8:00】


「おはよう、りゅう君」

「ああ、おはよう、明日乃あすの

俺と明日乃あすのは同時に目が覚める。そして腕に抱きつく明日乃あすの。こういう生活もいいな。

 少しだけいちゃいちゃして、シェルターからもそもそと這い出す俺と明日乃あすの


「おはよう、真望まも。夜は特に何もなかったか?」

「おはよう、真望まもちゃん」

俺と明日乃あすのは昨夜の最期の見張り番の真望まもに挨拶をする。


「特に何もなかったわ」

そう言って、黙々となにかを作っている。


「何作っているんだ?」

俺は真望まもに聞く。


「くしね。石で少しずつ削るのが面倒臭いけど、時間かければ作れそうね」

そう言って、俺に竹細工の串を見せてくれる。

 まだ、くしの歯? は数本しかできていないが丁寧な作業で確かにくしに見える。


「のこぎりみたいな物があればもっと早く作れるんだろうけど。あと、石をヤスリにして削っているからどうしてもくしの歯の幅が大きくなっちゃうのが難点よね」

真望まもが少し不満そうにくしを見てまた黙々と削り出す。

 こういう、細かい作業を黙々とできるのは真望まもの才能だよな。


「すごいよ、真望まもちゃん。櫛できたら私も貸して欲しいかも」

明日乃あすのが興奮する。女の子達は手櫛で何とかしているらしい。


明日乃あすの、これなら貸してあげるわよ。試作品だけどこっちの方が作るのは簡単かもしれないわね」

そう言ってくしのようなものを明日乃あすのに渡す。

 くしというより竹製の爪楊枝を竹の棒にたくさん並べて樹液と麻糸で固定した感じの物?

 多分、今作っているのは自分のこだわりというか趣味で作っているくしなのかもしれない。 

 

「ああ、これならみんなで頑張れば作れそうね。後で作り方教えてね」

明日乃あすのが嬉しそうにそう言い、試しに髪の毛をといてみる。上手に髪の毛をとかせている。


「おはよう。お、いい物持っているな。私にも終わったら貸して」

一角いずみが起きてきてそう言う。

 やっぱりみんな女の子だし、美容には興味あるようだ。

 黒曜石が手に入ったので、竹を縦に割ったり形を整えたりするのが比較的容易になったからくしや竹串みたいなものが作れるようになったみたいだ。ただ、黒曜石は欠けるのも早いみたいで刃こぼれを修復するのにまた時間がかかってしまうそうだ。

 やっぱりナイフが欲しいよな。


 そんな感じで雑談しながら朝食を作り始める。イノシシ肉の干し肉を茹でて戻し、山菜と炒めた野菜炒めっぽいなにか。


 一角いずみは朝食を作る間何かを作っている。


一角いずみは何を作っているんだ?」

俺は気になって聞いてみる。


「ああ、薄くはがれた黒曜石があってね。それを磨いたら、透明度はそんなにないけど、サングラスのレンズみたいな物ができそうだから、竹と動物の皮を使って水中眼鏡を作ろうと思ってね」

そう言って磨いている手のひらサイズの黒曜石を見せてくれる。

 なるほど。確かに向こう側がなんとか透けて見えるくらい半透明のガラス片ができている。


「いいな、魚捕りが楽になりそうだ」

俺がそう褒めると、「そうだろ?」って嬉しそうに答える一角いずみ

 レンズができたら竹の筒に樹液で固定して竹の筒を目の周りに合わせて削って獣の皮に樹液で固定するらしい。

 樹液接着剤万能だな。樹液を溶かして細かくひいた灰を混ぜるといい感じでパテみたいになることを秘書子さんに教えてもらったので試したら万能接着剤に大化けしたのだ。

 

 なんか、何もないなりに、みんな工夫して生活をよくしようとみんな頑張っているようだ。


 そんな感じで、俺と、明日乃あすので朝食作り、真望まもはくし作り、一角いずみはレンズづくりをして、朝食が出来上がる。


「おはよう」

眠そうな顔で起きてくる麗美さん。この人は、本当に駄目姉さんだな。

 俺の顔を見て俺が言いたいことに気づいたのか、


「昨日は見張りの順番が真ん中だったから熟睡できなかったのよ」

麗美さんが聞いてもいないのに言い訳をする。まあ、確かに、見張り番の真ん中は前後に分けて寝ないといけないので後半寝付けない感じはあるけどな。


 そんな感じで全員揃い、朝食を食べながら今日の予定を決める。

 今日は、午前中薪集めをして、土器を焼く。焼いている間は暇なので、たき火で乾かした麻の繊維を叩いて麻糸にする作業をすることになった。


流司りゅうじ、麻布を織る織機が作りたいから竹を採ってきて」

真望まもがそう言う。


「お、真望まも、織機の作り方わかるのか?」

俺は気になって聞き返す。


「簡単な物ならね。本格的な物も作れるとは思うけど、それはまだ先の話かな」

真望まもが自慢げにそう言う。実際元の世界で布を編んだこともあるらしい。

 裁縫や手芸がらみのことは真望まもにお任せだな。


 俺は気になって、布を織る織機の仕組みを聞いたが、下糸と上糸の切り替えの構造案を教えてもらったところ本当にすごいなと思った。そして時間はかかるだろうけど竹を根気よく削って組み合わせれば確かにできそうな構造ではあった。


「はた織機を作るときは俺に言ってくれ。俺も手伝うから」

俺は真望まもにそう言う。麻布作りが始まると、真望まもに作業のウエイトがかかり過ぎている気がする。美容関係もやりたいみたいだし。


「それと、竹がいっぱいあるみたいだし、落ち着いたら、ツリーハウスみたいに木の上に家を作った方がいいかもね。虫とか獣対策になるし」

麗美さんがそう言う。


「だったら、もう少し、黒曜石を拾った川に近いところに家を作った方がいいか? ここらへんの木はツリーハウスに向かなそうだしな」

俺は周りを見渡しそう言う。

 ここ、キャンプの付近はバナナの木やヤシの木が多いし、その先の森は幹が細い、背の低い木が多い気がする。この間行った黒曜石が落ちていた川の手前に結構立派な木が生えた森があったのでそこを新拠点にするといいかもな。


「あんまり川に近いところはダメだよ。黒曜石が流れてきていたってことはたまに洪水がある川の可能性があるし」

明日乃あすのがそう言う。

 そうだな。川沿いは一見便利そうだが洪水には要注意だ。


 そんな話をしながら朝食を終え、いつもの剣道(槍術?)の特訓をしてから、俺と明日乃あすのと麗美さんで薪を集める。

 一角いずみ真望まもはたき火の番をする。

 一角いずみは水中眼鏡づくりに夢中だし、真望まもはみんなにくしを作って欲しいと依頼されて、簡易版の方のくしを量産することになったらしい。

 なんか、みんなに必要とされて、円の中心にいる真望まもを見るとちょっとうれしくなるな。


 なんか、神様もそういう事を考えて、現実世界で不完全燃焼な俺達を選んだんじゃないかって気がしてきた。


 お互い好き合っていたのにもう一歩が踏み出せなかった、俺と明日乃あすの

 明日乃あすのとの距離が縮められない、そして俺への恋心もあった一角いずみ

 医学への興味と父親の死に対する使命感が極端すぎて、生活能力ゼロで生活破綻しかけていた俺の家庭教師の麗美さん。

 ギャルのふりをしているけど、本当は地味な性格で人との付き合いが苦手だけど、人一倍寂しがり屋で、本当は人一倍構って欲しがり屋で孤独だった真望まも

 なんだかんだ言って、この世界に来て、みんなで助け合って、救われている気がしてきた。


「どうしたの? りゅう君」

一緒に薪を集めていた明日乃あすのが聞いてくる。


「いや、この世界に無理やり連れてこられて、最初は戸惑ったけど、結果的には良かったんじゃないかなって思ってね。多分、向こうの世界じゃ、俺と明日乃あすのもあのままの関係だったらこんな仲良くできていなかったんじゃないかなって」

俺はそう言う。


「そうだね。りゅう君も私もこっちの世界に来て、急に積極的になったし、りゅう君、なんか男らしくなった。こっちに来てからのりゅう君も好きだよ」

明日乃あすのがそう言って笑う。

 確かに向こうの世界じゃ、俺、なんかうじうじしていたもんな。明日乃あすのもなんか吹っ切れた感じがあってさらに魅力的になった気がするし。

 俺もそう思って明日乃あすのに笑い返す。


「はいはい、新婚さん達、いちゃいちゃしてないで薪を集める。いちゃいちゃしていると、お姉さん邪魔しちゃうぞ。そろそろ流司りゅうじクンを借りたくなってきちゃったし」

麗美さんがからかうように俺達に言う。


「そうだね。たまには、りゅう君と麗美れいみさんで、水浴びしてくれば? 麗美さん、最近、水浴びしてないでしょ?」

明日乃あすのがそう言う。


「いいのか?」

俺は明日乃あすのに気を遣う。


「正妻の余裕? というか、やっぱり、みんなにも幸せになって欲しいかなって。ここはそういう世界なのかもなって、自分と折り合いがついたというか、りゅう君が私の事一番好きって言ってくれれば我慢がまんできるかなって感じ?」

明日乃あすのがちょっと難しそうな顔でそう言う。

 折り合いをつけた。難しい言葉だな。納得したわけじゃないけど仕方ないみたいな心境か?


 神様が男同士で喧嘩しないようにと男を一人だけ召喚、俺を中心にハーレム化したこの異世界。女の子たちはそれぞれ納得できない部分はあるだろうな。俺がそれを理解しようとする努力をして、謙虚にしなければ、だれか女の子の心に負担がかかってしまう。特に明日乃あすの真望まもあたりは気をつけないと。


 そんなことを考えながら何度か森とキャンプを往復して薪を集める。なるべく乾いた、倒木や折れた枝をかき集める。それと、明日乃あすのが藁みたいな燃料も必要と言うので、藁のような枯草も集める。   


 薪が集まったので、早速土器を焼いてみる。

 藁の様な枯れ草を山にしてその周りに土器を並べてさらに枯草をかぶせる。その上に薪を積み重ねて着火。薪にぶつかったり、土器同士がぶつかったりして割れないように気をつけて並べた。

 初めは、弱火で焼き、だんだん強火に、半日焼いたら出来上がりだ。


 土器を焼き始めたころに、ちょうどお昼の時間になったのでお昼ご飯を食べる。


「土器、ちゃんとできるかな? ちょっと楽しみだね」

明日乃あすのがお昼ご飯を食べながらそう言う。


「そうだな。まあ、初めてだし、ダメもとでやった感じだし、何割か残ればいいかなって感じでいいんじゃないか? 将来的には陶器みたいな本格的な器とかもつくりたいな」

俺はそう言う。将来的には釉薬ゆうやくとかも研究してすべすべの食器が作りたいな。まあ、アドバイサー神様の秘書子さんがいるから時間さえあれば何とかなりそうだしな。


 とりあえず、俺も土器がちゃんとできるか楽しみだ。


 次話に続く。

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