第27話 黒曜石の試し切りと真望の気持ち

【異世界生活 12日目 15:00】


 一角いずみが黒曜石のやじりを試したいときかないので、森に入る俺と一角いずみと、なぜか真望まも

 獲物を探して進む俺と一角いずみ真望まも明日乃あすのから山菜の採取依頼をされたようで山菜を探している。それと虫よけの草? こっちは麗美さんからの依頼だろうか?

 とりあえず、飲み水を汲むために泉に向かう。

 一角いずみの期待に反し、イノシシはおろか、鳥の1匹もみあたらない。


「結局、槍も弓矢も使わないまま、泉に着いちまったな」

俺は一角いずみにそう言う。


「まあ、帰りもあるから」

一角いずみはそう言う。諦めてはいないようだ。


「それじゃ、とりあえず、水を汲んで、粘土を採り行って、さっさと帰り道に獲物をさがさないと。それとも、粘土を先に取り行くか? 汚れてから水浴びの方がいい気もするし」

俺は一角いずみにそう言う。

 

「ああ、粘土は今から私が採りに行ってくるよ。1時間くらいかかるから、その間、流司りゅうじ真望まもはいちゃいちゃしていていいから」

一角いずみがさらっとそう言ってきびすを返す。


「は? 何言っているんだ?」

「そうよ、私と流司りゅうじがいちゃいちゃってなに?」

俺と真望まもが声を揃えてそう言う。


「二人とも、そして私も気づいているんだよ。この世界に呼ばれたってことはお互い無意識でも好き合っているってね。そのあたりは、早めに認めてしまった方が楽だぞ。だから、今日のこの時間を作る為に麗美さんも協力してくれたって事。まあ、明日乃あすのが不幸になるのは嫌だけど、仲間にモヤモヤされ続けているのも嫌だしな。素直になったほうがいいぞ」

一角いずみがイケメンな感じで捨て台詞を吐いて、粘土が採れる崖の方に歩いていく。何あのイケメン? まあ女の子だけどな。


 一角いずみが遠くまで歩き、見えなくなるまで、沈黙が続く。


「そ、そうなのか?」

俺はおそるおそる聞く


「っぅぅ!! そ、そうよ、悪い? 好きでもない男の子と彼氏彼女のふりとかする訳ないじゃない!! 頭が悪いのに頑張って、偏差値足りない高校受ける訳ないじゃない!! 好きな男の子を振り向かせるために高校入ったらお化粧とかファッションとか髪型とか考えていっぱい努力した事、気づいて欲しかったの!! 流司りゅうじ明日乃あすのちゃんの事が好きって知っていたけど、無駄なあがきをしていたわよ、悪い?」

真望まもが怒ってそう言う。

 そして徐々にいかり肩だった肩を下ろし、小さく縮んでいく真望まも。そしてぽろぽろと涙を流し出す。


「好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない。私を見てくれていたのが流司りゅうじくんだけだったから仕方ないじゃない。私には流司りゅうじクンしかいなかったの」

真望まもが涙声でそう囁く。

 まるで、中学生のころの真望まもを彷彿させるような口調としぐさで。


真望まもは昔っから変わってないな」

俺はそう言って真望まもの頭を抱えて、頭を撫でながら抱きしめる。


「そう、変わってないの。地味で、人と話すのが苦手で、教室の隅に埋もれてしまうような女の子。それでも私を見てくれていたのが流司りゅうじくんだよ」

真望まもがそう言ってぽろぽろと涙を流す。


 俺は、中学生の時、同級生の真望まもに最初に声をかけた時、なんかおかしな手芸道具でよく分からないものを一人で黙々と作っている女の子がいるな。くらいのつもりで、興味本位で話しかけて、俺の知らない物を見せてくれて、俺の知らないことを教えてくれて面白い奴だなって話すようになって、手芸以外でも結構面白い事を知っている奴だなって、友達気分で声をかけていたのに、真望まもにとっては俺の存在は俺と違い、かなり大きかったって事か。俺にとっての明日乃あすのみたいな存在が俺だってって事か?


「同じ高校に入れなくて、流司りゅうじくんに今度会った時に驚かせてやろうって、なんとか流司りゅうじくんを振り向かせたいって、春休みの間一生懸命ファッションや美容の勉強をして、高校デビューして、偶然かもしれないけど、街中で一生懸命読んだファッション雑誌に読者モデルとしてスカウトされて、流司りゅうじくんに凄いって言って欲しくていっぱい努力して、自分を変えたくって頑張ったけど、結局何も変わらなかった。私は私のままだったし、流司りゅうじくんは明日乃あすのちゃんが好きなまま、しかも私が一生懸命頑張っても、流司りゅうじくんの中の私は、中学校のころの地味な私のままだった」

そう言って自分を自嘲するように笑う真望まも


「俺は今の真望まもも昔の真望まもも好きだぞ」

俺はなんて声をかけていいか分からず、そう言うしかなかった。


「それって、友達として好き。だよね?」

真望まもがそう言う。


「ごめん。俺にとっての一番は明日乃あすのでやっぱりそれ以外は考えられないんだ」

俺はそういうしかなかった。


流司りゅうじくんが明日乃あすのちゃんがいない世界っていうのを想像するのは無理だと思うけど、もし、明日乃あすのちゃんがいない世界があったとして私が流司りゅうじくんに好きって告白したら彼氏になってくれた?」

真望まもがそう聞いてくる。


「そうだな、明日乃あすのがいない世界なんて考えられないけど、俺が、俺じゃない、好きな女の子がいない普通の同級生の男子だったら、真望まもに好きって言われたら、嬉しいと思うぞ。真望まもは素直で可愛いし、本当は面白い奴だって知っているし。そして、今の真望まもも中学生の時以上に可愛くなったと思う」

俺はそう答えるしかなかった。


 その答えを聞き、真望まもが、ぐーっと俺の体を引き離す。腕を伸ばして、距離を置くように。


「あんたの気持ちは分かったわ。それに私の気持ちも整理できた。そしてこの世界のルールも」

突然口調の変わる真望まも。いつもの、読者モデルになってからの高飛車で背伸びした真望まもだ。


「私は流司りゅうじが好き、流司りゅうじ明日乃あすのが好き、神様は子孫がたくさん生まれて欲しい。だったら、流司りゅうじは私のセックスフレンドになりなさい。もう、一方的でいいわ。私が流司りゅうじの事を好きだから流司りゅうじを抱く。その間だけ明日乃あすのを忘れて私の物になりなさい。我慢して、その時だけ私の物になって」

いつもの高飛車で勘違い系なギャルの真望まもの口調でそういう。そして最後だけは弱々しい本当の真望まもが出てしまう。


我慢がまんじゃないよ。真望まもは本当に可愛いし、明日乃あすのがいなかったら付き合って自慢したいくらいいい女だよ」

俺はそう言ってもう一度、無理やり抱きしめる。


「じゃあ、今だけ、今だけでいいから、嘘でもいいから、相思相愛な彼氏のふりをして。多分それで、明日からも頑張れると思うの」

弱々しく、素直な真望まものまま俺にそういう。そして、口を少し開けて、俺の顔に吸い寄せられるように近づく。

 俺も吸い寄せられるように真望まもの唇に唇を合わせる。

 そして、真望まもがこっちの世界に来た時から触りたくてしょうがなかった狐のモフモフの尻尾を優しく撫でた。 



☆☆☆☆☆☆



流司りゅうじ、私が我慢できなくなったら体貸しなさいよね」

真望まもが強気な口調でそう言う。

 二人で泉に浸かりながら、真望まもは俺に背中を向けて湧き水が滝のように落ちてくる場所でシャワーを浴びるようにしながらそう言う。


「なんか、すまない」

俺はなんて答えていいか分からず謝る。


「いいの。私が流司りゅうじを抱きたい時に抱くの。それでいいでしょ?」

真望まもが高飛車な口調でそう言う。


「それに、明日乃あすのちゃんに一途な流司りゅうじくん、そんなところも嫌いじゃないし」

真望まもが俺に聞こえないようにぼそっとそんなことをつぶやく。

 SNS上の嘘の彼氏という立場よりはマシになったかもしれないがセックスフレンドは厳しいな。

 真望まもの精いっぱいの強がりが少し微笑ましくなって笑ってしまう俺だった。


「あと、普段、尻尾と耳を触るの、絶対禁止だからね!」

真望まもがちょっと怒りっぽくそう言う。

 尻尾を撫でたり耳を噛んだり耳の中を触っただけで、気持ちよさそうに何度もイッていたくせに。まあ、俺も触っていて気持ちよかったけど。



【異世界生活 12日目 17:00】


 俺達が水浴びをして着替え終わるころ、一角いずみも粘土と砂を回収して戻ってくる。

 

一角いずみも水浴びするか?」

俺はそう声をかける。


「なんだ、それは、私も誘っているのか? 私ともイチャイチャしたくなったか?」

一角いずみが意地悪そうに笑う。


「違う、違う、そう言う意味じゃない。純粋に粘土掘ってきて汚れただろって話なだけだ」

俺は全否定する。


「分かっている。とりあえず、水汲みとイノシシの毛皮を洗ってからな」

一角いずみが当たり前のようにそう言い返すので逆に俺が恥ずかしくなった。


一角いずみともそう言う関係なんだ」

真望まもがジト目で俺を見る。

 俺は、何も言い返せなかった。


 とりあえず、イノシシの毛皮を下流の皮で洗っている間に一角いずみに水浴びをしてもらう。

 真望まも一角いずみが見える範囲で山菜とりをする。



「結局、獲物がいなかったな」

一角いずみが残念そうにそう言う。


「まあ、時間も遅かったし。これ以上粘ると暗闇の中で猛獣と戦うことになるしな」

俺はそう言って周りを見渡す。

 キャンプのそばまで帰ってきたが結局、イノシシはおろか、鳥の1匹も見つからなかった。

 まあ、昨日、イノシシ肉も補充できているし、明日乃あすの麗美れいみさんに頼まれたものも採取できたし、水も汲んできた。まあ、目標は達成ってことか。


流司りゅうじ、気を抜くな!!」

突然、叫ぶ一角いずみ

 そして、俺のすぐそばの茂みから何か大きなものが飛び掛かってくる。

 俺は反射的に持っていた槍で大きな動物らしきものから身を庇う。そしてその重さと勢いで地面に倒される。


流司りゅうじ!!」

真望まもが驚きながら声を上げる。


 俺の上に覆いかぶさってきたのは、大きなオオカミ。2日目に襲ってきたオオカミの生き残りか?

 風下から音を立てずにやってきて潜んでいたってことか? 3人とも耳が生えて五感が研ぎ澄まされたはずなのに誰も気が付かなかった。


真望まも、やれ。流司りゅうじが食われるぞ」

一角いずみが大声を上げる。

 真望まもも慌てて、持っていた槍で狼の肩のあたりを突きさす。

 傷が浅いが、オオカミは警戒して俺から飛び退く。俺も急いで立ち上がり槍を構える。

 そして状況判断すると、オオカミは2匹。一角いずみは俺に襲い掛かったオオカミとは別の、もう1匹のオオカミと対峙しているようだ。


「これじゃあ、弓矢の出番がないじゃないか」

一角いずみが余裕そうに弓矢を捨てて槍を構える。


 何故かはわからない。レベルが上がったせいなのか、オオカミの数が少ないせいか、最初に会った時よりなぜか心に余裕はある。


真望まも、戦闘には慣れていないだろうから、自分の身を守ることに徹しろ」

俺は真望まもにそうアドバイスする。


 オオカミは俺に襲い掛かるか、真望まもに襲い掛かるか一瞬迷ったが、俺に襲い掛かる。まあ、それが正解だな。真望まもに襲い掛かっていたら確実に俺がオオカミを仕留める。


 俺はバックステップをし、距離をとりながら槍の柄の方を大きく横に薙ぐ。

 オオカミの横っ面を槍の柄で殴り付けオオカミが一瞬怯む。

 その隙を逃さず、矢の柄の方、元々黒曜石をつける前は槍の先であった尖った木の先でそのままオオカミの首のあたりを刺す。


真望まも、とどめを!」

俺がそう言うと、真望まもがはっとしたように気を取り戻すと、慌てて、オオカミの心臓あたりを黒曜石の槍で刺す。


 そして一角いずみの方をみると、首の横から大きく貫かれたオオカミの死体。

 俺に2匹で同時に襲い掛かろうとして一角いずみにあっさり横から突かれたようだ。


「あー、俺、黒曜石の切れ味確認できなかったよ」

俺は槍の反対側で突いてしまったことを後悔する。


「なかなかいい切れ味だったぞ」

一角いずみがそう言って、オオカミに深く刺さった槍を抜き取る。


 真望まもも慌てて槍を抜くが、黒曜石の穂先が肋骨に引っかかったようで穂先が抜けて体内に残ってしまう。

 慌てる真望まも


「ああ、大丈夫だ。今から毛皮剥ぐからその時に取り出すから」

俺はそう言って首に一突き、致命傷を与え様子を見る。


「え~、毛皮剥ぐの?」

真望まもが嫌そうな顔をする。


「オオカミは食べられるらしいぞ。犬を食べる国もあるくらいだからな」

真望まもを脅かすようにそう言う俺。さすがにオオカミは犬っぽいので食べる気がしないが、ただ殺すのももったいないので毛皮だけは有効活用させてもらおう。


「食べるのか?」

一角いずみが嫌そうな顔をする。


「あくまでも、食べられるってだけだ。さすがに食べないだろ?」

俺はそう言って、オオカミが動かないことを確認すると毛皮を剥ぎだす。


「なんかちょっと可哀想」

真望まもがそう言う。確かに見かけは犬っぽいしな。


「まあ、サバイバルだから仕方ないと納得してくれ。それに、この島、今は温かいけど、冬もあるらしいからな。備えは重要だぞ。」

俺は真望まもにそう言って毛皮を剥ぎ続ける。黒曜石のナイフを手に入れたので今まで以上に毛皮が剥ぎやすくなった。

 

 一角いずみも自分が倒したオオカミの毛皮を剥ぎ、早く終わった俺が一角いずみの毛皮剥ぎを手伝い、2匹分の毛皮が手に入った。また川に洗いに行かないとな。


 毛皮以外の部分を全能神様にお祈りしてマナに還す。4分の1が経験値として帰ってくる。魔物だと2分の1、動物だと4分の1ルールが意味不明だ。

 そして、俺の経験値が貯まり、レベル9にレベルアップした。


 キャンプのすぐそばだったので、そのまま帰り。明日乃あすの麗美れいみに結果報告。オオカミ2匹しか獲物がいなかったことを報告する。麗美さんが意地悪そうな顔で笑う。真望まもと逢い引きさせる気満々だったってことか。

 昨日捕ったイノシシもいい感じに干し肉として乾かされているし、あれから一生懸命塩を作ってくれたらしい。しかも煮詰めた海水をろ過する為に、繊維にした麻で簡単な麻布も作ったらしい。


「やっぱり、麻布と土器は早急に必要だな」

俺がそう言う。


「土器と言えば、たき火で乾かしてみた土器を焼いてみたらどうかな? 結構乾いていると思うけど」

明日乃あすのがそう言う。

 この数日、麻の繊維と土器の一部をたき火で乾燥させているのを思い出す。


「そうだな。明日あたり焼いてみるか?」

俺はそう答える。天日で1週間ちょい、たき火で2日ほど乾かしたので行けるかもしれないな。


「それと、たき火用の薪もだいぶ減ってきたし、明日は薪集めをしてから土器を焼こう」

俺がそう言い、明日の作業も決まって、夕食をとる。

 イノシシ肉の脂身が多い部分、干し肉にならない部分を食べきる。


 食後は各自思い思いの作業をして、歯磨きをして、日課の神様へのお祈りをして交代で寝ることにする。今日の見張りは、一角いずみ麗美れいみさん、真望まもの順番で、今日は誰かしら起きているので明日乃あすのとのいちゃいちゃは無しだった。普通に抱き合うようにして寝る。


「りゅう君、真望まもちゃんとした?」

明日乃あすのが寝ようとした俺に耳元でささやく。


「知っていたのか。一角いずみ麗美れいみさんが気を利かせたらしい。なんかごめん」

俺は明日乃あすのに謝る。


「りゅう君にとって私が一番ならいいよ。神様の思惑を考えると、私だけって訳にはいかなそうだし、他の女の子もりゅう君のことが好きだってなんとなくわかるし。ちょっと寂しいけどね」

明日乃あすのがそう言って寂しそうな顔をする。

 なんか、明日乃あすのの話では、真望まもが俺の事を好きだってことは中学のころから気づいていたらしい。


「りゅう君は女の子に興味ないような顔して、女たらしだからね」

明日乃あすのはそう言って俺の脇腹をつねる。


「でも、こんな世界に来ちゃったせいか、他の女の子にも幸せになって欲しいかなって気持ちも出てきちゃって難しいよね」

明日乃あすのがそう言う。

 俺も明日乃あすのを大事にしたいが、他の女の子の気持ちを無下にするのも気が引ける。男の身勝手な考えなんだろうけどな。

 俺も何も言えないまま、明日乃あすのを優しく抱きしめるようにして眠りについた。

 こんな世界に、変な神様のせいで理不尽に連れてこられてしまった女の子達。ちゃんと心のケアも考えないといけない時期なのかもしれない。 

 

次話に続く。

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