第26話 黒曜石で刃物を作ろう

【異世界生活 12日目 8:00】


「おはよう、明日乃あすの、見張りご苦労様」

俺はステータスウインドウの時計についているアラームで起きて明日乃あすのに挨拶をする。


「おはよう、りゅう君。ご飯できているよ」

そう言って明日乃あすのが昨日採ったイノシシの肉、脂身が多い部分を串焼きにして焼いてくれている。


 結局、昨日はイノシシを捌いて、薄切りにして、海水につける作業で夜になってしまった。

 それと、一角いずみがレベルアップしてレベル9になっていた。


「おはよう、いい匂いね」

「おはよう。今日はどうする?」

真望まも一角いずみが起きてきて、少し遅れて麗美さんがだるそうに起きてくる。


 朝ご飯をみんなで食べながら今日の予定を考える。

 とりあえず、明日乃あすの麗美れいみさんが昨日海水につけたイノシシ肉を干し肉にする作業、俺と一角いずみ真望まもが昨日拾ってきた黒曜石を石器として加工する。

 

「りゅう君、黒曜石を加工する時、イノシシの牙使うといいかもよ? 昔見た動画で動物の角使って仕上げをすると細かく砕けていい感じに尖るらしいよ。石で割ると細かいところが上手く割れなくてどうしてもうまくいかないみたい?」

明日乃あすのがそう言う。とりあえず、朝食をとりながら明日乃あすのが知っている限りの黒曜石の加工方法のレクチャーを受ける。

 俺もアドバイザー神さまの秘書子さんに色々聞いて情報共有する。

 そして、昨日、イノシシの牙とか骨を少し残しておいた方がいいって言ったのはそういう事か。というか、骨は加工すれば他にもいろいろ使えそうだもんな。


 そんな話をしながらイノシシの肉100%の朝食を食べ終わり、日課の剣道の特訓をしてから各自作業を開始する。


「あ、レベル上がったみたい」

明日乃あすのがそう呟く。麗美れいみさん指導の剣道の特訓は結構ハードなせいかレベルの低い俺達には結構いい経験値になるみたいだ。明日乃あすのがレベル8になった。


「ああ、私も上がったわ」

真望まももレベルが上がったらしい。レベル7だ。


 剣道の特訓もそうだが、イノシシやクマの肉を食べるとマナ(経験値)が増えるのでそれも地味に効いているのかもしれない。


 ちなみに現在の仲間のレベルはこんな感じだ。 


流司りゅうじ レベル8

明日乃あすの レベル8

一角いずみ レベル9

麗美れいみ レベル10

真望まも レベル7


 麗美れいみさんはレベル11になるにはスマホゲームでいう進化みたいなのが必要らしくてレベル1から10上がるまでマナ(経験値)がもう1回必要らしい


 結構この世界、ゲーム要素もあるみたいで、レベルが上がると確実に筋力や動きが良くなっている気がする。

 例えば、俺のスキル、投擲にしてみても投げられる石の大きさや投げた時のスピードや正確性が上がっているので、初めてイノシシと戦った時より、昨日のイノシシとの戦いの方が格段に楽になっていた。これがステータスの効果ってやつか?


 そんな感じで順調にレベルを上げつつ、サバイバルもしっかりやらないと死活問題、特訓の後は各自作業に移る。


 俺、一角いずみ真望まもは黒曜石の加工だ。

 それぞれ、作業台になりそうな大きな岩の上に黒曜石を置きなるべく大きい石をハンマー代わりになるべく薄く割れるように叩き割っていく。


「結構、固いし、上手く割れないものね」

真望まもが苦戦している。


「結構、適当に割って、良さそうな物をピックアップしていく方が楽な気がするぞ」

一角いずみはそう言って結構豪快に割っていく。


「とりあえず、黒曜石は切れ味が良いが、刃こぼれするのも早いらしいから、石斧とか切れ味がそこまで必要ない物や摩耗が激しい物は今まで通り普通の石を研磨した方が良さそうだな。使うとしたら、ナイフの代わり、槍の穂先、矢のやじりあたりかな?」

俺はそう言う。石斧として使うには割れやすい、大きな刃物を作るのは難しそうだしな。


 3人が作りたいものを聞いていくと、俺は石包丁と槍の穂先、一角いずみは石包丁を作りつつ、矢のやじりを作りたいらしい。真望まもはとにかく、カミソリになりそうな鋭い刃物だそうだ。


「それじゃあ、とりあえず、槍の穂先になりそうな黒曜石、もしくは石包丁をめざしつつ、失敗して小さく割れてしまったものをカミソリに、小さいものでも形が良さそうな物はやじり使う。そんな感じでどうだ? いきなりやじりめざして作ってしまうと失敗で失う黒曜石が多そうだしな」

俺はひたすら鏃を作る気満々な一角いずみとひたすらカミソリを作りそうな真望まもをけん制する。


「そうだな。それも一理ある。今一番必要なのは全員が使えて攻撃力のある槍だしな」

一角いずみが賛同してくれる。真望まもも理解したのかしぶしぶ同意する。


「それと、石斧とかに使えそうないい感じの大きさと薄さで割れたものは取っておいてくれ。切れ味のいい石斧も必要になるかもしれないからな」

俺はダメもとでそう言っておく。黒曜石で大きな刃物を作るのは結構難しみたいだからだ。


 そんな感じで、とりあえず、3人とも槍の穂先や石包丁をイメージして黒曜石を割っていき、一度共有して自分の必要な黒曜石をピックアップしていく。


 真望まもが求めるカミソリは割れたときに黒曜石に大きさは関係なし、切れ味だけ必要なので早めにたくさんのカミソリになりそうな黒曜石を手に入れることができたようだ。

 一角いずみも失敗作に近い細かい破片が逆にやじりにいいと、比較的小さくて形のいい物をピックアップし、そこからさらに細かい作業をして鏃っぽい形で前面が鋭く切れ味のいいやじりをめざしていく。 

 俺は槍の穂先に使えそうな比較的大きく、形もいい物をさらに槍の穂先っぽく加工していく。明日乃あすのがさっき言っていたように動物の骨や角で削ぐように割るといいとのことなので、イノシシの牙や尖った骨を使って槍の穂先らしく加工していく。

 真望まもも、カミソリは確保できたので俺を手伝ってくれる。俺の見よう見まねで槍の穂先を作ったり、石包丁を使いやすく、さらに切れ味が良くなるように仕上げたりしていく。


「そういえば、真望まも。大きな黒曜石の表面を綺麗に磨くと明るいところ限定にはなるが鏡代わりにもなるらしいぞ。まあ、研磨にものすごく時間がかかるし、電源切ったスマホの画面とか車の窓を鏡代わりにする程度の代物らしいけど、何も無いよりはマシだろ?」

俺は黒曜石の豆知識も教えてやる。


「そうね、じゃあ、この黒曜石あたりは残しておきましょ? 大きく平らに割れていい感じだから、この塊は私がもらうわね」

そういって、綺麗に平らに割れた大き目な黒曜石をキープする真望まも。暇な時に磨くらしい。


「そうだ、土器ができたあと、イノシシかクマを倒せたら油をとって、石鹸を作りましょ? 石鹸、というか、泡が無いと、流司りゅうじも髭剃りできないじゃない?」

真望まもが言う。

 そう言えばそうだな カミソリ代わりの黒曜石がたくさん作れても、水で髭剃りはちょっとカミソリ負けしそうで怖い。女の子達も石鹸があった方がいいだろうしな。

 

「そうなると、貝がらも集めないとな」

俺はそう言う。石鹸づくりには強アルカリ溶液が必要で、強アルカリ溶液を作る為には灰と焼いた貝殻が必要らしい。灰はたき火から意識して集めるようにしているが、貝は準備していない。鍋代わりの土器ができたら集めた方が良さそうだな。


 そんな雑談をしながらやりの穂先を俺と真望まもで作っていると、


流司りゅうじ、ちょっと木の樹液取ってくる。槍の穂先を接着するにも使うだろ?」

一角いずみがそう言って立ち上がる。とりあえず、良さそうな矢の鏃ができたので着けたくなったって感じか?


「穂先を固定するのに麻糸とかあった方がいいんじゃない?」

真望まもがそう言う。


「そうだな。この間皮剥いて干した麻の繊維を少し分けてもらうか。まだ半乾きだろうけど」

俺は真望まもの意見に賛成する。


 結局、俺が槍の穂先作り、真望まもが麻紐づくり、一角いずみが木の樹液取りをすることになった。


一角いずみ、あんまり遠くに行くなよ。気をつけてな」

俺は一角いずみにそう言うと


「ああ」

そっけなく手を振り森に入っていく一角いずみ。護身用の槍と弓矢を持って


 真望まもも麻の繊維を貰ってきて繊維を細く裂いて糸をよっていく。


「布にするときはもっと柔らかくないとダメね。木の棒とかで叩いて繊維を柔らかくしないと」

そう言って真望まもは麻糸作りに苦戦している。

 作業用の麻糸なら十分すぎるけどな。俺は真望まもの作った糸を見てそう思う。


真望まも、糸をよるのも上手だな」

俺は感心してそう言う。


流司りゅうじは知っているでしょ? 私の趣味。こういうのは中学のころよくやっていたし」

手を止めずにそう言う真望まも

 手芸全般が趣味だったもんな、真望まもは。

 俺も手を動かさないとな。俺はいい感じに割れた黒曜石を槍の穂先っぽく加工していく。石で叩いたり、イノシシの牙や骨でそぎ落としたりしながら。

 黒曜石は研磨するより割った方が切れ味は良さそうだな。


 そんな感じでそれぞれ作業していると、一角いずみも返ってくる。固まった樹液を結構採ってきてくれたようだ。

 一角いずみは、たき火から種火を貰ってきてこっちにもたき火を作る。そして平らな石を加熱し、加熱したところで松やにっぽい木の樹液を溶かし矢の先に鏃を接着、真望まもが作った麻糸で縛って、樹液で固める。


「お、いい感じじゃないか?」

俺は一角いずみの矢を見て褒める。


「このあたりの木は削って矢が深く刺さるようにしないとダメだな。流司りゅうじも槍の穂先を着けるときにこのあたりは工夫した方がいい」

そんな感じで一角いずみと改良案を考える。

 なるほどな、木も上手くとがらせないと黒曜石の穂先と木のつなぎ目で止まってしまいそうだ。


 槍の穂先ができたので、俺が今まで使っていた木の槍の尖らしていない方に穂先をつなぎ合わせる。一角いずみの取ってきた樹液と真望まもが作った麻糸でつなぎ合わせる。


「反対側につけるのか?」

一角いずみが不思議そうに聞く。


「ああ、穂先が外れた時、反対側も使えた方がいいかなって」

俺がそう答えると、一角いずみもなるほどとうなずく。


 その後も分担して、俺は槍作り、一角いずみは矢を作り、真望まもは麻糸をよってくれる。

 

 途中で、昼食を食べ、午後も作業。人数分+予備の槍を数本作って気づいたら15時になっていた。


「ちょっと、弓矢と槍を試しに行こう」

一角いずみがそう言って立ち上がる。

 こいつは、順応しすぎだ。


明日乃あすの麗美れいみさん、ちょっと一角いずみが黒曜石の鏃をつけた矢を試したいらしいからちょっと森にいってくる」

俺は明日乃あすの達にそう伝える。


「えー、私も森に行きたい。山菜とか取りたいし」

明日乃あすのがそう言う。


明日乃あすのも槍を試すか? 目標はクマ殺しだな」

一角いずみがそう言う。


明日乃あすのちゃんは干し肉干しが終わってないでしょ? あと、塩も作らないといけないし」

麗美さんが干し肉を干しながらそう言う。二人だと苦戦しているようだ。


「俺も干し肉作り手伝おうか?」

俺は明日乃あすのにそう言う。


流司りゅうじがいないと狩りができないじゃないか」

一角いずみが不満そうにそう言う。


「あと、真望まもも連れて行くぞ。荷物持ちと、槍を訓練しないと実戦で使えなそうだし」

一角いずみがそう言って真望まもに槍を渡す。真望まもを前衛に育てる気満々らしい。

 とりあえず、一角いずみは新しく作ったやじりの着いた矢を試したくて仕方ないらしい。


「森行くなら、粘土と砂も取ってきてね。石板づくりが結構楽しくなっていたし」

麗美さんが俺にそう言う。

 俺たちの知識を後世に残す石板づくり。麗美さんが結構やる気になってくれたようだ。とりあえず、粘土を採ってきて、葉っぱに包んで地面に埋めておくと麗美さんが暇な時に石板づくりをする。そんな感じにしたいみたいだ。


 とりあえず、俺、一角いずみ真望まもの3人で森に入る。

 俺は昨日捕ったイノシシの皮と竹筒の水筒を背負いかごに入れて。飲み水の補給と、毛皮の洗浄、粘土の採取も目的に追加された。

 それと、さっき作った黒曜石の石包丁も持っていく。動物が取れたらさっそく使ってみたいしな。

 狙うは鳥かイノシシ。クマが出たらどうするか。

 俺はそんなことを考えながら森を進むのだった。


 次話に続く

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