第30話 お鍋(土器)を活用しよう。

【異世界生活 13日目 21:30】


 明日乃あすののノリに付き合って土器のチェックとイノシシ脂の煮込みを始めたらこんな時間になってしまった。

 

 とりあえず、イノシシの脂はお湯で煮こんで橋でつまんで身がほぐれるくらいまで煮込んだら濾して肉片と油+お湯を分離する。

 濾した油とお湯を冷やして固体に戻したら、鍋を逆さにして固体部分と水分に分ける。

 水分が取り除けたら固体になった脂の底にあった色違いの部分は不純物やゴミの層なのでヘラなどでそぎ落とし捨て、また同じようにお湯で茹でて冷やして固める

 水分と不純物を取り除き、またお湯で茹でる。これを不純物の層が完全に無くなるまで繰り返す。これがイノシシの脂(ラード?)の作り方って感じだ。

 そして気づいてしまう。


「あ、明日乃あすの、不味いぞ。茹でたラードの肉片と油と水を濾す布が無い!」

俺はそう言って、脂づくりの道具不足に気づいてしまう。


「そ、そうだった。どうしよう、りゅう君?」

明日乃あすのも考えていなかったみたいで焦りだす。


「だったら、徹夜して布作るしかないんじゃない?」

真望まもがそう言って自信気な顔をする。


「できるのか? 布を織るはた織機とかもないんだぞ?」

俺は真望まもに聞き返す。


「まあ、最悪、四角い木の枠でもあれば布は織れないことはないわ。手間はかかるけどね。要は布の縦糸の間を1本ずつ上下交互に横糸を通せばいいだけだから、手間はかかるけどハンカチぐらいの布ならそれでもできるわ」

真望まもがそう言う。


「だったら、突貫工事で麻糸を作って麻布を織るか。で、終わり次第寝る。それでどうだ?」

俺はそう提案する。


「でも、明日の朝、みんな寝ちゃった後のイノシシの脂やたき火の番は必要じゃない?」

麗美れいみさんがそう言う。

 確かにそれも一理ある。 


「そうなると、今日の最後の夜の見張り役の人か、見張り役が当たってない人で1日寝られる人が寝とくべきだよな。今夜の見張り役が当たってない人は明日乃あすの真望まもで、最後の見張り番は麗美れいみさんか」

俺がそう言うと麗美さんが満面の笑みで笑う。


「じ、じゃあ、麗美さん、寝ていいよ。その代わりしっかり寝て、明日、鍋の番の時に昼寝とかしないようにね」

俺はそう言う。

 麗美さんが嬉しそうに敬礼をすると自分のシェルターの方に歩いていく。


「麗美さん、ちゃんと神様にお祈りしてからだぞ。寝るの」

俺がそう言うと麗美さんがその場で祈りだすので、みんなも合わせるように日課の神様にお祈りする。


「はやく、7人の仲間がそろいますように」

俺はそう祈って食後の歯磨きをして、作業に移る。

 夜の作業なので、集めておいた薪をかがり火のように焚いて手元を明るくしてから作業開始する。まあ、けもみみが生えてから夜目も利くようになったんだけどね。


 そんな流れで、麗美れいみさんは明日の昼間の見張り役として就寝、俺、明日乃あすの一角いずみ真望まもの4人は麻糸作りと麻布作りだ。


「はい、これ」

真望まもがみんなに独楽こまのような変な物を渡す。しかも人数分。

 真っ直ぐな竹の棒に円形の、円盤状の粘土の板がついたまさに独楽こまみたいな『何か』だ。だいぶ前から用意していたのか円盤状の粘土は一応乾燥して固まってはいる。


「なんだこれ?」

俺は真望まもに聞き返す。


「粘土で急ごしらえで不格好だけど、麻の糸をつむぐ道具よ。スピンドルっていうの。とりあえず、使い方を見ておいてね」

そう言って真望まもは昼間に繊維にして束ねておいた麻の繊維を水に湿らせて手元に置くと作業を始める。


 独楽こまみたいなスピンドル?の棒の部分に大き目な葉を巻くと、繊維の束から何本か繊維を抜き取り、最初は手でねじり、糸にしていく。腕の長さぐらいまで糸にできたら、それをスピンドルに巻いた葉っぱの上に何周か巻き付け固定すると、スピンドルの棒の先にあるかぎ針のような穴に糸を通し、後は空中で独楽を回すようにスピンドルを回すと自動で麻の繊維がねじれて糸になっていく。


「おお~」

みんなが感嘆の声を漏らす。


「麻糸は水にぬらしてから紡いでね。麻の繊維の中にのりの成分みたいのが含まれているから、濡らすときれいに毛羽立たずに糸になるのよ。で、糸が紡げたら、スピンドルの巻いてある葉の部分に糸を巻いて、同じことを繰り返す。そんな感じね」

そう言って真望まもはスピンドルを回しながらどんどん糸にしていく。なるほど、巻いた葉が糸巻きの芯代わりになってスピンドルからも抜きやすいって感じか。

 さすが手芸の達人、真望まもだ。なんか中学校のころ教室の隅でよく分からない道具を使っていろんなものを作っていた真望まもを思い出す。


真望まも、色々準備してくれていたんだな。すごく助かるよ」

俺はそう言って真望まもを褒める。


「麻の茎が干してあるって聞いたからね。少し睡眠時間とか削って必要になりそうなものは作っておいたの。くしとかもね」

真望まもが少し照れた顔でそう言う。


「今日の作業が終わったら長めに寝ていいからな。明日以降も手芸部は忙しくなりそうだし」

俺は真望まもに最大の感謝をする。

 そして、ちゃんと健康管理してやらないと倒れそうな子だな。元々、頑張り屋だし、真面目な子だからな。まあ、今の見た目は完全なギャルだけど。


 真望まもは見本で紡いだ糸を俺に渡すと、布を作る為の木枠を作るから。と竹を取りに行く。

 俺たちの糸紡ぎの指導をしながら竹細工をして四角い木枠を作っていく。

 本当なら俺がやるべき作業なんだろうけど、何を作るかイメージ出来ている真望まもに任せた方が正解なんだろうな。と、俺は糸を紡ぐことに専念した。


 本来なら寝る時間を押して麻糸作りをする。たき火の火を頼りに、夜目を活かして何とか麻の繊維を糸にしていく。



【異世界生活 14日目 3:00】


 なんだかんだで、4人で協力して糸を紡いだおかげで5時間くらいで、ハンカチくらいの大きさの布が2~3枚できる糸ができた。


一角いずみ流司りゅうじは寝ていいわよ。明日乃あすの、もうちょっと付き合ってもらっていいかな? 一番手先が器用そうなのは明日乃あすのっぽいし、流司りゅうじ一角いずみは探索とか食糧確保とかやることあるだろうし」

そう言って、明日乃あすのに木の枠を渡す。とりあえず、麻布を2~3枚作るみたいだ。

 

「俺も手伝うぞ」

俺がそう言うと、


「今、急ぎで欲しいのは油を濾す布が2~3枚でしょ? それなら二人で大丈夫。それに木枠も2個しか作ってないのよ」

真望まもがそう言って俺の手伝いを丁寧に断る。


「それに、イノシシの脂を煮る為に水もほとんど使っちゃったから、これからつぎ足す分も考えて、明日は水汲みで忙しいでしょ?」

真望まもがそう言う。

 そうだな。イノシシの油を作る為にもこれからもっと水が必要になる。明日は起きたら泉の往復になりそうだ。

 まあ、明日乃あすのをはじめ、女の子たちは石鹸づくりにかなり期待しているみたいだし。頑張るしかないな。


「それじゃあ、7時間くらい寝かせてもらうな。10時には起きるよ」

俺はそう言うと一角いずみも頷き、それぞれのシェルターに入って就寝する。ぶっちゃけ、かなり眠い。



 寝ている途中でごそごそと音がする。明日乃あすのかな?

 ステータスウインドウの時計を見ると朝の9時だった。


「布織り、今終わったのか? ごくろうさま」

俺はねぼけた声でそう声かける。


「うん、すごく大変だったよ。私、頑張ったから、りゅう君、1時間だけ、一緒に寝よ?」

明日乃あすのが甘えるようにそう言うと俺に抱きつくように寝転がる。

 俺は明日乃あすのの頑張りを労うように髪の毛を撫でながら二度寝をする。


 明日も(というか今日か)頑張らないとな。


 次話に続く。

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