第20話 平穏な日々。そして5人目登場。

【異世界生活6日目】


 麗美れいみさんが加わって、クマを撃退した次の日から平穏な日が続いた。

 カカシ代わりにクマの首を棒に突き刺して森の出口あたりに立てて置いたのがよかったのかもしれない。

 一角いずみ

「今度、オオカミが来たら、オオカミの首も、晒してやろう」

と、不穏な事を言っている。


 とりあえず、クマ肉の干したものや、山菜、バナナもあるので食料は当分心配なく、生活も落ち着いたので、粘土と砂をもう一度取りに行き、クマに壊された分の土器を作り直したり、日課として水汲みと水浴びをしたり、暇な時は竹細工をしたり、石包丁などを研いだり、あと、イノシシの毛皮とクマの毛皮をよく洗って、洋服と靴を仕立てたりもした。

 服と言っても、毛皮を四角く切って、脇や腰の部分に穴を開けて紐を通しただけの簡素なものだ。

 そして、圧倒的に毛皮の面積が足りなかったようで、なぜか俺以外ヘソ出しのツーピース、セクシー水着みたいな服で、葉っぱの服と露出度はたいして変わらなかった。

 靴に関しては、裸足はやっぱり危険な気がするので、靴底は荒縄を編んだ藁草履みたいな感じにして、それに皮を縫いつけてブーツっぽくしただけ。まあ、裸足より断然ましだろう。


 それと、時間に余裕ができたので、剣道の有段者でもある麗美れいみさんが先生となり、剣の特訓を始めた。

 特訓や筋トレでも経験値が貯まるようで、特訓をすると1日、10前後の経験値があがるようだ。ただ、2時間以上やると体力が無くなるせいか、集中力が無くなるせいか、経験値が上がらなくなる。そして、オーバーワークすると経験値は逆に下がってしまうようだ。3日特訓した結果、俺と明日乃あすののレベルが上がり、一角いずみも明日あたりには上がりそうな気配だ。

 

 あと、特筆する事といえば、麗美れいみさんが虫対策に一生懸命だったこと、一角いずみがやたら塩にこだわり毎日量産していた事くらいか。

  

 土器が乾燥するのと、水に沈めた麻の茎の皮が腐るのを待ちながらのんびり暮らす日々が続いた。


【異世界生活 10日目 12:00】


 そんな感じでそれから5日後のお昼過ぎ、毎日お祈りしていたおかげか、元気そうな神様が現れた。


「おーす。久しぶりだな。とりあえず、お祈りしてくれたおかげで力も少し回復した。なので、5人目も降臨させるぞ。ただ、俺の力も余裕はないから、さっさと寝るんで、あとの説明は宜しくな」

おっさん(神様)は言いたいことだけ、一方的に言ってさっさと消えてしまう。しょうもないおっさん(神様)だな。

 残されたのは、1人の女の子。もちろん、素っ裸だ。


「お、真望まもじゃないか。久しぶり」

俺はそいつに挨拶する。


「ああ、言われてみると、真望まもじゃないか」

真望まもちゃん、久しぶり。すごく変わっていたから、最初、気づかなかったよ」

一角いずみ明日乃あすのも思い出したようで挨拶をする。


「と、いうか、りゅう君、当たり前のように裸の女の子に声かけないの」


「はだか? って、 っ!! キャーーー!?」

自分の状況を理解して、悲鳴を上げて座り込む真望まも

 明日乃あすのが急いで葉っぱで服を作り、巻き付ける。


「どういうこと?」

真望まもは俺を睨むようにそう言うと、説明を求めてきた。

 面倒臭いことになりそうなので、明日乃あすのに説明を任せる。

 ここが異世界でサバイバル生活をしないといけないこと。

 神様がいて、お祈りをしないといけないこと。

 将来的には子孫を増やしてこの世界を開拓しなければいけないこと。

 そして、元の世界にはもう1人の自分がいて、帰れないことも伝える。


 とりあえず、彼女は稲成いなり真望まも。俺や明日乃あすの一角いずみと小学校と中学校が同じで、俺と明日乃あすのは中学3年の時は同級生だった。そして俺のSNS仲間?


「久しぶりって、竜司りゅうじ、この間会ったじゃん」

着替え終わった真望まもがそう怒鳴る。

 そういえばそうだな。俺は面倒臭そうな顔する。


 実際、こいつは色々面倒臭い奴だ。

 俺たちの家や高校の最寄りの駅から3つ隣の駅にある私立高校に通う俺たちと同じ高校3年生。


 コイツが面倒臭いのは、高校に入学と共に高校生デビュー、中高生むけのファッション雑誌の読者モデルという華やかな肩書きを持ちながら、読者モデル仲間には引け目を感じて上手く付き合えず、高校生活では読者モデルであることをひけらかし過ぎて友達ができないという、リア充でボッチ、男性経験豊富そうな顔をして、さも経験豊富そうな会話をするくせ、彼氏いない歴=年齢という、リア充ボッチで処女ビッチという、ツッコミどころ満載な女の子だ。

 モデル仲間の間では、高校生活はリア充だと嘘をつき、高校生活ではモデル業界でリア充だと嘘をつく、二重ボッチという悲しい子。

 まあ、外見は金髪に近い茶髪のロング、いかにもって感じのギャルだが、見る人が見れば分かる、いかにも処女って感じの純真そうな瞳と顔が涙をそそる。

 まあ、必死過ぎて可愛いので俺はたまにかまってやっている。


 ちなみに、SNS上では写真など顔を隠してではあるが、俺は真望まもの彼氏でバスケが上手いイケメンのリア充という事になっているらしい。

 そこまでいくと、可哀想というか同情心が湧いて、可愛く見えてしまう。まあ、悪い奴ではないんだが、簡単に言うと、アホな子だ。

 高校受験の時も、俺や明日乃あすのと同じ高校を受験したが、そもそも学力が足りず、担任からも「記念受験か?」と呆れられるほど。

 結局、かすりもせず、滑り止めの私立高校に通っている、なんか憎めない、可愛らしい、アホの子だ。


 そんな感じなので、たまに偽装彼氏として遊びに付き合ってやることもあった、可愛くて可哀想な、俺の女友達だ。リア充ボッチで処女ビッチ。それが、この子、真望まもだ。

 

 ちなみに、何故、処女だと知っているかというと、彼女の実家は神社でお父さんは神主さんだ。年末年始は巫女装束を着て実家でバイトをさせられている。

 そのせいでお母さんから、結婚するまで、神社を継いでくれる男が見つかるまで、性交は禁止、性交したら実家を追い出されるという、可哀想な家訓を強いられた女の子だ。

 もちろん、俺は家族公認の偽彼氏だ。ここまでくると、可哀想を通り越して可愛くなってくだろ?

 当時から、明日乃あすの一筋だった俺は、本当の彼氏になることも神社の跡取りになる事もお断り、真望まものお母さんにも何度も勧められたが、俺にとって、真望まもは、いい女友達だ。実際、面白いしな。


「まあ、そういう事なんで、今日から皆んなで協力してサバイバル生活をする事になる。宜しくな。真望まも

俺はいつもの感じで軽く流す。アホな子なので説明するより、実際やってみよう。って、感じだ。


「そういう事ってどういう事?」

そう言い返す真望まもだが、多分、反射的に言っているだけで特に何も考えてない。


「とりあえず、自己紹介よろしく。サバイバルに役立ちそうな特技あったらそこらへんもアピールしてくれ」

俺は、適当に流して、自己紹介の無茶振りをする。この子はアホな子だが、頭の回転は悪くない。無茶振りや予想外の出来事にも柔軟に対応できる、漫才のツッコミ役をやらせたらどんなボケにも対応できそうな才能の持ち主、まあ、その人生や生き方はボケ担当なのだが。


「いいわ。私は稲成いなり真望まも。ファッション雑誌、ティーンエイジの専属モデル、MAMOよ。ファッションと美容のことは任せてね」

えらそうにモデルっぽい立ち方をしてえらそうに自己紹介する真望まも


「まあ、こんな感じで、高飛車で、すぐ芸能人ぶってマウントを取ろうとするが、根はいいやつだし、こう見えてリアルに友達がいないボッチだ。そして物凄い寂しがり屋だ。みんな仲良くしてやってくれ。あと、陰でこっそり、コスプレ衣装を作ってSNSに写真をアップするのが趣味なんで、服とか作らせると多分上手いぞ」

俺が親切に自己紹介を助けてやる。

 みんなが「うわ~」って顔をしている。俺、なんか間違ったか?


「そう言えば、真望まもちゃん、中学生のころ教室でも休み時間に編み物とかよく分からない手芸っぽいことしていたもんね」

明日乃あすのが中学校の頃の真望まもを思い出しそう付け足す。


「あの頃は地味だったもんな。三つ編みおさげに眼鏡でいつも教室の隅っこの方で何かしていた、くらいの印象しかないわ」

一角いずみも中学校の頃を思い出す。まあ、一角いずみはあまり付き合いがなかったしな。

 

 真望まもがわなわなと体を震わせている。そして麗美れいみさんは何か哀れそうな顔をしている。俺達何かやらかしたか?


「まあ、真望まもちゃん? みんな真望まもちゃんの過去を知っているみたいだし、開き直って仲良くしていきましょ?」

麗美さんが最後に同情するような声でそう言う。


「まあ、こんな奴だけど、素直になると可愛いところもあるんだぜ。そういう事でみんな、よろしくな」

俺は最後にフォローしてやる。真望まもは顔を真っ赤にしている。怒っている?


「ああ、そうよ、私は中学校の頃は根暗で地味で目立ちませんでしたよ!! そして、高校デビューして、モデルにもなったけど、結局、学校にもモデル業界にもなじめませんでしたよ!! ええ、ボッチで根暗で、アニメのコスプレが好き! SNSでしか友達がいない! 何が悪いの?」

真望まもがよく分からんがキレる。


「いや、別に悪くないんじゃないか? 俺はそういうところも含めて真望まものこと好きだぞ。話すと面白いしな」

俺は心の底からそう思う。こいつと話すと結構面白いんだよな。お笑い芸人のセンスがあると思う。主にボケ?


流司りゅうじクンは天然のタラシね、かなりの女たらしよ」

麗美れいみさんが呆れるようにそう言った。

 明日乃あすの一角いずみも仕方なさそうな顔をする。


 明日乃あすのも少し戦えるようになったし、仲間も増えて5人になったし、もう一人増えれば3人組が2つできて行動範囲広げられそうだな。


 新しい仲間を迎え、新たな可能性を感じる俺だった。


 次話に続く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る