第21話 尻尾のないしょ(with麗美)、そして魚を捕る

【異世界生活 10日目 12:30】


「で、何をすればいいの?」

と、新しい仲間、真望まもが不機嫌そうに俺に聞いてくる。


「とりあえず、今は、土器が乾燥するのと川に浸けた麻が腐るのを待つ、って感じか? 鉄の鍋もナイフもない世界だから、鍋代わりの土器ができないと何も出来ない感じなんだよな」

俺はそう言う。


「麻があるのね。麻から繊維が取れるようになれば、麻糸ができて、布も作れる。私が活躍できそうね」

真望まもが少し嬉しそうに、自信ありそうにそう言う。


「まあ、繊維を取り出して乾かす作業もあるらしいから、まだ先の話だな。とりあえずは、食料集めたり、水を汲んだり、生活し易い環境作りが今の仕事だな」

俺はそう言ったあと、真望まもを凝視してしまう。


「ん? 何?」

真望まもが首を傾げる。


「何って、お前、尻尾も耳もすごいな」

俺は真望まものお尻から生えた、もっふもふの尻尾とふわっふわの耳が気になって仕方がない。


「すごいよね、ふわふわのもふもふだよ。多分、狐さんかな?」

そう言って、我慢できなかったのか、尻尾を撫で回す明日乃あすの


「ひぃん!!!」

びくっ、っと跳ねる真望まも。顔は真っ赤だ。


 ごくん。


「俺も、触ってみていいか?」

魅惑のもふもふに、俺も、自然と手が伸びる。


 しかし、俺の手を避けるように、もふもふの尻尾を振り、

「ダメ、絶対、触っちゃ駄目。特に流司りゅうじ!」

顔を真っ赤にして真望まもがそう言う。


 めちゃくちゃ拒絶されてしまった。


「私の尻尾なら、いっぱい触ってもいいわよ」

麗美れいみさんが、猫っぽい、太くて長い尻尾をふふり、ふふりと揺らして誘ってくる。


 あまりに魅惑的な動きをするので、迷わず手が伸びる。おお、これもなかなか。おれは麗美さんに誘われるまま尻尾を掴み、にぎにぎと感触を楽しむ。



「あふっ。 そ、そういうことね」

麗美れいみさんが恍惚とした表情で甘い声を漏らす。


 麗美れいみさんの猫っぽい尻尾は、もふもふと言うより、毛皮の下の芯の部分? お肉の部分がムチムチしていて、これは、触るより、口に咥えて甘噛みしたくなる。


「かぷっ!」

俺は、麗美れいみさんの尻尾を優しく両手で持つと、動物の本能で反射的に飛びつくように、甘噛みしてしまう。


「!!! くうん!!!」

麗美れいみさんが、びくっ、っと大きく跳ねると、膝から崩れ落ちる。

 そして、地面にしなだれる麗美れいみさん。


「り、流司りゅうじクン、そ、それは、駄目。いきなり、そ、それは駄目だから、ね」

麗美れいみさんがぐったりして、息も絶え絶えそう言う。

  

 真望まもが、うわー、って顔をしている。

 なに? もしかして痛かった? 俺、ヤバいことしちゃった?


流司りゅうじ、私の尻尾触るのは禁止だし、女の子の尻尾、いきなりかじるのは絶対禁止だからね」

真望まもがそう言って俺を叱る。

 明日乃あすのは自分の兎みたいな小さな尻尾を触って不思議そうな顔をしている。


「とりあえず、真望まもちゃんは狐の尻尾で、七つの大罪は『強欲』で美徳は『慈善と寛容』、麗美れいみさんは猫の尻尾で、七つの大罪は『嫉妬』、美徳は『感謝と人徳』って感じかな?」

いつもの、明日乃あすのの厨二病っぽい解説が入る。

 確かに真望まもは承認欲求とか欲の塊だしな。麗美れいみさんは嫉妬するというより明日乃あすのに嫉妬させているって感じたよな? 今のところ。人徳っていうのはちょっと分かる気がする。お医者さんだし、なんか惹きつけられるものが元の世界にいた時にあったもんな。


 そんな事を考えていると、麗美れいみさんがもそもそと起きて、静かに海の方へ向かう。お手洗いかな?

 そのあと、残る、もわっ、とした、何か、甘い、美味しそうな匂いが気になったが、お手洗いに行く女性に声を掛けるのは失礼だと思ったので、とりあえず、真望まもに視線を戻す。


「まあ、とりあえず、干し肉も減って来たし、明日あたりは、魚を取りに行ってみるか」

俺は真望まも達にそう言う。


流司りゅうじ、今から魚捕りにいくぞ。麗美姉れいみねえの体調悪そうだったから、ちょっと様子見たいしな。明日乃あすの真望まもは、たき火の番を頼む。魚が捕れるのを期待して、石包丁を研いでおいてくれると助かる」

一角いずみがそう言って、急に俺を魚捕りにさそう。


「なんか、そういう事らしいから、ちょっと、行ってくるな。何かあったら大声あげろよ。ここから海岸なら、多分聞こえるし、走って帰って来られるし」

俺は明日乃あすの真望まもにそう言い残し、一角いずみと海岸に向かう。


 一角いずみはこの間作った弓矢とは違う小ぶりな弓矢を二組持って海岸に向かう。

 麗美れいみさんが心配なのか黙々と早歩きで海岸に向かう。ポニーテールに結んだ、少し青みがかかって見える紺碧の髪が歩くごとに揺れ、長身で引き締まった体も相まって、なんか、凛々しく見える。


流司りゅうじ、悪いが、私の尻尾を触ってみてくれ。ただし、軽く、少しだけだぞ」

一角いずみが口を開けたと思うと、突然訳の分からないことを言う。


真望まもに止められたばかりなんだが、いいのか?」


 俺は、仕方なく、早足で一角いずみに追いつくと、一角いずみのお尻から垂れ下がった、髪の色によく似た紺碧の毛並みの犬のような尻尾を持ち上げるように触り、軽く撫でる。


「んんんっ」

一角いずみが何かに耐えるように呻く。


「なるほどな。これは、麗美姉れいみねえの体調が悪くなるわけだ。麗美姉れいみねえの体調悪くなったのは流司りゅうじのせいだな。今から、麗美姉れいみねえの所に行って、尻尾を噛んだ責任とってこいよ」

一角いずみがそう言って、俺の背中を押す。

 女の子達がお手洗いとして使っている岩場、普段、俺が近づいてはいけない場所に向かって背中を押される。


「俺が行っていいのか?」

俺は困惑して一角いずみの方に振り向く。


「行けば分かる。多分、流司りゅうじが行かないと治らない重症かもしれない」

一角いずみがそう言う。

 俺も、重症と聞いて、麗美れいみさんの事が心配になり、お手洗いの事は忘れて、岩場の陰に急ぐ。


麗美れいみさん、大丈夫?」

俺は声を掛けながら、岩場の陰に足を踏み入れる。


「きゃっ! 流司りゅうじクン! ど、どうしてここに!?」

麗美れいみさんが慌てて体を隠す。

 そして、岩場に立ち込める、甘い匂い、女の人の匂いだ。

 イノシシの皮でできた上着をたくし上げ、スカートをずらして、胸と下半身を露出した麗美れいみさん。

 大事なところは両手で隠して体をくねらせ隠しているが、鼻をくすぐる女の人の匂いで麗美れいみさんが一人で何をしていたか想像がついてしまう。


「ごめん! 麗美れいみさん! なんか、一角いずみが言うには、俺が麗美れいみさんの尻尾を噛んだせいで、麗美れいみさんが大変なごとになっているから助けに行ってこい、みたいな事言われて、急いできたんだけど、こんな感じになっちゃって、なんて言ったらいいか」

俺は慌てふためき言い訳を並べる。


麗美れいみさんはそれを聞いて、変に落ち着き、

「そっか。一角いずみちゃんがそんな事を。そうだよ。流司りゅうじのせいで大変な事になっちゃったんだよ。流司りゅうじクンには責任とってもらわないといけないなぁ」

麗美れいみさんが妖艶な笑みを浮かべてそう言う。額に堕ちた茶褐色の髪をかき上げ、長い後ろ髪を後ろに流す。しぐさがなんとなくいやらしい。

 そして、俺を見つめながら、四つん這いで俺にお尻を向ける。衣類の乱れを直さないまま、丸見えの麗美れいみさん。


「とりあえず、もう一回尻尾、噛んで欲しいなぁ〜。後ろからギュッと抱きしめながら、尻尾を優しく噛み噛みして欲しいの」

麗美れいみさんはそう言って、四つん這いでお尻を向けたまま、お尻をふりふりしながら、猫のような尻尾をうねり、うねり、といやらしく、誘うように、くねらせる。


 俺は誘われるまま、麗美さんに後ろから抱きつき、体を密着させて、目の前でふりふりと逃げる尻尾を口で追いかけ、何度も優しく噛み付いては離す。

 嬉しそうに震える麗美れいみさん。

 麗美れいみさんの股間に密着した、俺の股間があつく熱を持つ。

 後ろから麗美れいみさんを抱きしめていた俺の腕も自然と二つの膨らみに手を伸ばしてしまう。



☆☆☆☆☆☆



「くうぅぅぅん!!」

麗美れいみさんが満足げに声を上げる。


 俺も麗美れいみさんに熱い想いを何度も伝え、満足感に満たされる。

 岩場の陰で抱き合う2人。


「女の子の尻尾は二人きりの時、相手が噛んで欲しい、って言った時しか噛んじゃ駄目だからね。あれは、本当に駄目。女の子の大事なところを甘噛みされちゃったみたいな電気が全身に走るから、本当にやっちゃ、駄目よ」

麗美れいみさんが俺の頭を撫でながら愛おしそうな声でそう言う。

 これは、麗美れいみさんが尻尾を噛んで欲しいと思った時はまた噛んでね。って、お願いってことかな?



【異世界生活 10日目 14:00】


 俺たちは少し休憩してから、海に入り、体を洗い、一角いずみと合流する。


一角いずみちゃん、ありがとうね。おかげで助かったわ。一角いずみちゃんも、今度、流司りゅうじクンに尻尾噛んでもらいなよ。ほんと、凄いことになるから」

麗美れいみさんが、そう言って一角いずみに笑いかける。


「そうだな。今度、一度お願いしよう」

一角いずみが悪そうな笑顔で俺に言う。


「それより、な、魚捕ろうぜ。明日乃あすの真望まもも待っているだろうし」

俺はそう言って場の空気を濁す。


「で、どうやって魚捕るんだ?」

俺は気を取り直してそう聞く。 


「水中用の弓矢を作った。弓も小さいし、羽もついてないからかなり近づいてから射る感じだ。返しもつけてあるし、矢の後ろには紐をつけてあるんで紐をたぐれば魚が手に入る。手元までたぐったら矢を差し込んで止めを刺す。以上だ」

一角いずみはそう言って、一回り小さい弓と紐のついた矢を何本か俺に渡す。

矢の先を見ると先がとがっていて、その横には確かにいくつかギザギザに切り目が入っていてこれが返しになるってことか。


「素潜りして、魚がいたらこれで射ればいいんだな」

俺はそう言って海に向かう。


「そういうことだ。麗美姉れいみねえは体調も万全じゃないだろうから海岸で休憩していてくれ」

一角いずみもそう言って俺に続き、2人で海に入る。


海に顔をつけると魚が見える。浅瀬から結構魚影が濃い。ただし、水中メガネがないので、これはキツイな。ぼーっとしか見えないし、目が痛い。これは長くは潜れないな。

 

 一度海面に浮きあがると一角いずみも海面に浮いていた。


「水中メガネが無いと素潜りはキツイな。ほとんど見えないし、目も痛い。多分、そんなに回数潜れないぞ」

海上に浮きながら、俺は一角いずみにそう言う。


「そうだな。ただ、こっちの世界に転生した時に、目は良くなっているみたいだ。遠くが見えるし、海の中でも少しは見える。多分、元の世界じゃ水中眼鏡なしではこれほど見えないだろうな」

一角いずみがそう言う。

 そう言われるとそうだな。耳も鼻も良くなったが目も良くなった気がする。


 とりあえず、もう少し沖まで泳いで、短期決戦で素潜りを開始する。

 運よく、俺も一角いずみも泳ぎは得意なようだ。


 水中に潜ると、岩が多く、海藻も多く、小さい魚がたくさん泳いでいる。

 そしてそこの方に大きな魚影。水中メガネが無いのでぼやっとしか見えないのだが。

 そして近づいていくと結構大きい。そして、人間を知らないせいかあまり動かない。石の間にじっとしている。


 とりあえず、近くまで寄って、自分が浮いてしまわないように大きな石に足を絡めて体を固定し、なるべく魚に近づけるように体を寄せながら、弓矢を絞り、お祭りで射的をするように、身を乗り出して少しでも矢が近くなるようにして、一気に矢を放つ。

 おお、いい感じで矢が飛んで魚に刺さる。そして魚が暴れる。

 ヤバい、逃げられる。

 俺は急いで泳いで近づき、矢を魚に押し込む。これ、紐ついているけど、引っ張ったら多分逃げられるな。

 そんなことを考えながら魚の体に矢を貫通させ魚が逃げないくらいまで矢を通すと海上に浮き上がる。

 そして腰に事前に巻いておいた(一角いずみに巻かれた)荒縄に魚のえらを通して口から出し、腰に結び直して完了。

 もう一度潜って魚を探す。これの繰り返しだ。


 弓矢というより小さい銛を弓で飛ばす感じだな。弓の大きさに比べて矢が長めだし、矢が刺さった後は急いで魚に押し込まないと逃げられる。そんな感じだ。そして、なるべく近づかないと刺さらないし、刺さった後に追いうちがかけられない。

 まあ、よく考えられているな。一角いずみは意外とこういう事に才能ある?


 何度か魚を逃がしてしまったが、なんとか3匹の形のいい魚を捕ることができた。

 そしてもう、限界だ。海水で目がものすごく痛い。


 海上で浮いていると、一角いずみも浮いてきて、

「そろそろ、上がるか? 目が痛いだろ?」

一角いずみも限界のようだ。


 俺たちは、そのまま泳ぎ、岸までたどり着くと、麗美れいみさんが迎えてくれた。


「お、すごいわね。初めてなのに結構捕れたんじゃない?」

麗美れいみさんが俺の腰にぶら下がっている魚を見て褒めてくれる。


「魚が人間慣れしていないみたいだ。ギリギリまで近づけるから何とか捕れる。そんな感じね」

一角いずみ麗美れいみさんにそう言って自分の取った魚を渡す。

 一角いずみは4匹捕ったみたいだ。負けた。なんか悔しいな。


「まあ、私は弓道をやっているから仕方ない」

一角いずみは俺が何も言ってないのに勝者の余裕とばかりに俺を慰める。

 まあ、一番大きい魚は俺のだけどな。数で負けたので大きさで自己弁護する。さすがに口には出さないけどな。


 とりあえず、目が洗いたい。海水で目が痛い。


 3人でキャンプに帰ると、魚を見た明日乃あすのが嬉しそうに寄ってくる。


「すごい、すごい。魚だよ。魚がいっぱいだよ」

明日乃あすのが俺の捕った魚と一角いずみの捕った魚を見て喜ぶ。


一角いずみが作った、水中用の弓矢というか弓で飛ばす銛? それが結構いい感じに魚に刺さるんだよ」

俺は一角いずみの発明品を改めて褒める。


「まあ、魚が人間に慣れていないみたいで逃げないから捕り易かったっていうのもあるな」とり

一角いずみが謙遜するようにそう言う。


「それと、明日乃あすの、水筒の水、真水をくれ。水中メガネが無いから魚がほとんど見えないし、何より海水で目が痛くなる」

俺はそう言って明日乃あすのに水を求める。


「はいはい、これ。りゅう君も一角いずみちゃんも目が真っ赤だよ」

明日乃あすのが急いで水筒を取りに行って、手渡してくれる。


 まあ、あまり意味はないかもしれないが水筒に入った真水で目を洗う。


「水中メガネがあるといいけど、この世界にはガラスもプラスチックもないし、ペットボトルすらないし、透明な物がないのは厳しいね」

明日乃あすのがそう言う。

 水中メガネはだいぶ先だろうな。まずはガラスを作れるようにならないとな。


 水で目を洗い落ち着いたところで、明日乃あすの麗美れいみさんの体調を気遣う。


「大丈夫よ。少し疲れたのと、胃腸が弱っていたのかしらね? 少し海を見て休憩したら落ち着いたわ」

麗美れいみさんがそう言う。

 俺も一角いずみも何もなかったように会話を続ける。明日乃あすの麗美れいみさんにこうなることをほのめかされていたから、覚悟はしているのだろうが、明日乃あすのに隠し事が増えていくのが何か辛い。そうは言って打ち明けて幸せになれるか疑問も残る。

 男はこういう時に、どうしても都合よく考えてしまうな。男が女性より幼稚だと思われるのはこういうところかもしれない。


 明日乃あすのが嬉しそうに捕った魚をたき火の方に持っていく後ろ姿を見て罪の意識を感じる俺だった。 

 

 次話に続く。

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