第18話 体力回復とクマ来襲の後始末(with一角)

 俺は、スキルの影響で動けなくなり、大人の女性とはいえ、麗美れいみさんにおんぶされてかっこ悪い状況だ。そんな状況のまま、4人でキャンプに向かって歩く。


「そういえば、りゅう君と急いで合流する為に、お水とか野草とか折角刈り取った麻の束とか全部置いてきちゃったね」

明日乃あすのがキャンプに戻りながらそう言う。


「クマの毛皮を回収したら私と取りに行けばいいんじゃない?」

一角いずみがそう答える。


 明日乃あすのが「うーん」と考えてから、ちらりと麗美れいみさんを見る。

 麗美れいみさんに背負われている俺からは見えなかったが、麗美れいみさんが、にやっ、と笑った気がする。


「ダメ、ダメ。今、麗美れいみさんとりゅう君を二人っきりにさせたら絶対、りゅう君が襲われる。そんなのダメ。私が麗美れいみさんと一緒に行って回収して来るわ」

明日乃あすのがそう言って麗美れいみさんをけん制する。

 

「仕方ないわね。お楽しみは後に取っておくということで」

麗美れいみさんも渋々了承する。

 この女性ひとはどこまで本気なのか、どこから冗談なのか全くわからないな。


「いいじゃないか、流司りゅうじが襲われたって、減るもんじゃないし」

一角いずみがどうでもよさそうにそう言うが明日乃あすのには大問題のようだ。俺って愛されているな。


「神様が、子作り推奨しているっていっても、ダメなものはダメ。私がりゅう君の彼女なの!! せめて、私に許可取ってからじゃないとダメ!!」

明日乃あすのが訳の分からないことを言う。


「ふふっ、じゃあ、私も許可とったら、流司りゅうじとイチャイチャしてもいいのかな?」

一角いずみ明日乃あすのをからかうようにそう言う。


一角いずみちゃんはりゅう君の事怒ってばっかりだし、明日乃あすのには不釣り合いだとか、いつも怒ってばかりだから、そんな気ないって分かっているよ」

明日乃あすのがそう言って、一角いずみの冗談を受け流す。

 そうだよな。一角いずみは俺のことが嫌いというか、明日乃あすのを取り合うライバルみたいな関係か?


「じゃあ、一応、使うことなさそうだが、流司りゅうじといちゃいちゃする権利の許可を明日乃あすのに取っておこう」

一角いずみ明日乃あすのをからかうように笑いながらそう言う。


 冗談でも笑えないぞ。この状況。

 何故かよく分からないが、明日乃あすのが本妻で、麗美れいみさんと一角いずみが許可制でたまにイチャイチャしてくる。そんな訳の分からないサバイバル生活になってしまった。まあ、一角いずみが俺とイチャイチャしたがることはないだろうけどな。


 そんな、よく分からない会話をしながら、キャンプに到着。

 麗美れいみさんの背中の上からキャンプの状況をみるが、一角いずみが言うほどクマに荒らされていなくてよかった。

 明日乃あすの一角いずみのシェルター(家)が半壊、多分、食料を探したのだろう。同じように、土器を乾かす為に作ったシェルターも半壊、せっかく作った土器も半分くらい踏みつぶされていた。

 あとは、干し肉を干していた籠。これはめちゃくちゃに破壊されて、中に入っていたイノシシの肉は跡形もなくなっていた。


「ひどいねぇ。折角作った干し肉のかごがめちゃくちゃだよ」

明日乃あすのが寂しそうにそう言う。


「明日、干し肉のかごは作り直さないとな。クマ肉を干さないといけないし」

俺は明日乃あすの達にそう言う。


「まあ、でも、クマを倒せたのはよかったね。クマって賢いから、人間の食料の味を覚えると何度も襲ってくるらしいから」

明日乃あすのがそう言い、みんなも頷く。

 ギリギリで麗美れいみさんを呼んでくれた神様、久しぶりにグッドジョブだったな。経験値は大して入らなかったけど。


流司りゅうじクン、どうする? 家の中で寝ておく?」

麗美さんが俺をどこに下ろすか迷い、そう聞く。


「とりあえず、たき火のそばに下ろしてくれないかな。体は動かないけど、アドバイスはできるからね。俺だけ、なぜか、秘書子さんっていう神様の秘書的な眷属神様と話ができるみたいだから、困った時に色々聞けるんだよ。秘書子さん結構知識豊富で役に立つ神様なんだ」

俺はそう言って麗美さんにキャンプの中心、たき火のそばに下ろしてもらう。ついでに秘書子さんの紹介をしつつ。

 明日乃あすのが慌てて、ベッド代わりの枯草をひいてくれる。


「とりあえず、私がキャンプの守りと流司りゅうじを見ておくから、明日乃あすの麗美姉れいみねえはクマの毛皮の回収と、それが終わったら、途中で放り投げてきた、水筒や山菜、麻の束を回収してきてくれ」

一角いずみがそう言って指示をだす。


「麻の生えている場所も見つかったんだな」

俺は一角いずみにそう声をかける。


「ああ、群生地があったんで、将来的には麻布なども作れるかもしれないな。まあ、今は原始的な麻紐くらいしか作れないだろうけどな」

一角いずみがそう言う。


「イノシシの毛皮とか、クマの毛皮が手に入ったし、そろそろ、葉っぱの服は卒業したいね」

明日乃あすのがそう言う。


「そうだな。毛皮を綺麗に洗って干したら、洋服を作るといいかもな」

俺は明日乃あすのに賛同する。3人の女の子の葉っぱのビキニみたいな格好はちょっと刺激が強すぎる。

 

「下着が欲しいわね。下がスースーして落ち着かないわ」

麗美れいみさんが俺をからかうようにそう言う。意識しちゃうじゃないか。


 雑談が終わると、それぞれ、作業を始める。

 明日乃あすの麗美れいみさんはクマの皮と持ちきれなかった肉の回収に。一角いずみは俺を気にしつつも、キャンプの周りで枝や葉っぱを集めて、シェルター(家)の修理と麗美さんの家づくりの素材集めをする。

 俺は筋肉痛で腕も上がらない、寝たきり状態だ。


 明日乃あすのと麗美さんはクマの毛皮と肉を回収してくると、そのまま、放ってきてしまった素材や水の回収、一角いずみは家づくりの素材集めをもう一度行くようだ。明日乃あすの麗美れいみさんにはたき火の火を松明代わりにもっていってもらう。帰りはだいぶ暗くなるだろうからな。

 季節的には春くらいなのだろうか、朝の6時くらいから明るくなりだし、夜の6時には陽が落ちるそんな感じだ。


 俺は体も動かせずに、暇なので、秘書子さんに色々聞いて、時間つぶしをする。麻の活用方法とか知りたかったし。

 そんなことをしていると、一角いずみがたき火のそばに戻ってくる。家の素材集めが一段落ついたのだろうか?


「なあ、流司りゅうじ。なんで、あの時、私を助けた?」

一角いずみがたき火に薪をくべながらぽつりと俺に問いかける。


「さっきも言っただろ? 俺の目の前で女の子が怪我するのを見るのは嫌だったって」

俺はそう答える。


「わ、私は、格闘技だってできるし、武器だって使える。明日乃あすのみたいに守られなくたって大丈夫だ」

一角いずみは俺の言葉に戸惑いながらもそう言う。


「でも、女の子だ。怪我をしたら俺が嫌なんだよ。綺麗な顔に傷とかついたら嫌だろ?」

俺は当たり前のようにそう答える。


「き、綺麗!? 私がか?」

一角いずみが戸惑いを見せる。


「凄い、美人だと思うぞ。怒りっぽくて、口が悪いのは玉にキズだけどな。まあ、俺が明日乃あすのに釣り合わないから、一角いずみが怒るのは仕方ないんだろうけどな。俺も嫌われてなかったら、仲良くしたいくらい、いい女だよ。多分な」

俺はそう言う。俺、一角いずみにめちゃくちゃ嫌われているもんな。


「嫌ってなどいない。ただ、明日乃あすのがお前を褒めると腹が立つ、明日乃あすのが言うほど、お前は格好良くない、明日乃あすのが言うほど優しくは、ま、まあ、優しかったかもしれないな。わ、私は何を言っているんだ?」

一角いずみが戸惑いながらそんな話をする。

 俺も一角いずみが何を言いたいのか分からない。


「ま、まあ、一角いずみが俺のことを嫌いじゃないって聞けて嬉しいよ」

俺は一角いずみが何を言いたいのかわからないのでそう答える。


「嫌われてなかったら、仲良くしたい。さっき言ったことは本当か?」

一角いずみが一瞬、真剣な顔になりそう言う。


「あ、ああ、俺がイケメンのモテモテ男だったら、告白するくらいにいい女だぞ。一角いずみは」

俺は、一角いずみを慰めるようにそう言う。

 一角いずみ明日乃あすのを追っかけ回す、変な性癖がなければ、クラスでも人気者、彼氏の一人や二人いてもおかしくないくらいの美人だしな。


「じ、じゃあ、私が流司りゅうじの事を嫌いじゃない、好きって言ったら、流司りゅうじは私のことが好きって事でいいよね?」

一角いずみが照れながら、戸惑いながらそう言う。


「へ? な、なにを?」

俺が戸惑ってしまう。


「私、さっき気づいたんだよ。私は流司りゅうじが嫌いで怒っていたんじゃない。明日乃あすのの言っている流司りゅうじは本当の流司りゅうじじゃない。私の方が流司りゅうじをよく知っている。本当の流司りゅうじを知っている。私も明日乃あすの以上に流司りゅうじを見ていた。何かよく分からないものに怒っていたんだよ」

一角いずみがそう言って、一度目を閉じる。


「多分、明日乃あすのと一緒にいて、明日乃あすのと一緒に流司りゅうじを見ていて、明日乃あすのの恋心が私に伝染していたんだ。そして、私を見てくれない流司りゅうじに怒っていて、私が素直に流司りゅうじに好きって言えない立場と自分自身に怒っていたんだ。私は、いつの間にか流司りゅうじが好きになっていたんだって、クマから私を庇ってくれた時に気づいたの。いや、最初から気づいていたのよ」

一角いずみがそう言って俺に馬乗りになると俺が動けない事をいい事に唇を重ねる。


「私も、麗美れいみねえと同じでいい。明日乃あすのにバレないようにこっそりでいいから、たまにでいいから、こうして、唇を重ねたい、抱きしめて欲しい。明日乃あすのにとって裏切りだと思うけど、もう、ダメなの、流司りゅうじに怒って、私自身に怒って、その気持ちを押さえていたけど、怒りを沈めたら気づいちゃったの。私の中の本当の気持ちに」

一角いずみがそう言ってもう一度唇を重ねる。


「それって、明日乃あすのの気持ちになり過ぎて、明日乃あすのを追っかけすぎて錯覚しているだけじゃないのか?」

俺は一角いずみの言葉のなかの違和感にそう問いかける。


「多分、最初は錯覚だったかもしれない。だけど、明日乃あすのと私は子供のころから一緒だったんだよ? 小学校、中学校、高校と一緒の学校で、何年も明日乃あすのと一緒にいる。錯覚もそれだけ続けば、真実になる。多分そういうこと」

一角いずみはそう言って、俺に抱きつき、胸に頬を寄せ、愛情を伝えようとしてくる。


「私じゃ、だめなのか?」

一角いずみが不安そうな顔でそう言う。


明日乃あすのの次だけど、いいのか?」

俺は正直に言う。俺にとって明日乃あすのが一番で、その代わりになる女性なんて考えられない事を告げる。


「ああ、私も流司りゅうじ明日乃あすのの次だからちょうどいい」

そう言って一角いずみはもう一度キスをする。

 俺はそれに、答えるように、キスを返してしまう。



☆☆☆☆☆☆



流司りゅうじ、ちょっと、お前をシェルター(家)まで運んでいいか? 明日乃あすのに匂いで気づかれたらいやだからね。流司りゅうじが眠くなってシェルターまで運んだ。それでいいよね? 今日のことは明日乃あすのには内緒にして欲しい」

一角いずみがそう言い、俺も頷く。


 一角いずみは俺を俺のシェルター(家)まで運び、

「手を洗ってくる」

と海の方に歩いていく。体を流しに行ったのかもしれないな。それだけ、一角いずみにとって、明日乃あすのとの関係は壊したくないのだろう。そしてそれでも我慢できないくらい、俺のことが好きだと気付いてしまった。そういう事なのだろうか?

 男の俺には女性の気持ちは分からない。一角いずみの気持ちはさらに分からない。少なくとも、一角いずみと抱き合った時間、一角いずみは本気で、本当の気持ちを伝えようとしていると感じた。


 俺はそんなことを考えながら、うとうととしてしまい、体の痛みを癒すように眠りについてしまった。

 

 次話に続く。

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