第3話 とりあえず、水と食事だ(with明日乃)
俺と
「日焼けって結構危険らしいからね。サバイバルの達人とかだと泥を塗ったり、ナマコの粘液塗ったりするらしいよ。まあ、この島はそこまで日差し強くないから大丈夫そうだけど」
まあ、あまり日差しが強すぎるようだったら行動時間とか考えた方が良いかもしれないな。炎天下で砂漠を渡るようなことは避けたい。
「とりあえず、ヤシの実の割り方を考えないとな。ナタとか、せめてナイフでもあれば楽なのだが。やっぱり石で叩く感じかな」
俺はそう言って周りをきょろきょろする。
「そうだねえ、お父さんのサバイバル術とかだと、海岸の漂流物を利用して、みたいなのが多いんだよね。ペットボトルとか、ビニールとか、空き缶とか? でもこの世界って神様が作ったばかりみたいだし、漂流物とか気配すらないもんね」
「そうだな。ペットボトルもそうだが、鍋の代わりになるような、というか鉄製品が皆無なのが厳し過ぎるよな」
俺はそう答える。
お湯を沸かせないのは本当に致命的になりかねない。ヤシの実だけでは将来的にはどうしようもなくなる時期が来るだろうし、生水を飲むのはヤバい。これは俺にも分かる。
「やっぱり、土器かな?」
「将来的にはそれも考えないとな」
俺はそう答えるが、素人が焼き物なんてできるのだろうか? かなりの時間がかかりそうだ。
最悪、神様にお願いして鉄なべくらい出してもらえないだろうか?
そんな話をしながら俺は身近なところにあった石を拾い、ヤシの実を大きな作業台のような岩の上にのせて叩き出す。
なるべく尖った石を選んだのだが所詮はただの石。ヤシの実の外皮のようなものを少しずつ叩き切ることしかできない。
「あー、ヤシの実は、二重の皮で覆われているから、一番外の皮は結構思い切り割っちゃって大丈夫らしいよ。尖った方を上に向けて立てて、おおきな石を上から落とすくらいでも大丈夫。中に柔らかい繊維があってその中にもう一枚皮がある感じ? だから思い切り割っても中のお水はこぼれないかな?」
「そうなのか? っていうか、割り方も知っているのか?」
俺は慌てて
「多分だけどね。お父さんが自慢げに見せてくれたヤシの実の割り方の動画は覚えているよ」
しれっと、
そして、
俺がイメージしていた割り方とは全く違った。ひたすら尖った石で削っていけば穴が開いて水を飲めるのかと思ったら全然違ったのだ。
「
俺は感嘆の声を漏らす。
「まあ、私の場合、本で読んだ知識とお父さんが見ていた動画のうろ覚えだから成功するかわからないけどね」
だが、
「でも、りゅう君もすごいよ。なんか頼れる男の子って感じ? 力あるし、行動力あるし、ヤシの木をスルスルっと登っちゃった時なんか、かなり見直しちゃったよ」
俺も褒められてうれしくなったが、反面、元の世界じゃ頼りなかったという事かもしれないな。
気を取り直し、俺は
まずは言われた通りヤシの実の尖った方を上に向けて石のくぼみなどを利用して立たせる。
その後は俺が持ち上げられる最大の大きさの石、10キロ、15キロ以上あるような大きい石を上からたたきつける。
そうすると一番外の皮が綺麗に縦に亀裂が入るのでそれを手で剥いていく。
「ああ、りゅう君、その皮の中の茶色い繊維? それって火をつけるときに、役に立つらしいから取っておいた方がいいらしいよ」
俺はうなずいてそれを綺麗に取り外すと固く丸い2枚目の皮が現れる。
そしてこれも割るコツがあるらしい。
ナイフや尖ったものがあるなら尖った先に穴を開けて水を飲めばいいらしいが、石ではほぼ不可能らしい。
そして一周したあたりで、急に水があふれ、俺は焦ってこぼれないようにヤシの実を立て直す。そして綺麗に真っ二つに割れるヤシの実。
「ああ、もったいない」
俺は叫んでしまう。ヤシの実の中の水が半分近くこぼれてしまった。
「まあ、仕方ないよ。他の方法でやると全部こぼれちゃったりするらしいから半分にうまく割って半分は確実に確保するみたいな?」
まあ、確かにこの割り方のおかげでヤシの実が綺麗に食器のボウルのように二つに綺麗に割れて、片方にはしっかり水が残っている。
「はい、
俺はその半分を
「いいよ、りゅう君が飲んで。いっぱい作業して、喉も渇いているでしょ?」
「じゃあ、半分こな」
俺はそう言って半分だけ飲んで
確かにのどが渇いていたから、のどに染み渡る。美味かった。少し甘くて、まさにココナッツジュースって感じだ。
こく、こく、こく。
「美味しいね。そして、間接キスだね」
「何をいまさら」
俺はそう言って恥ずかしくなってそっぽを向く。
「ふふっ、りゅう君って可愛い」
「ねえ、もう一回、キス、しちゃう?」
なんか、
俺は違和感がして、身じろぎするが、
「ふふっ、りゅう君もしたいんだ? 私も凄くしたいかも?」
☆☆☆☆☆☆
「それと、ヤシの実の中の白い果肉? これ食べられるらしいからうまく剥がして食べるといいよ」
「そう言えば、腹へったな。
俺は石をうまく使って白い果肉をはがし食べる。
うーん、あまり味がないな。醤油があったらつけて食べたい感じだ。なんか、イカに醤油をつけずに食べている感じか?
「りゅう君、あーん」
そう言って、
ああ、一人で食べてしまったな。
俺は、白い果肉をもう一度剥ぎ取り指でつまむと
「なんか、
俺はさっきから気になったことを口にしてみる。
「りゅう君だってそうだよ。向こうにいた時より、ワイルドっていうか強引っていうか、なんか物怖じする感じが減ったよね? 頼れる男の子って感じ?」
「言われてみるとそうだな。何か、自分の中の、別の何かに、背中を押されているみたいな違和感があるのに今気づいたよ」
俺は気づいたことを正直に言ってみる。
「りゅう君も? 私もそんな感じというか、私の場合はなんか、こっちに来てから生えた兎の耳が、なんかくすぐったいというか、フワフワして、りゅう君のことが好きって気持ちを背中から無理やり押されちゃうみたいな変な気持ちなんだよね」
「というか、
俺はいきなり告白されて驚く。
そして
「りゅう君、遅い!! というか、鈍感すぎる。あれだけ、アピールして、あれだけいちゃいちゃしちゃったのに、私がりゅう君のこと好きじゃないとか思ってたの?」
「いや、もしかしたら、とか、多分そうだろう、だったらいいな、くらいは思っていたんだけど、口に出して言われたのは初めてだったし、それに驚いた感じかな?」
俺は慌ててフォローする。
「そういえば、私も、りゅう君に「好き」って言われてないよ。分かっているけど、言葉にして欲しいな」
「す、好きだぞ」
俺は恥ずかしくなってぼそっとつぶやく。
確かに俺はこんな性格だった。大事な時でも自信をもって告白できないのが本来の俺だ。
「もう!! 本来なら落第点だけどギリギリ及第点ってことにしてあげる。今度、盛り上がった時に、ちゃんと好きって言ってね。情熱的に好きって言ってね」
仕方なさそうな顔で
「と、とりあえず、
俺は誤魔化すようにヤシの実の半分を渡すと話題を変える。
「そうだね。多分、そのバナナ、熟してないし、焼いたり茹でたりして食べる、お芋みたいな食べ方のバナナじゃないかな?」
「
俺は、小学生のころ理科だか社会だかでやった火起こしを思い出す。やっぱり木の棒を回してこすり合わせる感じか?
「やっぱり、何もない無人島みたいなところで火を起こすなら摩擦で火を起こす感じ? ゆみきり式っていうのが一番火起こし器自体を作りやすくて現実的かな? どっちにしろ、火を起こすのは大変だけど」
まあ、俺が考えていたものと大体一緒だろう。ただ、あの手の物はちょっとしたコツや仕組みで断然成功率も変わってくる。ここは
とりあえず、
「というか、紐がないよね。つるとかで代用するならゆみきり式よりひもきり式かな?」
とりあえず、俺は森に入り、材料を探す。
文明ゼロの新世界。100%大自然のこの世界では平らな板や真っ直ぐな棒が流れてきたみたいなものは期待できない
俺はなるべく平な部分が多くてよく乾燥していそうな倒木やなるべく真っ直ぐな枯れ枝、木に絡まっているつるなど、何組か集めて持って、多めの材料を持って帰ってくる。1組だけだとなんか工夫が必要な時に材料がなくて詰む。みたいなことがありそうだからな。そしてもちろん、火が付いた後に焚火をする為の薪になりそうな乾いた木や枝も多めに集める。
「いっぱい持って来たね。やっぱり、紐じゃなくてつるだと弓は作れないかな」
独り言のようにそう言って、材料を精査する
そして上手く、倒木の穴などを活用して火起こし器を作る
火起こし器といっても板代わりの倒木の穴に棒を挿して立てて上から小さな木片で抑えて固定する。
「りゅう君、この棒に、このつるをひと巻きして、両端を交互に引っ張って。私が上から木を抑えておくから、なるべく早く引っ張ってね」
そう言って、
「なるほど、つるの両端を交互に引くことで、棒が回るのか」
俺は感心しながら
「ちょっと紐じゃなくてつるだから苦戦しそうだけどね」
「それじゃあ、いくぞ」
俺はそう言って最初はゆっくりつるを引く。
なるほど、つるだと柔らかさも足りないし、棒とつるが滑ってあまり効率的には回せないようだな。
「やっぱり、紐が欲しいね。衣食住が落ち着いたら、藁みたいな雑草を編んで紐作った方がいいかもね。紐があると色々サバイバル技術の幅も広がるし」
つるの硬さと滑りやすさに苦戦しながら何とか火起こし器を回す。何度も何度も、長い時間をかけて。
そして煙が出だし、急いで
それをさらに3回繰り返すが、板から煙が立って終わり。ヤシの実の繊維には火がつかない。
「ダメだな」
俺はそう言って、4回目の挑戦が失敗し、一回休憩する。
「というか、さっき神様がここって、異世界で異世界転生って言ってたんだし、小説みたいに魔法とか使えるんじゃないの? ファイヤーボール!! みたいに叫ぶと火が出るみたいな」
「ははは、そんな都合のいいことおこるわけ」
俺がそう言おうとしたところで
「あ、出た」
「火が消える! 消える!」
俺は叫びながら、慌てて、手元にあるものを火に放り投げる。本来は種火を作る為のヤシの実の繊維や木の葉、細い枝。まずは燃えやすそうなものをがむしゃらに放り込んでしまう。
おかげで火は大きくなり、落ち着いて枝や少し太い木片などを放り込んで息を吹きかけ薪になりそうな木片に何とか火を移す。
「なんとかなったな」
俺は、そうつぶやき、たき火らしくなったものを見て、一段落つける。
というか、魔法で火が出るのかよ。
そして、安心して、
「りゅう君、なんか、頭がクラクラする。それとなんか気持ち悪い」
そう言って、ふらふら体を揺すると、ばたんきゅーって音が聞こえそうな感じで横にコテンと寝転がる。
「
俺は慌てて、
「おーい、神様、神様いるか?」
俺は大声で叫ぶ。だが返事がない。
「誰でもいい、返事してくれ!」
俺は
「何か、御用でしょうか?」
突然、俺の前に現れる一人の女性。
女性というより神様? さっきのおっさんと同じように半透明で空に浮いている女性が現れた。
「あなたは?」
俺は混乱したまま、その女性に声をかけた。
次話に続く。
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