第38話  アストリッドの乙女心

「それより、沈黙の村を助けに行く方が、先だろう!!」


 アルフォンソは、二人に叫んだ。

 アウグステは、アルフォンソの肩を叩いた。


「アル、落ち着いて麓を良く見てみろよ」


 アウグステは、麓の沈黙村を指差して言った。

 ここに来た時と変わらない景色があった。


「どうなってるんだ!? あの少年が襲いに行ったのではないのか?」


「そもそも、アヴィン・ディアルは存在しないのさ」


「だって、神獣の猫ちゃんが言ったんだろう? 彼が、未来の大悪人になるって?」


「ラルカの言う事は、決定的ではないという事だな」


 アルフォンソは、アウグステをまんじりと見た。

 そして、ラルカを見た。

 ラルカは、尻尾で顔を隠していた。


「じゃ、なんでアストリッドを泣かせてるんだよ」


「苛めてるんじゃなくて、事情を聴いてたんだよ」


「事情?」


 アルフォンソは、アストリッドを見て言った。

 アストリッドは俯いていた。


「アルに優しくしてもらえて嬉しかった」


「アストリッド?」


「あたくしが、ディハルドなの」


 アストリッドのカミングアウトにアルフォンソは、大層驚いたらしく、アウグステの顔を見て来た。


「最初に見抜いていたのは、おばあ様だろうね」


「ど、そうして?天界の神が地上に来たんだ!?」


 アルフォンソが恐る恐る聞いて来た。

 以前の態度とは、全然違う。

 それに気づいたアストリッドは、傷ついたように再び俯いた。


「アル、アストリッドに悪気はないようだ。ただ、今一つ、動悸が分からないんだ」


 アウグステがアルフォンソに言った。


「イリアスのように、愛されたかっただけよ。人の輪の中で……それだけよ……でも、こんな黒髪、嫌いだわ!! 闇を纏っているみたいで、闇の神であった頃を思い出してしまうわ」


 アルフォンソが、あることに気が付いてアウグステの耳元に来た。


「ディハルド神て、女なわけ?」


「イリアスにだって、女性の半身がいるんだぞ。女性は、イグニスって言うんだ。ディハルドも性別が無いイコールどちらにでもなれるってことだな」


「ふ~ん」


 そこへ、ラルカが銀の森への帰還を促してきた。


「キサナド様に会える!!」


 アストリッドの声のトーンが上がった。


「キナサドが気に入ったのか!?」


「サントスの街で君を待っている間、一緒に街を案内してくれたんだよ。

 キサナド君は、随分紳士的だったな」


 アストリッドが闇の神と聞いて、アルフォンソは、アウグステの傍から、離れられなかった。


「ふ~ん、あんなので良ければ、譲るぞ。アストリッド」

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