第29話 テルヌの水竜
ラルカの魔法で、一瞬のうちに大山脈を越えられた。
「流石、神族だな」
アルフォンソは驚いて言った。
揺れも、ブレも無い魔法陣など、人の世界には存在しない。
《そんなに北に行くわけじゃないから、毛皮なんていらなかったのに》
ラルカが、真新しい毛皮のコートを着込んでいるアルフォンソに、言った。
『女の子の夢を壊すなよ、猫ちゃん。旅に出るなら、新調した服で行きたいじゃないか』
《そんなものかね~あっ!!僕は、ラルカだよ、神獣だよ?猫じゃないから、敬って欲しいな》
『はいはい。猫ちゃん』
ラルカはアルフォンソを睨んでいた。
アルフォンソに毛皮を買って貰ったであろう、アストリッドは、アウグステを見て言った。
「アウグステは、平気なの!?そんなに薄着で……」
「私には、火竜の加護もある。寒くはない。それより北へ行くってキナサドに聞いたのか!?」
「キサナド様よ!!アウグステ!!そうよ、私たちは一蓮托生なのでしょう!!」
「うぅ……」
言葉に詰まるアウグステである。
(キナサドの奴め~~)←(間違えてる)
サントス神殿での様子を自前の水晶で、視ていたらしい。
《アウグステ、此処はエル・ヴァサロ王国の南部地方のテルヌ。
大きな湖があって、竜神信仰が古くからあるんだ》
ラルカの魔法で、大山脈の北側に来た一行は、上空からテルヌの人里らしい村を見つけた。
村は、大きな湖のすぐ近くにあった。
《あの湖には、水竜がいるよ》
『水竜か……うちらの方には滅多にいない竜だな。挨拶をしてこよう』
アウグステが言って、一行から離れて行った。
「アウグステ!!」
アストリッドが追おうとして、アルフォンソに止められた。
「勘弁だぜ。もう分かっただろ!! アストリッド。
アウグステは、血筋も魔法の力も我々とは、かけ離れてるんだ」
「分かってるけど……」
テルヌ サウザン湖____
アウグステが、湖の中程に行くと、小さな小島があった。
本能的に、此処は避けた方が良いと思い、湖の上から水竜を捜した。
小島を離れてしばらくして、前方にキラリと光る物体を見つけた。
「あれか!?」
程なくアウグステは、大きな水竜に遭遇した。
『神の眷属たる竜族の方にご挨拶を申し上げます。私は山脈の向こうから、来たアウグステ・ルースティリア・エル・ロイルという者だ。
そなたは、此処に古くから住んでいるのか?』
水竜は、アウグステに気が付いて、彼女の周りをくるくると回った。
『南の者など、百年ほど見なかったものを……何用があって我が領域に来たのだ?』
『我が領域か……なるほど、そなたよりも上位の神がこちらに来たのを知らぬのか?』
『お前の言っていることが分からない。我は、神ぞ。我より上位とは何事ぞ。』
『私は、ロイル家の娘だ。お前は、イリアス・ロイルの眷属ではないのか!?』
『それは昔の話、我は人を食らって村の繁栄を約束した神ぞ』
『話が通じないな……』
『話がしたいなら、竜神の島へ行け。神官に話を通しておく』
『え~~!!』
アウグステは、嫌そうな声を上げた。
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