第20話  宿屋にて……

『ラルカはどうするんだ!?私達と一緒の部屋の泊まるか!?』


《僕のことは良いから、風の奥方にちゃんと謝れよ。君を見失って、凄く心配してたよ》


『分かってるが、皆の前だ。奥方にはみんなが寝静まった頃に謝るよ』


 アウグステは、ラルカにそう言うとアストリッド、アルフォンソに続いて宿の中に入って行った。


 高級な宿だった。


「馬鹿野郎!! アル、我らは学生だぞ。こんな目立つ所に泊まったら通報されるだろ!!」


「これ以下の宿には泊まりたくはないな。私の身支度のして欲しいし。君の服は少々私にはきつくてな」


「勝手にしろ!!路銀が勿体ないから、一部屋しかとらんからな」


 アウグステの言葉に喜んだのは、アストリッドだった。


「わ~~ 今日は一緒のベッドで寝ましょうね、アウグステ」


「勘弁してくれ~~ お前の方がディハルド神より怖いぞ」


 アウグステのその言葉に、アストリッドは、深く傷ついたようである。


「そんな……お化けみたいな神様とあたくしを比べるの?」


「いや、そういう意味では……」


 泣きじゃくるアストリッドは、アルフォンソの所へ助けを求めに行った。


「アウグステ……いい加減にしろ。お前の旅にワタシたちが勝手について来たのは悪いと思っているが、友人をそこまでコケにするのか!?」


「ディハルドは本当に優しい神でな……別に比べたつもりでは……」


 しどろもどろに言い訳をするアウグステを見て、大きく溜息をついたアルフォンソが言った。


「さっき、霧の中で見たんだな。その化け物じみた神様ってやらを……

 昔はオアシスの守り神だったそうだからな。優しいだろうよ。

 だったら、お前も優しくしてやれよ。皆に」


「何を言ってるんだ!? アル? 私は普通に接してるだろ?」


「自覚がないのか? 幼い頃から兄に虐待されて、挙句に学び舎に入れられた。君の母上がエル・ロイル家の人だったね。父上は三賢人で忙しくて、母上は父親の違う妹を溺愛してるんだっけか!?」


「兄や両親やナターシャのことは関係ないだろ!!」


「君は家族の誰にも心を開いていないんだ。我々にもね。多分、精霊にもじゃないのかな?」


「……アルがそういうのなら、そうなんだろう……だが、ラルカとの旅を邪魔するなら、明日の朝、アストリッドを連れて学び舎に帰ってくれ」


「ワタシは、どちらでも良いんだよ。だが、我が姫が君に随分ご執心でね」


 アウグステは、大きく息をついた。


 ベッドでは、アストリッドがもう寝息を立てていた。

 アルフォンソは自腹で、自分の旅用の服とアストリッドの服を揃えてやった。

 翌朝、それを見たアストリッドは、アルフォンをの頬にキスをして喜んだ。

 これでダブダブの服を着なくて良いのだ。


 三人が遅めの朝食をとっていると、嫌な噂が耳に入ってきた。


 ナムラ砂漠が今、戦時下にあるというのだった。

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