第18話  一つ目の怪物

 霧の中をあても無く歩いてると、霧が次第に晴れてきた。

 アウグステはホッとした。

 が、一瞬で愕然とした。

 いつの間にか、崩れ落ちた廃墟の前にいたのだ。

 夜だというのに、大輪の花が咲いていた。

 香りでむせ返るようである。


「いつの間に……? ディナーレにこんな所があったのか!?」


 大都市のディナーレ。

 古くはドーリアの王都。

 だから街は、古い建物と新しい建物が入り混じって立っていた。

 だが、中央神殿が出来て、新しい政治の中枢、元老院の建物が出来て、ディナーレの街は大きな建物が目立っていた。

 こんな崩れ落ちた廃墟は、無かったはずである。


 アウグステは廃墟に近付いて行ってみた。


 霧の中から、大きな怪物の身体が浮かび上がってきた。


《何か用か? ロイルの娘》


『何故、私がロイル家の者だと分かるの!?』


 怪物が、アウグステの方を振り向いた。

 一つ目だった。

 口が裂けていた。

 アウグステは、悲鳴を飲み込んだ。


《人の作りし、紛い物など我には無にも等しい。そなたからは、イリアスと同じ匂いがする》


『そうなの?』


《そなたは、自分のことが分かっておらぬのだな……》


『ディハルド神よね!? どうして地上に来たの!? 何がしたいの?』


《来たとは、面白いことを言う娘だな。我はずっと、此処ここに居るに。だが、此処はもう、そなたたちの世界になるのだ。我は、もう引き下がろうと思う……》


 ディハルド神は、恐ろしい顔と反比例して寂しそうに話した。


『引き下がるって、何処かに行くのか!? 天上界には帰らないのか?』


《面白い娘だな。天の父より、この世を守れと命じられて、地上に居るのに帰れとは》


 アウグステは、このディハルド神が過去の残像だと察した。


『これから、どうするつもり?』


《最後のディアルの乙女、エストナも死んでしまった。我は、大山脈を越えて行こうと思う。北の人間の静寂を願うだろう》


『でも、あなたは!!』


 言おうとして、アウグステは迷った。

 今、言ってしまって、運命が変えられるものか!?


 迷って、アウグステは口を開いた。


『お願い!! ディハルド神。このまま天上界へ帰って。あなたは北の人には受け入れられない!!』


 ディハルドは、フフフと笑うながらアウグステを見て言った。


《我を、必要としている人間はいる。その者らと一緒だ》


 霧の向こうに、何人かひれ伏していた。


『でも!!』


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