第17話  迷子

「珍しいなぁ……ディナーレにこんなに霧が出るなんて……」


 ディナーレ出身のアルフォンソがポツリと言った。


「海に続いてるんだろ!?微かに嗅いだことのないにおいが混じってるぞ」


 と、アウグステ。


「ああ、潮の匂いだな。早く、宿を決めておくことにしようぜ。

 大通り沿いに、宿屋が並んでる」


「キャ~~ 一緒にお風呂に入りましょうね、アウグステ」


 アストリッドがアウグステの右手に腕を絡ませてきた。

 ジロリと睨みつけたが、アストリッドは気にする様子はない。


「アル、案内してくれ!!ほら、アストリッド。アルの後ろをついて行け。お前が一番歩くのが遅いんだから!!」


 アウグステは腕を振りほどいて、アストリッドを先に行かせた。


「は~い」


 フッと息をついて、アウグステはアストリッドの後を追った。

 ……つもりだったが、アストリッドの姿はもう何処にも無い。


「え?」


 霧が一段と濃くなってきた。

 先ほどまで、アルフォンソやアストリッドと話していたのに、もう姿が見えなくなるとは……。


「アル~!! アストリッド!! ラルカもいないのか!?」


 アウグステは、周りの異変に気が付いたのはしばらくしてからだ。

 霧のせいで、街へ繰り出している人は少ないとは思ったが、あまりにも周囲の音が静かすぎた。


 身体にまとわりつくような霧の中で、アウグステは完全に方向を見失ってしまった。


「仕方ないな……上から見るか……奥方、頼む」


 彼女が生まれた時に、風の奥方が祝福に訪れたのだ。

 それ以来、アウグステは風の精霊の祝福を持っていた。


 が、この時彼女の気配が頭上に無かった。


「おい!! リザベータ!?」


 創世の時から存在している高位の精霊だ。

 しかも、普通の契約精霊でもない。

 向こうから、加護をしたいとやって来たのだ。人に言葉ではこの契約形態は祝福という。


 精霊の契約形態は、契約、加護、祝福とあって、圧倒的に多いのが契約であるが、加護、祝福になるにしたがって、精霊との絆も強くなっていくのだが、現代は、精霊と契約自体をしない魔法使いも多くなっている。


 アウグステは、魔法も使えず完全に迷子になった。


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