第9話  三賢人

 アウグステは、学び舎の教授を通して神殿の三賢人に、面会を求めた。


 彼女の絶叫で、宿舎の殆どの生徒が飛び起きた次の日だった。

 日頃、気だるげにニコリとも笑わないアウグステが、大声で叫んだのだ。


『馬鹿野郎!!』


 と、古代レトア語で。


 何事かと、学び舎の生徒を世話をする巫女が駆けつけてみれば、既にアウグステの部屋の前には、幾人かの生徒が集まっていた。


 部屋には内側からカギがかかっている上に、ご丁寧に結界まで張ってある。


 世話係の巫女のカリナは、大事なロイル家の姫を預かっているという重圧に日頃悩んでいた。

 この姫に、何かあったら責任を問われるのは自分なのだ。

 彼女は神に祈りを捧げて、厳かに部屋の扉をたたく。


「アウグステ・エル・ロイル、何かありましたか!?何故、部屋に結界が張ってあるのですか?速やかに結界を解いて……」


 彼女が最後まで言い終わらないうちに、扉は開かれた。

 身なりは、完璧に整えられ、制服をピシッと着こなして、ストレートの銀髪は、ブラッシングされていた。


「失礼いたしました。皆さま、こんな朝から何かありましたか?」


 アウグステはしれッと言い放った。

 周囲の者はポカ~ン状態である。


「扉に結界とは、穏やかではありませんね」


 カリナが言うと、


「毎朝毎朝、私を起しに来る友人を避けただけです。それが何か?」


 アウグステは、ニッコリと笑って言った。


「カリナ様、お願いがあります。光の神殿の三賢人にロイル家の姫が面会をしたいとお伝えください」


 アウグステの言葉は、ロイルの姫の言葉として教授に伝えられた。

 教授も、ロイルの姫の言葉は無視はできない。

 十年前にアウグステが学び舎に入学してきて以来「お願い」をされたのは初めてのことである。



 ♦



 光の神殿___

 三賢人が集まる部屋に、アウグステは居た。


「賢人様!! 神剣アフレオスは、模造品ですか!?」


 三賢人は、揃いも揃ってハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「確かに今、神剣の間にあるご神体は、アフレオスの分身です。ですが、魔法鍛冶師が二十年の歳月をかけて作りし物。紛い物と言われるのは心外ですな」


「いや、私が言ってる訳ではない。実は、私は神獣というものに導かれている。その神獣が言うんだ、各神殿の神体は守り刀にならぬと……」


「酷い言われようですな。その神獣とは?」


 ティマーク大神官が言った。

 アウグステには、ティマークの頭の上で、前足をペロペロと舐めてるラルカの姿が見えていた。


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