第7話  予見師、キサナド・マーロウ

 アウグステが光の神殿に入って行くと、直ぐに、巫女が応対してくれた。

 ここに配属されるというだけで、エリ-トの道は約束されていた。


「三賢人に会いたい。急ぎのようだ。ロイルの姫が急ぎ会いたいと伝えてくれ」


「ですが、三賢人様はとても忙しくていらっしゃいます。今日はお約束だけでもされて、後日という事ではいけませんか?」


 緋色の腰紐の若い巫女は困った様子で、アウグステに言ってきた。


「急ぐと言ってる!!」


「でも……」


 こんなやり取りを、笑いながら見ている男がいた。


「レナーシュが可愛そうだよ? 解放してあげて」


 二人は男の方を見た。

 レナーシュと呼ばれた巫女は、ホッとしたようにアウグステに一礼してその場を去った。

 彼女は知っていたのだ。

 彼が、アウグステの許婚者であることを。


「キナサド・マーロウ!!」


「キ、サ、ナ、ド・マーロウです。もう、六年にもなるのに名前も正しく覚えてもらえないなんて……僕は不幸だなぁ!!」


 キサナドは、泣いたふりをした。


「名前なんてどうでも良い!! お前でも良い!! 神殿は今どのくらい未来まで予見してるんだ!?」


「どうしたの!? アウグステ!?」


 アウグステはキサナドの胸倉を引っ掴んで言った。

 キサナドの淡い金の髪が、アウグステの銀髪と交差した。


「先代の予見師が残したものが、後幾つかあると聞いてはいるけど。

 僕には教えられてないよ。三賢人だけしか知らないと思うよ」


 キサナドは、銀色の瞳を細めて言った。


「お前には、視えてるのか!? 戦乱の世が来ることが?」


「誰が……そんなことを言ったんだい?」


「人じゃない……夢の話だよ……」


 アウグステは、キサナドから離れた。


「う~~ん、僕には神殿の弱体化くらいしか視えてないけど……」


「それは本当のことか?」


「でも、ここにはご神体の分身が祀ってあるし、サントスにも中央神殿にも、それぞれご神体があるだろ!! だから大丈夫さ!! 民衆の心が神殿から離れることは無いよ。いざとなれば、奇跡の力を起こせる君がいる」


 キサナドは笑いながら言ったが、アウグステは聞いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る