1-15 好きがダダ漏れ

「……!!」


エレンの妖精のような特別感のあるオーラと所々キラッと輝く四聖星シエルの衣装がとても合っており、アシュレイはちょこんと立って照れているエレンに見とれてしまった。


「か、かわいい……」


思わず感想が口から漏れる。




「服が?それとも私が…?」

エレンがスカートの裾を少しつまんで小首を傾げて訊く。




「え、えと、その、どっちも……です」

アシュレイが両手で赤くなった顔を隠しながら言った。


傍から見たら頭から湯気でも出てるのでは、と思うほどに顔も耳も赤い。


「えへへ、良かった」

エレンは彼のバレバレな好意をあまり気にせずにはにかんだ。



女王陛下がその二人の様子を見て

「若いっていいわね。二人ともよくお似合いですよ」

と口元を隠してふふふと笑った。







 男の四聖星の服は紫のネクタイに紺色のズボンだったが、女の四聖星の衣装は、紫のリボンに紺色や紫色、黒色などの夜空カラーの生地で出来たスカートであった。

 女性の衣装はさらにロングブーツから半透明の靴下がちらっと見える。




アシュレイやエレンが着用している四聖星の服は各所に輝くパーツが取り付けられ、見るからに特別なオーラを放っていた。


「アシュレイ、似合ってる」

とエレンが不意に言った。


「あ、ありがとう……」

アシュレイは頭を軽く掻きながらエレンの黒い瞳から目を逸らした。




女王陛下が両手をパチンと合わせ、

「ラティ君とルーク君が来るまでとある部屋で待っててくれるかしら、私はパーティーの準備があるから」

と、ある部屋に案内してくれた。






その部屋の中はまるで夜空の中を飛んでいるような気分になる部屋だった。


部屋の真ん中には薄い黄色の円テーブルがあった。近づいて見ると一部がへこんでいる。真上から見ると月の形になっていた。

床には星柄のカーペットが敷いてある。


「わっフワッフワだ~!あ!天井は星座模様になってる!」


天体モチーフの雑貨を集めるのが好きなアシュレイは部屋の家具や装飾に目を輝かせた。


上を見上げると宇宙柄の下地に白い点々で星座が描かれていた。横の四方の壁紙はスカイブルーに雲が浮かんでいる空をイメージしたものだった。


「ここに住みたい……」

アシュレイは幸せの領域に浸りながらも、ここは城の中であり手に入るものでは無いということを残念がった。




ふとエレンを見ると、さっき来る途中に買った四個入りのチョコボックスの残り二つをゆっくりゆっくり味わいながら幸せそうに食べていた。

エレンは本当にスイーツが好きなんだなぁとその表情から読み取れる。




部屋を見回すと掛け時計があった。

円形の周りは水色で縁どられ、長針・短針が流れ星型になっている。

じっと目を凝らして見てみると目盛りの周りがほんのり水玉柄になっている。



「今何時だろう?」



時計の針先につく流れ星の装飾が針と垂直に交わっている為、星の何処が正しい時刻を指しているのかが分からない。

アシュレイは眉間にしわを寄せた。


「九時三十分から三十五分くらい……?」



任命式まであと三十分程ある。

ルークとラティはいつ来るのだろうか。


「昨日、エレンに負けてルークちょっと落ち込んでるように見えたからかな……」




何か慰めるような言葉を言うべきだったかな、と彼が腕を組んで考えていると、


「アシュレイって何部に入ってるの?」


とエレンが急に質問を投げかけてきた。

「部活、何部?」

「え、あぁ吹奏楽部だよ」

アシュレイが慌てて答えた。


「へぇーなんの楽器?」

「いつもはフルートだけど、たまにバイオリンとか。あとピアノも助っ人で弾いたりするよ」

アシュレイが指を折り数えて話す。




「アシュレイってリズム感良さそう。色んな楽器出来るんだ、すごいね」


エレンに褒められて縮こまるアシュレイ。

少し恥ずかしい、けどもちょっぴり嬉しい。


「どうして色んな楽器を吹けるの?」というエレンにうーんと少々悩む。


「うーん、お母さんの影響かな。僕のお母さん、占いも得意だけど、色んな楽器の演奏が出来るんだよね。一度聴いた曲なら直ぐに弾けちゃうんだ」

「それはすごいね!オーケストラとかに出たりするの?」


アシュレイはふるふると首を横に振る。

「ううん、お母さんの職業は占い師だよ。村では有名人で、占い、よく当たるんだよ。僕も少しなら出来る」


「え、一度聴いた曲すぐに演奏できるなら音楽系の職に就けばよかったのに」


エレンの黒い瞳が悲しそうに揺れた。

アシュレイも目を伏せて言葉を続ける。


「僕の家系は代々星詠みの家系なんだ。星から運勢を読み取って人々に伝える役目。

その家に生まれた女性は占い師にならないといけない決まりで……。

トーネソル家の人は異能持ちが多くて、先祖に”未来予知”や”透視”の能力を持ってる人がいたよ。そういう影響で僕は『読心』、人の心を読むことが出来る異能持ちなんだ」


「未来予知とか透視ってことは"視る"ことや"詠む"ことが得意ってこと?」

「そういうこと」


「なんか、自分が就く職業が最初から決められてるなんて、可哀想…」

「お母さんは『別に占いも好きだからいいの』とは言ってたけどね……」



その後しばらく沈黙が続き、気まづい空気が漂った。


エレンは何部か訊こうとしたら部屋のドアが勢いよく開き、四聖星の服に着替えたラティが口笛を吹いてスキップしながら入ってきた。その後ろを同じく着替えたルークがついてくる。


「よっ」

ラティがエレンとアシュレイに片手をあげて挨拶をした。




─────午前九時四十五分。あと十五分で僕らは正式に四聖星シエルになる。

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