第34話 イメチェン

 イメチェンに結構時間が掛かってるみたいで、昼食を作り終えてもまだ色々と格闘していた。

 俺には最後に見せたいらしく、居間を追い出されるし。

 結局、自分の部屋で1人で飯を食っていた。うまい、うまい。

 ……1人で食べるの、寂しいなぁ……。



「にしても……甘やかしすぎ、か」



 確かに自覚はあった。

 でもあの子たちは1人で外に出られないし、家にいるしかやることがない。

 だからどうしても甘やかしたくなるし、大切にしたくなる。

 それが依存に繋がって、将来苦労するのも想像できるけど……。



「将来とか、イメージできないよな……」



 俺1人なら、将来なんていくらでも考えられる。

 料理人になるかもしれないし、親の後に続いて研究者になるかもしれない。

 それか無難に公務員か。

 思い切って起業か。

 いっそのことバックパッカーで世界中を旅するのもいいな。


 ──いや、こんなの現実逃避だ。


 俺の人生には、土萌たちがいる。

 俺だけの将来だけじゃなくて、土萌たちのことも考えないといけない。

 それに……父さんたちの研究によっては、土萌たちがどうなるか……。


 1人の人格だけが残るのか。

 それとも全てが一緒なって、別の誰かになるのか。

 ……考えただけでも怖いな。

 生まれてからずっと一緒だった訳だから……誰かが消えるとか、考えたくもない。


 これは、俺のエゴなのだろうか。

 みんなからしたら、今この現状がおかしいのであって、不便に感じているのかもしれない。

 それだったら、1人でいる方がみんなにとっては幸せなのかも。

 どんな未来になっても受け入れなきゃいけないんだろうけど……。



「はぁ……覚悟なんて、できないって」



 まあ、まだ研究は完成してないし、考えるだけ杞憂ってもんか。

 昼飯を食い終えて手を合わせる。ごちそー様でした。


 と、その時。階段をドタバタと駆け上がってくる音が聞こえ──バンッ! 地雷ちゃんがものすごい勢いで部屋に入って来た。



「虹谷っ、できたわ! すっっっごいわよ! 土萌、めっちゃ変わった!」

「わかった、わかった。けど部屋に入る時はノックしてくれ。男のお楽しみタイムだったらどうしてくれるんだ。互いにトラウマもんだぞコラ」

「はぁ、何言って……ぁ」



 俺の言っている意味に気付いたみたいで、急速に顔が真っ赤になった。



「なななな何言ってんのよっ、ばか! い、いいから早く来なさい!」

「へいへい」



 地雷ちゃんに急かされて1階へ向かう。

 地雷ちゃんが居間に続く扉の前に立ち、ニヤニヤ顔で扉に手を掛けた。



「土萌、入るわよー」

「まっ、まままま待って……! こ、こんなかっこぅはぁ……!」



 ガタガタガタッ。なんか騒がしいな。何してるんだ、土萌のやつ。

 土萌が慌てたような声を出しているが、地雷ちゃんは気にしていないみたいで……思い切り扉を開いた。



「──ぉ……ぉぉっ……?」



 まず目に飛び込んできたのは、日光に照らされて艶やかに輝く、長い黒髪だ。

 いつものぼさぼさ感はない。驚くほど真っ直ぐで、艶がある。

 前髪も綺麗に編み込まれていて、ワンポイントアクセントになっていた。


 そして何より、いつもと違うのは……顔だ。

 いつも絶世の美女だとは思っていたけど、ナチュラルにメイクされてることで、更に美女になっている。

 今はオロオロして涙目になっているけど、頑張って憂いのある表情を作れば、今すぐにでもモデルになれそうだ。

 今まで見たことのない土萌に、気持ちがそそられる。

 ……なのだが……。



「なんで縛られてるの?」



 腕と胴体まとめて背もたれに括り付けられてるし、脚も完全に縛られてる。

 見ようによっては犯罪現場だ。拉致られてると言われても信じられる。



「だって逃げようとするんだもの。縛られてる当然よね」

「お前、常識を母体に忘れてきたの?」

「今まで友達がいなかったから、常識とかわかんなーい☆」



 はっ倒すぞ。

 地雷ちゃんの頭部にチョップをかまし、縛られている土萌を解放する、

 ぶっちゃけ眼福……じゃなくて目の保養……じゃなくて目に毒すぎる張り出し具合で、目のやり場に困る。



「土萌、大丈夫か?」

「ぁ、明義殿っ、み、見ないで……ぃ、今のボクをみないでぇ……!」



 恥ずかしそうに顔を手で隠す土萌。

 ……そんなに恥ずかしそうにされると、俺もちょっといじめたくなるんだけど。

 土萌の手首を掴んで、無理に手を開く。

 ばっちり間近で目が合った。



「ぁゎ……ぁゎゎゎゎっ……!?」

「土萌、可愛いよ」

「ほひょっ……しょ……ぁ……」



 あ、また気絶した。

 気絶した顔も可愛いな。……これは彼氏バカすぎるか。



「私よりあんたの方が酷いことしてるじゃない」

「しとらんわ」



 友達を椅子に括りつける以上に酷いことなんて、そうそうねーよ。

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