第33話 準備

「ぶつぶつぶつ……はっ……!?」



 あ、ヘラったメンタルが回復した。



「土萌、大丈夫か?」

「ぁ、ぅん。だいじょ……ひぅっ」



 土萌は呆然と辺りを見渡すと、地雷ちゃんと目が合って俺の後ろに隠れた。

 地雷ちゃんもどう接したらいいのかわからないみたいで、俺と土萌を交互に見る。



「えっと……じゃあ、改めて。土萌、この子が地雷ちゃんだ」

「自己紹介くらいちゃんとしてくれないかしら。宮地雷香よ、よろしく」

「ひっ、ひぇっ、ひぇぇ……!」



 地雷ちゃんが手を差し出すが、土萌は怖がってるのか更に隠れてしまった。



「こら土萌。挨拶しなさい」

「むむむむ無理ぃっ、よよよよ陽キャこわぃ……!」

「安心しろ。地雷ちゃんは陰の者だ」

「ぇっ、仲間……!?」

「ああ、仲間だ」

「仲間……!」

「ものっっっっっっっっすごい失礼よね。失礼よね!?」



 いや、だって事実だから。

 地雷ちゃんを陰キャと呼ばず、誰を陰キャと言うんだ。

 けどおかげで土萌は仲間意識が芽生えたみたいで、少しだけ俺の後ろから出てきた。



「と……ととと、土萌、です……ょ、ょろしくお願ぃしましゅっ……」

「え、ええ。よろしく。……なんかあなた、他のみんなと違って大人しい子ね」

「じ、自覚してましゅ……」



 こればかりは個性としか言えないから、擁護しようがない。

 また手を差し伸べてきた地雷ちゃん。

 手と地雷ちゃんを交互に見ると、最後に俺を見た。

 まるで「よし」を待ってる犬みたい。


 少し苦笑いを浮かべて頷く。

 土萌は意を決したように頷き、地雷ちゃんの手を取った。

 あの恥ずかしがり屋がコミュニケーションを……成長したな、土萌。



「土萌、今日はお前のために、地雷ちゃんがいろいろも用意してくれたみたいだぞ」

「よ、用意……?」



 ちょっとそわっとした顔をした。

 土萌って、意外とプレゼントとか好きなんだ……長年一緒にいるけど、初めて知ったかも。



「ええ。土萌、こっち来て」

「ぅ。……はぃ……」



 緊張しながらも近付くと、笑顔の地雷ちゃんに捕まった。

  突然捕まり、がっちがちになる土萌。

 捕まえた土萌を地雷ちゃんは椅子に座らせ、前髪をピンでサイドに分けた。

 当然だが、今までにないくらい顔があらわになった。

 俺は割と見慣れてるけど、初めて見た地雷ちゃんは目を見開いた。



「まっ、本当に綺麗な顔。えっ、こんなに綺麗なの……!?」

「だろ。土萌は可愛いんだ。いつも言ってるのに、本人は絶対認めようとしないけど」

「こんな綺麗な顔をメイクで更につよつよにするなんて、腕が鳴るわっ。……あれ、土萌?」



 え? ……あ、気絶してる。白目を剥いて、完全に。

 でもおかげで、もう暴れることはないだろ。後は地雷ちゃんに任せるか。



「それじゃあ地雷ちゃん、よろしく」

「地雷ちゃん言うな。ええ、任せて。完璧に可愛くするからっ」



 ふんすっと気合いを入れた地雷ちゃんが、メイク道具を手に土萌の顔をいじり始めた。

 さて、俺は昼食の準備でも始めるか。



「地雷ちゃん、食べたいものとかあるか?」

「んー、バロティーヌ」

「フランス料理作れと」

「できないの?」

「いやできるけど」

「できるんかい」

「みんなのわがままを叶えるために、どんだけ料理の勉強したと思ってんだ」



 普通に将来料理人として働けるくらいには、いろいろ勉強したんだよ。

 特に灯織と樹里。

 あの2人に関しては、食のこだわりが強いからな。



「あんた、みんなを甘やかしすぎじゃないかしら」

「自覚はある。でも可愛いんだ、みんな。甘やかしたくなる」

「わかるけども。もっと厳しくしないと、この子たちあなたに依存したままになるわよ」

「そ、それは……」



 確かに、みんなの将来を考えるとそれはまずいかもしれない。

 うーん……厳しくかぁ。

 ……できる気がしない。これが惚れた弱みなのか。

 地雷ちゃんに言われたことが頭に引っかかったまま、俺は昼飯の準備に入った。

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