第27話 事情聴取

 雷香『虹谷、今日もあんたの家行くからね』



 またか。いや、いいけどさ。

 メッセージにオーケーと返信し、帰り支度をする。

 地雷ちゃんがうちに入り浸り、今日で5日連続。

 今のところ月乃、灯織、瑞希、樹里とは波長が合うのか、みんなと仲良くしている。

 というより、みんなにとっては地雷ちゃんが初めての友達。

 地雷ちゃんにとっても、こんなに友達ができたことが初めてだから、素直に喜んでる感じだ。


 こんなに賑やかな家は、初めてかもな。

 口角が上がる。いかん、変な奴って思われる。

 さっさと帰ろう。学校なんて──



「何かいいことでもありました?」

「え。うぉっ……!?」



 思わず声が出た。

 だって、チル先生が机の下から顔だけ覗かせてるんだもの。ビビるだろ。



「虹谷くん、こんにちは」

「こ、こんちはす、チル先生」

「万智先生ですよ。笑顔でしたが、何かありました?」

「そんなことないです。いつも通り仏頂面ですよ」

「いつも眉間がしわしわですもんね」



 やかましい。

 先生は立ち上がると、スカートの誇りを払ってにこりと微笑んだ。



「虹谷くん、少しだけお時間くれますか? ノートを職員室まで運んでほしいんですよ」

「はあ、ノートを……」



 教卓の上を見ると、クラス全員の国語のノートが乗せられていた。

 マジか。30人分あるんだけど。



「い、委員長とか、担当委員とかいるでしょ。なんで俺が……」

「みんな帰っていますよ」

「え」



 言われて周りを見る。

 マジで誰もいなかった。俺とチル先生だけだ。

 まさか、全員これを予期して早々に帰ったな。

 ちくしょう、クラスメイトがいのない奴らだ……!



「はぁ……わかりましたよ」

「まあお優しい。男の子は頼りになりますね」

「こんな状況で無視するほど、人間捨ててないんで」



 肩にかばんを背負い、ノートを手に持つ。

 さすがに30人分だけあって、結構ずっしりくるな。チル先生じゃ持ち運べなさそうだ。


 先生と一緒に教室を出て、廊下を歩く。

 もう6月も半ばか。

 地雷ちゃんと関わるようになって、もう1ヶ月以上経ってるんだな。

 空を見上げると、雨が降りそうな雲が覆っている。

 少しずつ空気が湿っぽくなっていて、梅雨の気配を感じた。

 だと言うのに、外から聞こえてくる運動部の掛け声は元気いっぱいだ。


 チル先生も同じことを思ったのか、外を走っている陸上部を見てニコニコ微笑んでいる。



「皆さん元気ですね。私には真似できません」

「チル先生は学生時代、部活とか入ってなかったんですか?」

「運動は私の天敵なので」



 あぁ、確かに運動できなさそう。



「今失礼なこと考えました?」

「滅相もございません」



 なんで普通に思考を読んでくるんだよ。やめてよ、俺のプライバシーは?



「なら、今はどこの部活の顧問を?」

「やってませんよ。ちょっと校長に貸しがあって、部活の顧問は免除されているんです」



 ちょっとした暗黒微笑を見せるチル先生。

 校長、どんな借りを作ったんだ、あんた……。

 こ、この話はこれ以上深堀してはいけない気がする。



「虹谷くんは部活入らないんですか?」

「そんな余裕ありませんよ」

「たくさんの方とお付き合いしているからですか?」

「ず、随分とストレートに言いますね」

「事実ですから」



 おい、誰だこの人をゆったりチルいとか言い出したの。全然チルくないんだけど。



「実は、今日あなたにノート運びをお願いしたのは、それも関係していまして」

「……俺の人間関係についてってことですか?」

「はい。私としては、あなたの人生はあなたのものなので、自由に生きて欲しいとは思っていますが……いかんせん、学年主任の耳に入ってしまって」



 ……オゥ……。



「マジですか」

「大マジです」



 最悪だ。学年主任の川江先生って本当に厳しいんだよな。

 噂では、去年入学した不良生徒を全員更生させたとか。

 間違ったことを許さず、淡々と処罰を降す。

 今年もまだ始まって2ヶ月だが、川江先生の手腕で既に3人の不良が好青年になったらしい。


 てことは、俺はこれから川江先生に叱られて……。



「安心してください。まずは私が面談するよう言われているので」

「そ、そうですか」



 よかった。いやよくはないけど、川江先生よりチル先生の方がましだ。

 職員室までやって来ると、ノートをチル先生の机に置き、面談ブースへ通された。

 ベンチみたいなソファーが2つに、長机が1つ。仕切りで区切られていて、半個室になっている。



「さて、それではお話を聞かせてください」

「まあ、答えられる範囲でしたら」






「それでは、何Pまでしましたか?」






 ……ん?



「……すみません、よくわかりません」

「そんな機械音声みたいな返しは期待していません。では言い方を変えます。今まで、何人プレイまでしたことありますか?」

「よくわかんないって言ってんでしょ」



 は? 何? 何言ってんのこの人。セクハラ云々より、もっとやべーものを垣間見た気がするんだけど。



「おかしいですね……やはり現実と薄い本とは勝手が……」



 ぶつぶつぶつぶつ。

 何言ってんのか聞き取れないけど、なんかやべーことはわかる。

 チル先生、もしかして想像以上にやべー人なのでは?

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