第26話 美しきかな
「…………………………はっ!」
お、戻ってきた。
結局30分ぐらい放心してたな。
俺とゲームで対戦していた灯織は、コントローラーを投げ出して地雷ちゃんに抱き着いた。
「地雷ちゃん、だいじょーぶ?」
「え、あ、うん。大丈夫……だと、思う。ごめん、テンパっちゃって……」
頭を抑えている地雷ちゃんに、用意しておいた白湯を渡す。
ありがと、と小さくお礼を言い、口をつけた。
「はあ……ねえ、これ夢?」
「残念ながらリアルだ」
「そうよね……」
地雷ちゃんが、抱き着いている灯織の頭を撫でる。
灯織は嬉しそうに笑うと、地雷の胸に顔をうずめた。
「目の前であんなの見せられたら、信じざるを得ないわね。マジックとかトリックとかではなさそうだし」
「正真正銘、その子が月乃であり、灯織でもあるぞ」
「みたいね」
ようやく落ち着いたみたいで、地雷ちゃんは大きく深呼吸をすると、こっちを見た。
「正直驚いたわ。まさかこんな秘密だなんて、思わなかった。確かにこんなこと、誰にも言えないわよね。言ったら……」
それ以上は口にしなかった。
でもその先は、容易に想像できた。
今は父さんたちが秘密裏に研究をしているけど、こんなことが公になったら、マスコミはもちろん世界中の研究者に目を付けられる。
世間から向けられる視線は、友好的なものだけじゃないだろう。
そうなったら最後……月乃たちの命が、危ない。
「宮地、このことだが、わかってるな?」
「うん、絶対に誰にも言わない。約束する。月乃が……月乃たちがいなくなるのは、嫌だもん。せっかくできた友達なんだしさ」
灯織を抱き締め、綺麗な微笑みを見せる。
そっか……なら、心配はないか。
「友達? 地雷ちゃん、アタシとも?」
「ええ、もちろん」
「! 瑞希ちゃんと樹里ちゃんと亜金ちゃんと土萌ちゃんと明日花ちゃんとも!?」
「ふふ、そうね」
「〜〜〜〜ッ! やったー!」
嬉しさのあまり、ジャンプし始めた。
父さんたちがいなくてよかった。普通に近所迷惑だし、これ。
でも……そりゃそうか。初めての友達なんだもんな。喜ぶなって方が無理だ。
改めて、全身で喜んでいる灯織と、それを見守る地雷ちゃんを見る。
…………。
「はぁ〜……」
「何よ、ため息なんかついて」
「安心したんだよ。ほんと、マジでよかった……ここだけの話、地雷ちゃんが月乃に対して、悪い感情を持つかもって思ってた」
「悪い感情?」
「人間って、自分とは違うものを見ると、排除したくなるって言うだろ。そういうこと。友達いたことないからわからんけど」
「悲しいかな、私もいたことないから、わからないわ」
思わず地雷ちゃんを見る。
地雷ちゃんも、俺を見る。
数秒の間を置き、どちらともなく笑った。
「まあ、そういうことよ。それに、あんなに可愛いところを見せられて、気味悪がれなんて言う方が無理」
まだぴょんぴょん跳ねている灯織を見て、地雷ちゃんは微笑む。
だよな、可愛いよな。
もちろん、みんなも。
「あと、あんたの噂の出処がわかったわ。7人全員と付き合ってるってことでしょ」
「そういうことだ」
「みんな、納得してるのよね?」
「もちろん」
「……ならいいわ。誰か1人でも悲しませたら、私がぶん殴るから」
そいつは怖い。
肩を竦めると、地雷ちゃんはふんっとそっぽを向いて、灯織の所へ向かった。
「灯織ちゃん……いえ、灯織っ、今日はたくさん遊ぶわよ!」
「遊ぶ! めっちゃ遊ぶ!」
わいわい、キャーキャー。
うんうん。仲良きことは美しきかな。
けど、部屋に戻って遊んでくれない? ここ俺の部屋なんだけど。
頼むから寝させてくれ。
……まあ、今日くらいはいいか。
2人が何をするか話しているのを横目に、布団に潜った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます