第25話 暴露

 結局全部は食べきれず、明日の弁当として残した。

 一応、地雷ちゃんの分も残している。どうせ一泊していくんだし。

 夕飯を終えた2人は、今は月乃の部屋で食休みしている。

 と言っても、月乃たちの部屋なんだけど。

 みんなが共同で使ってるから、統一感ないんだよな。

 多分今頃、統一感のなさに違和感を感じてる頃だろう。

 皿や調理器具を洗い終え、俺も自分の部屋に引きこもる。

 にしても、今日は食べすぎた。何もする気が起きない。

 布団に横たわり、天井をぼーっと見上げる。



「にしても……まさか月乃があんなに自己主張するとはなぁ……」



 あ、いや。あの子に関しては昔から自己主張は激しかったな。

 けど、自分からこんな大胆な決断をするとは思わなかった。

 ……本当に大丈夫なのだろうか。

 俺は見慣れてるからなんとも思わないけど、変身途中を他人に見られるのは初めてだ。

 もし気味悪がられたら……ああああ、マイナスなことばかり考えてしまう。

 やっぱり今からでも……いやでも今更すぎるか。

 なら……いや……うーん……うがああああああ!!



「……何暴れてんの?」

「え? あ、地雷ちゃん」



 いつの間にか地雷ちゃんが入ってきていた。

 けど月乃がいない。どしたん?



「月乃はトイレよ。もうすぐ日付がまたぐから、先に虹谷の所に行ってって言われたの」



 あぁ、なるほど。

 というか、もう日付が変わるのか。時間が経つの早すぎる。

 下から見上げる地雷ちゃんは、可愛らしいダボダボのトレーナーに身を包んでいた。

 下は履いていないように見えるけど、チラッとショートパンツが見えるけど。

 寝る準備は万端みたいで、メイクも落として髪も下ろしていた。

 学校での大人しめな姿でも、街中の地雷系でもない。

 なんと言うか、垢抜けた普通の美少女って感じ。

 ……なんだよ普通の美少女って。美少女に見慣れすぎて感覚がバカになってんな。



「まあまあ、立ってないで座りな。その辺の座布団使っていいから」

「……ええ、わかった」



 地雷ちゃんは座布団を手にして、俺から少し離れた場所に体育座りする。

 あ、ちょっと見えそう。

 俺の視線に気付いたのか、猛獣のような目で睨まれた。

 怖い、ごめん。

 寝転がってスマホをいじっていると、地雷ちゃんはじーっと俺を見てきた。



「……なんだよ」

「いえ。……まさか、知り合って間もない男の家に泊まるとは思わなかったわ」

「そりゃこっちのセリフだ」



 月乃が地雷ちゃんを連れてくるとか、夢にも思わなかったぞ。



「それに、なんか秘密を抱えてそうだし……ねえ、日付をまたいだら、その秘密もわかるの?」

「まあな。……なあ、宮地」

「だから地雷ちゃんって……あれ、呼んでないわね」

「今回は真面目だから」

「今までは真面目じゃなかったの……!?」



 そんな真面目に地雷ちゃんと話すこともなかったからな。

 でも、今日は違う。



「宮地、これから知る秘密だけど、絶対に誰にも言うな」

「な、何よ、改まって。当たり前じゃない、秘密なんだし」

「違う、そうじゃない。お前は勘違いをしている。今回知る秘密は、そこら辺の小学生が『秘密だよ』とか言って話すレベルのものじゃない。下手すると月乃の人生が終わる。いや、月乃だけじゃない。俺たち家族の人生が終わるかもしれない」



 俺の言葉に、地雷ちゃんは顔を引き攣らせる。

 それもそのはず。まさか、こんなことを言われるとは思ってなかっただろう。

 けど、それくらいの覚悟を持ってくれないと困る。

 予め言っておかないと、月乃たちが傷付くからな。



「もしその秘密を抱える覚悟がないなら、今すぐ家に帰った方がいい。だけど、人生を掛けて秘密を守る覚悟があるなら……どうか、あいつとずっと友達でいてやって欲しい。頼む」



 地雷ちゃんに頭を下げる。

 待つこと数秒か、数十秒か……地雷ちゃんが唾液を飲み込む音が聞こえた。



「わ……わかった。絶対に口外しない。約束するわ」

「……ありがとう」



 もちろん、こんなのただの口約束だ。

 本当のことを知ったら、地雷ちゃんはなんて反応するか……。

 刻一刻と時間がすぎる中、月乃が俺の部屋に突入してきた。



「おまたへー。スッキリでした」

「女の子がそんなこと大声で言うんじゃありません」

「えへへ」



 月乃が座ると、また妙な沈黙が流れた。

 何だかんだ、月乃も緊張しているらしい。ずっとソワソワしている。

 時計の秒針の音が、異様に大きく聞こえる。



「えっと……じ、地雷ちゃん。ちゃんと見ててね」

「え? うん……んっ!?」



 月乃の体が発光する。

 変身が始まったのだ。



「あはは。やべー、緊張するー」



 おどけた笑顔を見せるけど、声が震えている。

 けど、始まった変身は止められない。

 今はただ、見守るだけだ。

 光り出した月乃を見て、地雷ちゃんは慌てたように俺と月乃を交互に見る。



「しっかり見届けてやってくれ」

「地雷ちゃん、ボクを見てて」

「ぁ、ぇ、ぁ……う、うんっ」



 地雷ちゃんが月乃に近付き、手を取った。

 月乃は目を見開いて、地雷ちゃんを見つめる。



「だっ、だだだ大丈夫! 私、何があってもずっと友達だから……!」

「……にへへ。ありがとう、地雷ちゃん。大好き」



 直後、月乃の体が変化していった。

 16歳、年相応の体は小さく。

 栗色のショートヘアーは、ロングの赤毛に。

 元気印の力強い焦げ茶色の目は、勝気でちょっとつり目な赤色に変わった。



「ぷはっ。えへー、変身かんりょー!」

「…………………………………………はぇ……?」



 地雷ちゃんの目が点になってる。

 まあ、そういう反応になるよな。

 灯織を手招きすると、嬉しそうに俺の膝の上に座った。



「あー……はじめましてじゃないよな。かばんを届けてくれた日にも会ったし。……彼女は灯織。月乃の火曜日の姿だ」

「どーも、灯織です!」



 元気に自己紹介偉いぞ。



「月乃は特異体質なんだ。曜日ごとに姿が変わる。全部で7つの姿があって、月乃には月曜日しか会えない。だから前に、自由な日が月曜日だけって言ったんだ」



 まだテンパっていて俺の言葉が飲み込めていないのか、ぼーっと灯織を見つめる。



「直ぐに飲み込むのは難しいだろう。でも受け入れてほしい」



 しかし俺の声が届いていないのか、地雷ちゃんはまだ茫然自失って感じだ。

 仕方ない。戻ってくるまで、少し待ってよう。

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