第21話 なぐさめと励まし

   ◆明義◆



 地雷ちゃんを刺激しないよう、ゆっくり歩く月乃。

 それに合わせて、俺も歩幅を合わせる。

 見ると、地雷ちゃんはまだ怖がっているみたいで、月乃から離れようとしない。

 まあ、初めて友達と出掛けて男にナンパされるなんて、トラウマ以外何者でもないよな。

 今回はタイミングが全部悪かっただけだけど、気にするなって言う方が無理か。


 にしても……いやぁ、まさかあんなことになるなんて思わなかった。

 月乃が隠れて特訓をしてたのも知っていたけど、あんなに強くなってたなんてなぁ。

 それで通信制高校の成績が酷かったのか、納得。


 のろのろ歩いていると、家の近くにある公園までやって来た。

 ここを俺たちは右に。地雷ちゃんは左に曲がれば家に着く。

 でも地雷ちゃんは止まってしまい、一歩も動かなくなってしまった。



「地雷ちゃん?」

「……ごめん、月乃。もう少し傍にいて……」



 今にも泣きそうな顔で、月乃を見る。

 肩だけじゃなく、脚も震えている。

 可哀想だし、できれば一緒にいてやりたいけど……今の時刻は23時過ぎ。

 あと1時間も経てば、日をまたいでしまう。

 変身の瞬間を見られるわけにはいかないし……30分ならまだ大丈夫か。

 けど、たった30分で地雷ちゃんが落ち着くとは思えない。

 ならここは心を鬼にして無理やりにでも家に帰した方が、気持ちは落ち着くんじゃ……。



「明義」



 月乃が真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

 月明りに照らされて力強く輝く瞳が美しく、有無を言わさない圧を持っていた。



「明義がボクのことを心配してくれるのはわかるよ。でもね、それが困っている誰かを放っておくって理由にはならないと思うんだ」

「月乃……はぁ、わかった」

「にへへ。ありがと」



 月乃は笑顔を見せて、地雷ちゃんと一緒に公園のベンチに座る。

 俺は近くの自販機で飲み物を買うと、2人に手渡してから少し離れた場所に座った。

 お茶を飲んで、無言で空を見上げる月乃と、顔を伏せて地面を見つめる地雷ちゃん。

 無言の時間で少し落ち着いたのか、地雷ちゃんはぎこちない笑顔を浮かべた。



「い、いやぁ。まさかナンパされるなんて思わなかったわ。私たちって、自分が思ってる以上に美少女なのかも」

「そりゃあそうだよ。ボクらは完全無欠の美少女さ」

「すっごい自信ね」

「いつも自信満々だよ。明義がいっぱい褒めてくれるから」



 月乃が俺の方を見て、手を振ってくる。

 なんとなく気恥ずかしくなったけど、俺も手を振り返した。



「そんな自信満々なボクが言うんだから間違いない。地雷ちゃんは美少女だよ」

「……ぷ。何よそれ」



 あ、今笑ったな。

 ようやく、気持ちが上向いたみたいだ。



「これからはナンパには気を付けないとね。自信満々なボクが認定するくらい美少女なんだからさ」

「う……そうね、気を付ける。気を付け……ぁ……」



 地雷ちゃんの声が尻すぼむ。

 そして……泣き出した。

 感情のコントロールがうまくいかないのか、わんわん泣くというより、目から涙が止まらないって感じだ。



「あ……あれ。おかしぃ、な。ごめ、なに泣いて……」

「泣いていいよ」

「で、も……」

「怖かったんでしょ、初めてナンパされてさ。大丈夫、今はボクらしかいないし、思う存分泣きなよ」



 月乃が地雷ちゃんの肩に腕を回して、抱き寄せる。

 今は隣に誰かがいるという安心感からか、地雷ちゃんは声を押し殺して泣いた。

 静かな公園に、女の子のすすり泣く声だけが聞こえる。

 泣き止むまで、月乃は地雷ちゃんの肩を擦り続けた。






「ご……ごめんなさい。こんなに泣いちゃって……」

「んー、気にすんなって。泣き顔も可愛かったぞ☆」

「か、からかうの禁止……!」



 泣き続けてすっきりしたみたいだ。さっきより、地雷ちゃんの顔は晴れやかになっている。

 今日のことは犬に咬まれたことと思って、忘れてくれたらいいんだけど。

 っと……やばい、時間だ。



「月乃、そろそろ」

「あ、おけー」



 月乃がベンチから立ち上がると、地雷ちゃんも一緒に立って月乃の服を引っ張った。



「つ、月乃。もう行っちゃうの……?」

「うん。もう月曜日も終わっちゃうからね。ボクは月曜日しか自由がないから」

「そ……そう……」



 残念そうに落ち込む地雷ちゃん。

 俺だって、もっと2人には一緒にいてほしい。

 けど、こればかりはどうしようもないんだ。

 月乃はしょうがないなーと苦笑いを浮かべると、地雷ちゃんの方を振り向き……思い切り、抱き着いた。



「なっ……え、な……!?」

「地雷ちゃん、今日は楽しかった?」

「たっ……た、たたたた楽し……かった、わ……」

「ボクも楽しかった。……また、遊んでくれる?」

「! も、もちろん! また、もっともっと遊びましょ……!」

「にへへ、約束」



 幸せそうな笑顔で、指切りをする2人。

 そうだよな。2人にとって、また遊ぶって約束は特別なものなんだ。嬉しいに決まってるよな。

 2人は一際力強くハグをし合うと、名残惜しそうに離れた。



「それじゃ、またね。地雷ちゃん」

「うん、またね、月乃。……あ、地雷ちゃん言うな」

「今更だよ」



 けたけた笑う月乃が、地雷ちゃんに大きく手を振って俺の方に走ってくる。

 本当にギリギリの時間だ。あと1分もしないうちに体が変身してしまう。



「月乃、急ごう」

「うい」



 月乃の手を引いて、公園を後にする。

 急いで角を曲がると、月乃の体が発光を始めた。



「ちょ、お前もっと我慢しろ……!」

「無理無理。これそんなもんじゃないからさ」

「だからって……!」






「あっ、月乃ー! あんたかばん忘れて……ぇ……?」

「「あ」」






 振り返ると、こっちを見て固まっている地雷ちゃん。

 視線の先には、暗い夜道の中で発光している月乃。

 考えるより早く、月乃を抱き上げて家に向かってダッシュ。

 家に入った瞬間、灯織へと変わった。


 バクンッ、バクンッ、バクンッ。

 心臓が嫌な跳ね方をする。

 やばい。今のはやばい。

 バレたか? 変身の途中、見られたりしたか?

 ギリ大丈夫だったか? でも体が光っていたのは見られて……あーくそ、頭が回らない。



「おぉ~……? あーちゃん、もしかしてやばい?」

「……限りなく、やばい」

「どんまい」



 君のことでもあるんだが!?

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