第22話 メッセージ
◆
「……全然眠れなかった……」
「すぴぃ……すぅ……」
灯織さん、いつも通り爆睡っすね。
豪胆というか、図太いというか。
とりあえずカーテンを開けて、朝日を浴びる。
う、眩しい……こんなに学校に行きたくないのは久々だ。
そっとため息をつき、着替えるために制服を持って洗面所へ向かう。
冷たい水で顔を洗い、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
落ち着け。まだ大丈夫。まだ助かるはずだ。
確かに発光はしていたけど、それだけのはず。ギリギリ変身途中は見られていないはずだ。
あれだ。光ってたのは街灯のせいってことにしよう。街灯でいい感じに照らされていて、ミュージカルっぽくなってたって言い訳をしよう。
よし、これでいける。……いける、はず。
「ああああああ学校行きたくねぇ……!」
父さんたちにこの件は伝わっていない。まだ話してもないし。
だけど万が一……いや、億が一バレでもしたら……ダメだ、考えるだけでも恐ろしい。
地雷ちゃんになんて言われるかなぁ。核心突かれたら、俺隠し通せるかなぁ……。
洗面所の椅子に座って虚無を見つめていると、扉が開いて灯織が入って来た。
まだ眠いのか、ブランケットを引きずって目を擦っている。
「あーちゃん、おふぁよぉ~」
「あ、ああ、灯織。おはよう」
「なんかすまほ、いっぱいめっせーじきてたぁ」
「え」
眠そうな目で、灯織が俺にスマホを渡してくる。
みんなは基本家にいるから、基本スマホを使うことはない。
だけど念のためということで、父さんたちが共用のスマホを与えていたのだ。
見ると、確かに大量のメッセージが来ている。
このタイミング……地雷ちゃんだよな、間違いなく。
「……灯織。スマホ開けられるか?」
「いいよぉ」
灯織がパスワードを入力して、スマホを開く。
本当だったらこんなことダメだ。他人のスマホを覗くなんてもってのほかすぎる。
けど今回に限っては、一大事なのだ。下手に引き伸ばして面倒ごとになる可能性の方が高い。
再度スマホを受け取ると、覚悟を決めて……いざ、メッセージアプリを開く。
雷香『月乃、今日はすっごく楽しかったわ』
雷香『最後も、助けてくれてありがとう。かっこよかったわよ』
雷香『虹谷にも、お礼を言っておいて』
【雷香がメッセージの送信を取り消しました】
【雷香がメッセージの送信を取り消しました】
【雷香がメッセージの送信を取り消しました】
【雷香がメッセージの送信を取り消しました】
雷香『おやすみ。またね』
「……ォゥ……」
怖い怖い怖い怖い怖い。
この取り消したメッセージ、何が書かれてたの? 何が書かれてたんですか!?
やばいやばいやばい。これは非常にやばい。
なんて言い返せばいい? なんて返事をするのが無難なんだ?
しかも既読付けちゃってるし。今日日、既読を付けずに内容を確認する方法なんてあんだろ。
あ、俺メッセージのやり取りした相手、ほとんどいないや。ちくしょうめ。
「あーちゃん、顔色悪いよ。だいじょーぶ?」
「あ……ああ。多分……大丈夫」
「そーは見えないけど……アタシ、お水持ってくるね」
俺の異変に気付いた灯織が、リビングに行って水を汲む。
いい子だ。いい子すぎる。今はその優しさがありがたい。
「はい、お水」
「ありがとう、灯織」
持ってきてもらった水を一口飲み、そっと息を吐く。
さて、なんて返すのが普通なんだろう。とりあえず当たり障りのない言葉を……。
メッセージの文言を考えていると、不意に月乃のスマホが震えてメッセージが更新された。
相手はもちろん、地雷ちゃんだ。
雷香『そういえば月乃、かばん忘れていったでしょ。虹谷に預けとくから、受け取っときなさいよね』
……俺に渡す? それって──ピンポーン──ですよね!?
うっそ、まさか今!? 今か!?
「およ、お客さまだ! アタシ行ってくるー!」
「待て待て待て待ちなさい!」
いつもはたまーにならお客さん対応させてたけど、今だけはまずい!
しかし灯織は元気いっぱいに玄関に突撃。
直ぐに玄関を開けてしまった。
玄関先にいたのは、案の定地雷ちゃん。
いつもと同じ大人しめの制服を着て、月乃のかばんを持っていた。
「はーい!」
「……あ、えと……虹谷の、妹さん……?」
「ううん、かの──」
「そーなんだよ妹なんだよ!!」
ギリギリのところで滑り込み、灯織の口を塞ぐ。
っっっぶねぇ……! マジであぶねぇ……!
「ひ、灯織。このお姉ちゃん、お兄ちゃんの友達だから、中に入ってなさい」
「えぇ〜、でもー」
「冷蔵庫の中のプリン、俺の分も食べていいからっ」
「やったー!」
なんとか灯織を家の中に押し込み、一息つく。
なんで朝からこんなに疲れないといけないんだ……。
「あー、地雷ちゃんおはよう。月乃のかばん持ってきてくれたんだって? 悪いな」
「地雷ちゃん言うな。ええ、これね」
「ありがとう、渡しておく。じゃ、俺はこれで」
とにかく今は地雷ちゃんと話すのはまずい。
かばんを受け取ると、急いで家の中に──
「待った」
ガシッ。ヒェッ、肩掴まれた。
「な……なんでしょ?」
「……月乃のこと、なんだけど。えっと……話があるから、昼休みにいつもの場所で」
それだけ言い残すと、地雷ちゃんは走って行ってしまった。
昼休み、かぁ……。
……学校、休みてぇ。
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