第19話 面倒ごと

 駅前に着くなり、2人はまずクレープのキッチンカーへ向かっていった。

 腹が減ってはなんとやら、らしい。

 キッチンカーは可愛いを具現化したような見た目で、ゆるふわガーリー系にデコレーションされている。

 基本的に女性しか並んでいない。カップルもいるけど少数だ。

 気持ちはわかる。カップルでも、あの空間に入るのは気まずい。


 しかしまあ、美少女2人がいちゃいちゃしてるもんだから、目立つ目立つ。

 すれ違う人のほとんどが、2人に目を向ける。

 改めて見ると、2人ってそんじょそこらの美人とは訳が違うよなぁ……。

 余りにも美少女すぎる。

 しかも片方は、俺と付き合ってる訳で。

 本当、人生何があるかわかったもんじゃない。



「ボク、ウルトラデラックスダブルチョコバナナバニラアイストッピングで」

「わ、私はウルトラデラックスイチゴクリームのブリュレ包み、クリーム鬼盛りで」



 ……なんて??


 2人が謎の呪文を唱えると、キッチンカーのお姉さんが手際よく準備する。

 通常のクレープより巨大な生地に、チョコやらバニラやらクリームやらイチゴやらをトッピングしていく。

 瞬く間に巻かれていき、2人の手から溢れんばかりのクレープが完成。

 いや、デカすぎんだろ。

 あんなの食ったら、夕飯が……あ、今日は夕飯とか気にしなくていいのか。

 ……それはそれで寂しいな。ずっと作ってきた身からすると。



「あむっ。んんんんん〜〜〜〜っっっ……! うっっっまぁ……!」

「ひあわへ……」



 クレープにかぶりつき、2人の顔が溶けている。

 う、美味そうじゃない……ごくり。

 けど男1人で買うのは無理だ。あの可愛いの中に入っていけない。

 仕方ない。俺は今2人を見守り中の身。我慢だ。


 クレープを食べ終えた2人は百貨店の中に入り、服を物色していた。

 2人であれこれと、互いに似合ってるものを探している。

 そんな2人を、遠くから見守る俺。

 あの服屋はレディース専門の店だから、男1人で入るのは無理だ。

 ご時世的に入ってはいいんだろうけど、個人の気持ち的に。



「見てっ、このオーバーサイズのパーカー、地雷ちゃんに似合うよ、絶対!」

「大声で地雷ちゃんって呼ばないで。でもそれを言うなら、月乃はスタイルいいから、こういうピッタリ目の服とか……」

「んえぇ、体のラインが出るの恥ずかしいんだけど……」

「胸の形もいいしくびれも綺麗だし、いいと思うけどなぁ」



 あれでもない、これでもないと……すでに1時間が経った。

 知ってたとは言え、女の子同士の買い物ってめちゃめちゃ時間掛かるな。待ってるのも疲れるぞ。



「あの、お客様?」

「……え?」



 振り返ると、色黒で髭を生やした体格のいい店員さんが2人、俺の後ろにいた。

 2人して、いぶかしげな顔で俺を見ている。

 そりゃそうだ。今の俺、怪しさマックスの風体だもの。



「どうかされましたか、お客様」

「何やらぼーっとしておられたようですが」

「あ、いや、その……しししっ、失礼しました……!」



 仕方ないっ、今は離脱!

 帽子を目深に被って、そそくさと店から離れる。

 くぅっ、やっぱりこの恰好は怪しすぎるか……!


 店から離れて10分くらいしてから、サングラスと帽子を取ってもう一度戻った。

 だけど……いない。さっきの店から出たみたいで、影も形もなかった。

 しまった、見失った……!



   ◆月乃side◆



「んはぁ〜、たーのしかったー!」



 結局、閉店時間の22時まで百貨店にいちゃった。

 ショッピング、ゲーセン、映画2本、お茶会。

 今日やりたいことをやり尽くした。

 いつもは明義と一緒だけど、女の子と遊ぶのもめっちゃ楽しい!

 本当、充実した1日だった……!



「どう? 地雷ちゃんは楽しかった?」

「ええ、楽しかった。けど、慣れないから疲れちゃったわね……」

「あはは、実はボクも」



 これだけはしゃいだのは、初めてかも。

 同性だから、気兼ねないっていうのが大きい。

 元気マックスなボクも、くったくただ。

 駅前の時計を見上げると、とっくに22時を回っている。

 そろそろ帰らないと、明義に怒られちゃう。



「もう22時回ってるし、帰ろっか」

「そうね。本当はもっと遊びたいけど……時間が時間だものね」

「時間が経つの、あっという間だねぇ」



 はーあ。あと2時間もしたら、また1週間後かぁ。

 ……来週も遊べるかな?

 でも今日これだけ遊んだし、2週連続は厳しいかも……?

 ……いいや、ダメ元で聞いてみよ。



「「ねえ」」



 ……ハモった。地雷ちゃんと。

 そのせいで微妙な空気が流れた。



「な、何?」

「地雷ちゃんこそ」

「月乃が先に言ってよ」



 うーん……それじゃあ、ボクから。

 ……ちょ、ちょっと緊張するな。

 だ、大丈夫。ただ遊びに誘うだけなんだし。

 喉の奥に絡まっている唾液を飲み込み、誘おうとした──その時。



「うわっ、見て見て。めっちゃ美少女2人!」

「おねーさんたち暇してるー?」

「俺らと遊ばね?」



 ……面倒そうな人たちに、絡まれた。

 うそん。



 ────────────────────

【作者より】

面白い、続きが気になる方、是非ともご感想と評価をよろしくお願いします。

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