第18話 それぞれの苦労

 また1週間が経ち、月曜日になった。

 今日は月乃が地雷ちゃんと遊びに行く日だ。

 朝からウキウキ気分の月乃。

 それに対して俺は、どうも地雷ちゃんの言葉が頭に引っかかっていた。

 俺だって、月乃に友達ができて嬉しい。

 嬉しいはずなのに……このモヤモヤとした気持ちはなんだろうか。


 時刻は16時。玄関先で鼻歌を口ずさみながら準備をしている月乃を見る。

 父さんたちには、事前に承諾をもらった。

 若干苦い顔というか、渋々感はあったけど。

 けど、もう月乃もいい歳なんだ。変なことにはならないだろう。……多分。



「よしっと。じゃ、行ってくるね!」

「ああ。遅くならないようにな」

「わかってるよぅ。22時までには帰るようにするからさっ」



 行ってきまーす! と元気に挨拶して、月乃は家を飛び出した。

 ……さて。俺も行くか。

 帽子よし。マスクよし。サングラスよし。

 いざ──見守りだ。

 え? いやいや怪しくない、怪しくないデスヨ?

 これは単なる見守りですから。何もやましいことはないですから。

 帽子とサングラスは紫外線防止。マスクは風邪予防です。

 ね? 怪しくないでしょう?


 準備を整えて家を出る。

 見ると、月乃が丁度地雷ちゃんの家のチャイムを鳴らしたところだった。



「おーい地雷ちゃーん。野球しようぜー」

「なんでよっ!」



 お、出てきた。

 いつも通りの地雷系ファッションだが、今日はグレート黒の大人しめな感じだ。



「え、遊ぶ時の定型文だってアニメで見たけど」

「なんのアニメかはすぐわかったわ……あと地雷ちゃんって呼ばないで」



 この距離でもわかるくらい、2人ははしゃいでいる。

 そりゃそうか。2人は初めての友達同士。テンションが上がらないはずない。

 少しの間、キャイキャイと家の前でじゃれつく。

 しばらく見ていると、月乃が地雷ちゃんの腕に抱き着き、駅の方へ移動を始めた。

 まあ、この辺で遊ぶなら、あそこしかないだろうし。



「ねー地雷ちゃん。そういう服とかって、どこで買ってるの?」

「駅前に専門店があるの。でも私の場合は、普通の服とかから探して、合いそうなやつを見繕ってるわ。あとはネットとか……」

「なーほーねー。ボクも欲しいけど、あんま外に出ないからなぁ〜」

「……家、厳しいの? 前に、月曜日しか自由な時間がないって言ってたし……」



 うおっ、ぶっこんだ……!

 月乃、なんて返すんだ……?

 少し距離を詰めて、会話に耳を傾ける。



「んーん、みんな優しいよ」

「えっ? じゃ、じゃあなんで……」

「複雑な事情があるのさ、べいびー」

「同い歳でしょ」



 ……意外と普通に返したな。

 口が滑って、体質のことを言っちゃうかと思ったけど、大丈夫そうだ。



「月乃が幸せなら、私はいいけど……」

「なになに? 心配してくれてんの?」

「そっ、そういう訳じゃ……!」

「んふふー、優しいなぁ」

「ちょっ、引っ付かないで……!」



 月乃が地雷ちゃんに抱き着き、楽しそうにじゃれてる。

 地雷ちゃんは、顔では迷惑そうな顔をしているけど、全身から嬉しそうな空気をかもし出していた。

 なんだろう、可愛い女の子たちがじゃれてるだけなのに……心がキュンキュンします。

 そうか……これが、てえてえか。



「ま、本当に心配しなくていいよ。ボク、今の生活で幸せだし、明義もいるからさ」

「……本当、なんであんなのと付き合ってるのか不思議」

「明義のこと?」

「そうよ。……月乃ってめちゃめちゃ美少女でしょ」

「まあね」

「ひ、否定しないのね」

「ぶい☆」



 あらまあ、ピースウインクのよく似合うこと。

 地雷ちゃんも頬を染めて目を逸らしたが、咳払いをしてすぐに月乃に目を向けた。



「そ、そんな月乃と付き合ってるのに、他の美女とも付き合ってるみたいだし……サイテーよ、あいつ」



 うーん、言いたい放題。

 でも事情を話せないから、言い返すこともできず。

 けど月乃は、キョトンとした顔で首を傾げた。



「なんで? 明義、すっごくいい奴だよ?」

「それはわかってるけど……」

「それに、みーんな明義のこと好きだから、問題ナッシング」

「でも──」

「あと」



 反論しようとする地雷ちゃんに、月乃が声を被せる。






「明義を否定するなら……地雷ちゃんでも、許さないぜ?」






 ……冷たい。今まで見たことがないくらい冷たい視線で、地雷ちゃんを射抜く。

 いや、冷たいと言うより、怒ってる感じ。

 月乃って、あんな顔するんだ……可愛いと言うより、かっこいい。イケメンだ。



「ご……ごめん……」

「許す! まあ、明義にも明義の苦労があるんだよ。責めないであげて」

「うん……」

「よしっ。じゃあ気を取り直して、今日は遊ぶぞー!」



 月乃が地雷ちゃんの腕を取り、駅前に引っ張っていく。

 俺を庇ってくれるのは嬉しい。

 けど、なんかさっきよりぎこちないというか……大丈夫か、あの2人?

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