第17話 初めての友達

 はぁ……昨日は眼福だった。

 いつもは見れない月乃の地雷系ファッション。めっちゃ良き。

 一晩経っても、あの時の月乃が頭から離れない。

 いやぁ、本当にいいものを見た。

 写真も大量に撮らせてもらったし、これは家宝にしよう。

 ……他のみんなも、地雷系ファッションとか似合うかな?

 意外と亜金とか似合いそう。……めっちゃ恥ずかしがりそうだけど。


 登校し、靴を上履きに履き替える。

 と──急に1枚の紙が、下駄箱から落ちてきた。

 え、まさかラブレター?

 ……いや、ないだろ。呪いの手紙の方がまだリアルだ。

 しかも便箋にすら入れてない。書いた紙を半分に折って入れられている。

 周りに誰もいないことを確認し、廊下を歩きながら手紙を開いた。



『昼休み、いつもの場所に来なさい』



 名前は書いてない。

 雑な手書きで、想いもクソもない。

 けど、誰が書いたかはすぐわかる。

 少しだけど自信もついたのに、まだ俺に用があるのか。

 ため息をつき、鞄に手紙を突っ込む。

 とりあえず刺されないよう、腹に漫画雑誌でも仕込んでおくか。






「来たわね」

「……おう」



 昼休みに校舎裏へ行くと、地雷ちゃんが腕を組んで待っていた。

 えぇ……めっちゃ睨んで来てる。何これ、怖。

 俺、何かした? 全然覚えがないんだけど。

 まさか月乃が何かしたか?

 けど、昨日の様子を見た感じじゃ、特に何もなかったような。仲良くなってたし。

 ……ダメだ、まったくわからない。

 どうしよう、覚えもないことで相手の怒りを買うの、めっちゃ怖い。


 地雷ちゃんが、足を1歩踏み出す。

 同時に、思わず俺も1歩下がってしまった。



「なんで逃げようとするのよ」

「……地雷ちゃんが怒ってるから」

「お、怒ってないわよ。……月乃に関して、聞きたいことがあるの」



 え、月乃に関して?

 ま……まさか、体質のことがバレた? いやいや、それはないだろ。だってそんな素振りはなかったし。

 となると、他のこと……なんだ?



「昨日、月乃が何かやらかしたか? もしかして、服汚した? なら弁償を……」

「そうじゃないわ。……なんで月乃、月曜日しか自由がないの?」



 え? ……あ。

 昨日のことを思い返すと、確かに月曜日しか自由がないって言ってた。

 俺は事情を知ってるから、何も思わなかったけど……そうか、地雷ちゃんは知らないから、引っかかってたのか。



「あの子のお家のことだから、私がとやかく言うのは間違ってると思う。けど休日じゃなくて、平日……月曜日しか自由がないって、ちょっとおかしいなって思って」



 だよなぁ。普通おかしいと思うよなぁ……。

 でも本当のことを言うわけにもいかないし、どうしたらいいんだ。

 ……よし、誤魔化そう。



「ごめん。俺もその辺は知らなくてさ」

「彼氏なのに?」

「彼氏でも、彼女のことを全部知ってるわけないだろ」

「……それもそうね」



 よし、誤魔化せた。

 本当は家族以上に互いのことを知り合ってる仲だけど、うちに住んでることとか説明できないし。

 内心息を吐いていると、地雷ちゃんは「でもね」と空を見上げた。



「心配なのよ。初めてできた……友達、だし」

「……そっか。月乃に言っておくよ」

「そ、それはやめて。恥ずか死する」

「なら自分から伝えてやってくれ」

「それも無理。恥ずか死する」



 どっちにしろ恥ずか死するんかい。

 顔を真っ赤にして顔を伏せる地雷ちゃん。

 が、直ぐに顔を上げてジト目で俺を睨んできた。

 まるで親の仇を見るような目で……え、何、怖いよ。

 大股で俺に近付き……胸ぐらを掴みあげてきた。



「か、カツアゲ……!?」

「違うわよっ。……あんたに対して、気に食わないことが1つ」

「な、なんだ?」



 牙を剥くように歯を食いしばり、下から睨めつけてくる。

 チラッと見えるピアスが怖い。マジでヤンキーみたい。



「……んで……」

「ぇ……?」

「……なんであんないい子がッ、あんたみたいな浮気男と付き合ってるのか……本当、気に食わない……!」

「うおっ!?」



 壁の方に突き飛ばされ、後頭部を壁に強打。

 くっそ痛い。え、割れてない? 大丈夫?

 頭を抑えて悶絶していると、地雷ちゃんは一瞬心配そうな顔をしたが、直ぐに口をつぐんだ。



「私に友達ができたのは、虹谷のおかげだってわかってる。あんたが、私のために月乃を紹介してくれたってわかってる。でも……ねぇ、なんであんなにいい子がいて、他の子と付き合ってるの? なんで浮気してんの? なんで……ッ」



 地雷ちゃんはそれ以上は何も言わず、振り返ることなく校舎裏から去っていった。



「……俺だって、あいつがいい子ってことくらい知ってんだよ、ちくしょうめ」



 地面に寝転がり、空を見上げる。

 ……あ、月だ。

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