第14話 お誘い

   ◆



 ……本当に大丈夫なのだろうか。

 月乃から作戦を聞いた俺は、学校で寝た振りをしながら地雷ちゃんの様子を伺っていた。

 朝、誰にも挨拶されず席に座る。

 授業中も悪ふざけせず、先生の話を真面目に聞いている。

 授業と授業の間も、ずっと机の木目を凝視している。いや悲しすぎるだろ。


 話しかけるチャンスはいくらでもあるな。

 だけど、話しかけるというハードルが高すぎるのだ。

 学校で今まで誰とも話したことない奴が、いきなり女子に話し掛けられるとおもうなよ、マジで。


 うむぅ……あ。






「よ」

「……なんであんたがここにいんのよ」



 昼休み、校舎裏で待っていると、地雷ちゃんがやって来た。

 片手にはパンとエナドリの入った袋。

 片手には広告紙を持っている。

 どうやらここが、地雷ちゃんのベストプレイスらしい。

 言ってしまえば、俺は地雷ちゃんのベストプレイスの異物。邪魔者だ。

 現に今も、鋭い眼光で睨んできている。

 そんなに睨むことないじゃん。

 ちょっと怯んだけど、軽く咳払いをして地面を叩いた。



「は、話があってな。まあ座って座って」

「あんたに言われなくても座るわよ」



 俺を警戒しているのか、この間よりも距離を開けて座った。

 そんなに距離を取らなくてもいいのに。



「地雷ちゃん、この間のことなんだけど」

「地雷ちゃん言うな。……この間のことって?」

「自信がないって言ってたやつ」

「ド直球に掘り返すわね……」



 俺の言葉に、地雷ちゃんは引き気味だ。

 こんなの、回りくどく言う方が面倒だろ。



「……それが何? 笑いに来たの?」

「そうじゃない。……自信をつける方法があると言ったら、どうする?」

「そ、それは……」



 地雷ちゃんの目が揺れる。

 話を聞く限り、地雷ちゃんは承認欲求が高い子みたいだ。

 でも自分に自信がないから、学校でも自信がない=友達がいない。

 なら、それをつけさせればいい。

 そうすれば、友達もできる。……はず。



「もし自信をつけたいなら、放課後に地雷系ファッションで、この公園まで来てくれ。悪いようにはしない」

「……気が向いたらね」



 俺が出したメモ用紙を受け取り、ポケットにしまう。

 この様子なら、来てくれるだろう。……多分な。

 しばらく、互いに無言で昼飯を食べる。

 と、沈黙を破ったのは地雷ちゃんだった。



「ねぇ、虹谷。私からも聞いていい?」

「なんだ?」

「虹谷ってヤ〇チンなの?」

「げほっ!?!?!?」



 あ、やべっ、食い物が変なとこ入った……!

 激しくむせていると、地雷ちゃんが慌てたように俺の背中をさすってきた。



「だ、大丈夫っ?」

「む、むりっ、みず……!」

「は、はいっ」



 受け取った水をがぶ飲みすると、ようやく咳が収まった。

 あ、焦った……急に何を言い出すんだ、こいつ。



「まったく、気をつけなさいよ。ここにいるのバレたら、使えなくなるわよ」

「お前のせいだろ」

「何よ。普通に聞いただけじゃない」

「聞いた内容がヤバいって自覚ある?」



 さすがの明義さんもドン引きだぜ?



「だ、だって、今まで誰かとこんなふうに話したこと、なかったから……きょ、距離感とか、わかんないし……」



 言葉が後半になるにつれて、声がしりすぼんでいく。

 まさか高校だけじゃなく、今までの人生でボッチだったのか……?

 ダメだ、悲しすぎる。涙出てきた。



「で、どうなのよ」

「どうって……今の質問のことか?」

「それ以外ないでしょ。クラスのみんなも言ってるし」



 おいクラスのみんなくんたち。誰がヤ〇チンだコラ。



「別に全員とそういう関係じゃない。……何人かはそうだけど」

「サイテー。女の敵」

「全員そのこと知ってるから、最低じゃない」

「どんな関係なのよ、あんたら」



 ドン引きされた。

 まあ他人からしたら、俺は女の敵に見える、か。

 説明しようがないよなぁ。あの子の体質を教えなきゃいけないし。

 なら、俺が最低でいいや。


 そんな話をしていると、遠くから予鈴が聞こえてきた。

 やべ、全然飯食ってない……!



「じゃ、私は先に行くから、あんたは後で来なさい」

「えっ。それじゃあ俺が遅刻するんだけど」

「知らないわよ。一緒に出ていくところ見られて、私まであんたのハーレム要員って思われたらゲロ吐くよりマシでしょ」



 俺がマシじゃないんだが。



「あ、そうだ。今日の放課後、公園で待ってるからな」

「……だから、気が向いたら行くって」



 地雷ちゃんはそそくさと校舎裏から撤退し、俺だけが取り残される。

 今の間、来るだろうな。

 ……来なかったら、月乃泣いちゃうかな……ま、大丈夫だろ。多分。

 それより、遅刻の言い訳を考えないとなぁ。

 遠くから聞こえる本鈴を聞き、俺は深々とため息をついた。

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