第12話 校舎裏

 あの後、何もないまま昼休みになった。

 その間に地雷ちゃんのことを見ていたけど、あのことは誰にも話していないみたいだ。

 と言うか……なんか、ずっと1人でいる。

 授業は真面目に聞いているけど、休み時間は基本寝ているか、トイレに行っている感じだ。

 でもそれ以外は、ずっと1人。

 たまに誰かに話しかけられているっぽいけど、友達って距離感ではなさそう。

 つまり……あれだ。俺と同じボッチだ。


 昼の購買争奪戦に紛れるように、俺も教室を後にする。

 上手高校の校舎裏は、建物と建物のちょっとした隙間にある階段を下り、誰も通らないような床下を潜ると着く。

 知る人ぞ知るってやつだ。

 え、なんで俺が知っているのか? 入学初日に暇すぎて、いろんな場所を探索したからに決まっているでしょうが。

 多分、地雷ちゃんも似たような感じで、知ったんだろうな。


 誰にも見つからないよう、校舎裏へ続く道を行く。

 と……いた。先についていた地雷ちゃんだ。

 買って来たのか、既にパンをかじっていた。



「よ、地雷ちゃん」

「地雷ちゃん言うな。……あんた、ご飯は?」

「自分で作ってる。悪いが、ここで食わせてもらうぞ」

「別にいいわよ。私だって食べてるし」



 地雷ちゃんは自分のおしりに引いていた広告紙の一枚を、俺に渡してきた。

 このまま座ると汚れるし、ありがたく使わせてもらおう。

 地雷ちゃんから少し距離を置いて、地面に座る。

 ……学校の昼休みを誰かと過ごすのって、いつぶりだろう。まあ無言なんだけどさ。

 互いに無言で、昼飯を食べる。

 俺は無言が辛いタイプではない。多分、地雷ちゃんも同じタイプだろう。

 けど……なんで俺をここに呼び出したんだ?

 意味がわからず、とりあえず弁当を食べる。

 と、先に食べ終えた地雷ちゃんが、横目で俺を見て来た。



「ねえ、虹谷。昨日言ってたあれって、マジ?」

「あれ?」

「複数の女の子と付き合ってて、全員それを承知してるってやつ」

「まあ……現状を見ればそうなる」

「どんな爛れた生活してんのよ、あんた……」

「爛れてない。純愛だ」

「あんたたち、どんな関係なの……!?」



 文字通り、お付き合いしている関係です。

 けどなぁ……日付が変わると性格と体が変わる体質とか、言っても信じられないよなぁ。

 てか、このこと言ったら多分父さんと母さんに殺される。

 どこから秘密が漏れるかわからないし、もし世間にバレたら、変なことになりかねない。



「ま、まあ、あんたがどんな性活をしてようが、私には関係ないけどさ……もっと自重しなさいよ。いつかあんた、刺されるわよ」

「肝に銘じておく」



 なんだ、俺のこと心配してくれるのか。意外と優しいんだな。

 弁当を食べ終え、手を合わせてご馳走様。

 我ながら、うまい弁当だった。灯織も美味しく食べてくれてるかな。



「話はそれだけか? それじゃあ、俺はこれで」

「待った。本題はまだよ」



 まだだったんかい。

 地雷ちゃんは気まずそうに顔を伏せ、上げ、また伏せて……いったい何を話したいんだ?



「えっと……き、昨日、私のファッション見たでしょ。……ど、どうだった?」

「え? ……まあ、ありたいていに言えば、可愛いと思ったけど」

「ほんと!?」

「うおっ」



 きゅ、急に顔を近付けてくんな。普通にビビる。

 しかもさっきまでのしかめっ面じゃなくて、満面の笑みだし。



「な、なんだよ、いったい」

「あ、ごめん。いやぁ……私って学校で友達いないんだよね。でもああいうファッションが好きでさ……誰かに感想とか言われたことなかったから、つい」



 悲しい現実を嬉々として言わないで。

 でも……そうか。やっぱり地雷ちゃんも、友達いなかったんだな。俺と一緒だ。

 一緒なんて言ったら、また怒るんだろうけど。



「今ならSNSで自撮り上げたら、簡単に承認欲求を満たせるだろ」

「いやよ、怖いじゃん」



 そういうネットリテラシーはちゃんとしてるのね。



「あ……そ、そうじゃなくて。えっと……あ、あの恰好のこと、誰にも言ってないわよね」

「もちろん。言う相手いないし」

「ああ、あんたボッチだもんね」

「ブーメランなの自覚してる?」



 失礼な奴だな。俺も人のこと言えないけど。



「と、とにかく。あの恰好のこと誰かに言ったら、マジで許さないわよ」

「別にいいけど……なんで誰にも見せないんだ?」

「そ、それは……自信ないし……」

「自信?」



 あれくらい可愛かったら、自信もっていいと思うけど。

 地雷ちゃんは地面にしゃがみ込むと、スマホをいじって自分の自撮りを見せて来た。



「地雷系ファッションなんだけど、高校に入ってからするようになったの。それまでは憧れてただけで……それで、思い切ってやってみた。自分は楽しいし、いいと思うけど……他の人からしたらどう思われてるのか気になっちゃって……」

「ああ、それで自信がないって……」

「そういうこと」



 地雷ちゃんは立ち上がり、ゴミをビニールに詰めて俺に背を向けた。



「ここに呼び出したのは、誰にも言わないようにって口止めと、感想を聞きたかったから。それだけ」

「……で、どうだ? 俺の感想で自信はついたか?」

「……わかんない。でも、嬉しかったのは確かよ。ありがとう」



 それだけ言い残し、地雷ちゃんが先に校舎裏から出ていった。

 自信……自信、ねえ。

 うちの子たちはみんな自分に自信を持ってるけど、人によって違うんだな……。


 結局、予鈴のチャイムが鳴るまで、俺は校舎裏でぼーっとしていたのだった。

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