第10話 月乃──お出掛け③

 サイテーなんて言われても、知らないものは知らない。

 そもそもこんな奴、クラスのトップカーストにいたっけ。

 あいつら騒がしいから、顔くらいはわかるとは思うけど……宮地雷香なんていたっけ。


 ……ダメだ、思い出せない。騒がしい奴らの顔って、全部同じに見えるんだよね。

 宮地、宮地、宮地……うーむ。



「めっちゃ首傾げるじゃない」

「思い当たる節がないもので」

「くっそサイテー」



 言ってくれるな地雷ちゃんが。



「はぁ……まあいいわ。覚えておきなさい。私は宮地雷香だからね」

「わかったよ、地雷ちゃん」

「地雷ちゃん言うな!」

「名前も見た目も地雷ガールじゃん」

「この服は好きで着てるの! 雷香って名前も気に入ってる! けどたまたま、偶然、苗字と名前で地雷ってなってるだけだから!」



 めっちゃ強調してくるじゃん。

 けど、おかげで覚えられる。わかりやすいな、地雷ちゃん。



「それよりあんた、このゲーム買いに来たの?」

「まあな。地雷ちゃんもか?」

「地雷ちゃん言うな。ええ、私も買いに来たわ。このシリーズ、大好きなのよ」



 へぇ……意外だ。

 こう言っちゃなんだけど、オシャレとかファッションに力を入れてそうな感じがするのに。

 7姉妹で言うと、樹里みたいなタイプかと。



「けど、これあと1つっぽいのよね……困ったわ」

「だな。それじゃ」



 カセットを手に取り、レジへ向かう。

 が、地雷ちゃんが俺の肩を掴んで止めた。



「何ナチュラルに買おうとしてるのよ」

「いや、手に取らないから、いらないのかと」

「欲しいって言ってるでしょ!」



 話の流れで自然に買えると思ったのに、ダメだったか。

 けど、ここで買えないと他の店に行く必要がある。

 そしてこの辺では、ゲームショップはここしかない。

 あとは電車に乗って、隣町までいかなきゃいけないのだ。

 それは嫌だ。面倒くさすぎる。

 このカセットはここで死守してみせる……!


 でもどうやって地雷ちゃんの気を逸らそう。

 話し合いに応じてくれそうもないし、気が強そうだから譲ることもしないだろう。

 だからって、俺が引き下がるのは負けた気がして嫌だ。


 よし、俺も男だ。ここは心を鬼にして──



「明義、ただいまー!」

「脇腹ッ!?」



 突然、脇腹に猛烈な衝撃と痛みが……!

 どうやら、おもちゃを買ってきた月乃が戻ってきたらしい。

 欲しいものが買えて、ご満悦みたいだ。



「お、おかえり、月乃。抱き着くのはいいけど、突進はやめてくれ、マジで……」

「ういっ。……ん? その人だーれ?」



 月乃が地雷ちゃんに気付き、首を傾げる。

 地雷ちゃんも、突然現れた月乃を見て目を白黒させていた。

 ふむ……どう説明したらいいものか。



「えっと……自称クラスメイトの地雷ちゃん」

「誰が自称よ! 正真正銘、ただのクラスメイト! あと地雷ちゃん言うな!」



 そう言われても、イマイチ信じられない。

 だってこんな派手な髪色の奴がいたら、クラスでも目立つはずだし。



「ほえぇ……地雷ちゃん? 初めまして。明義とお付き合いしてる、月乃って言います」

「だから地雷ちゃん言うな。……って、お付き合い? あなたが、虹谷と?」

「うい、ラブラブでーす♡」



 ちょ、急に腕に抱きついてくんな。

 今知り合ったばかりとは言え、知り合いの前で抱き着かれるのは気まずいから。

 地雷ちゃんは呆然とそれを見ると、まるで女の敵に会ったかのような眼光で睨み付けてきた。



「虹谷……あんた、もしかしてあの噂、本当なの……?」

「噂? 明義、噂って?」



 俺の噂を知らない月乃が、俺を見上げて首を傾げた。



「学校で、俺が複数人の女の子と付き合ってるって噂が流れてて」

「ああ、それ」

「それ!? つっ、月乃さんっ、その事知ってて……!?」

「知ってるも何も、全員知ってるよ」

「ぜっ……!?!?」



 まるで地球外生命体に出会ったような反応。

 地雷ちゃんは後ずさると、顔色を青くしてフラフラと歩いていってしまった。

 ゲーム……いいのかな? まあ、おかげで俺が買えるから、いいんだけど。

 けど、これのせいでまた変な噂が流れる気がしてならない。



「俺、いつか引きこもりになっちゃうかも……」

「本当!? 引きこもったら、ずっと一緒にいれるね!」

「喜ぶな」



 月乃の脳天にチョップを食らわせると、いいところに入ったみたいで、痛そうに頭を抱えた。



「うぅ、何すんのさぁ……!」

「いや、なんとなく」

「無邪気故の狂気……!?」



 どこでそんな言葉覚えた。



「つか、全員知ってるって言わなくてもよかったろ」

「いいじゃん? ボク、二度と合わないし」

「俺のクラスメイトだって言ってんでしょうが」

「ほげっ……!」



 今度はでこぴんをして、そっとため息をつく。

 はぁ……明日から、憂鬱だ……。

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