第9話 月乃──お出掛け②

 歩くこと10分ちょっと。

 俺と月乃は、駅前へやって来ていた。

 駅前の広場にはキッチンカーが並んでいて、クレープやケバブやからあげなんかが売られている。

 帰り際の高校生をターゲットにしてるみたいで、その狙いは的中。かなりの行列を作っていた。


 それにしても……人が多い。

 特に、上手高校の生徒や大学生カップルがいろんなところにいる。

 人混みが苦手な俺と違い、月乃は顔を輝かせて周りを見渡していた。



「うわぁ……! やっぱりお祭りみたいで楽しいね!」

「……そうだな」



 なるほど、お祭りか。

 言われてみると、そう見えなくもない。

 人混みは嫌いだけど、お祭りは好きだ。あの非日常感が堪らない。

 そう考えると、この賑わいも悪くない気がしてきた。

 久々の駅前だからか、月乃は楽しそうにあちこちを見て回っている。

 彼女が楽しそうにしてると、俺まで楽しくなってきた。


 百貨店の中に入り、1番最初に向かったのは家電量販店のキヨバシカメラだ。

 と言っても、目的は家電じゃない。おもちゃコーナーである。

 今、巷で人気らしい魔法少女のグッズを前に、月乃は生唾を飲み込んだ。



「むおぉ……やっぱしばらく見ない内に、新作がたくさん出てる」

「違いがわからん」

「全然違うよ! こっちのロゼッタピンクの杖は宇宙エネルギーを内包してて、こっちのクイーンローズの杖は万物の象徴! そしてこのエドモンド苫小牧の杖は最強の魔力を持ってるんだよ!」

「誰だよエドモンド苫小牧」



 急に陳腐な感じになったぞ。

 しかも全部同じ赤とかピンク系で、見分けが付かないし。

 月乃は真剣な目で、おもちゃの杖を物色している。

 その真剣な様子に、近くにいた子供たちもわらわらと集まってきた。



「おねーちゃん、ミラキュルナイト、すきなの?」

「わたしもすきー」

「わたし、ろぜったぴんく!」

「わたしはえりおっとこおりやま!」



 エリオット郡山て。いいのか、そのネーミングで。

 制作陣、疲れてたんだろうな……お疲れ様です。

 月乃はいつの間にか集まってきた子供たちと、仲良く魔法少女談議を始めている。

 どうやら俺が知らないだけで、かなり人気みたいだ。

 土萌なら知ってるかな……今度ブルーレイ見せてもらお。持ってるだろうし。


 少し離れて様子を伺っていると、話が終わったのかこっちへやって来た。



「ごめん明義、お待たせ……!」

「いや、俺は大丈夫だけど。いいのか? せっかく話が合ったのに」

「うん。今日は明義とデートの日だからねっ。彼氏を優先するのはとーぜんです」



 ふんす、と胸をそびやかす。

 嬉しいけど、手に持ってる杖のおもちゃのせいで余計に女児っぽいぞ。



「それ、買うのか?」

「うん! おじさんたちから貰ってるお小遣い、結構貯まってるし」

「そうかい。じゃ、買っておいで」

「あーい」



 月乃はぶいぶいとピースサインをすると、レジまでおもちゃを持っていった。

 月乃たちは、それぞれ毎月お小遣いを貰っている。

 けど表に出てこれるのは、週に1回。だからかなり貯まってるって、前に教えてもらったっけ。

 まあ灯織はお菓子に。樹里はオシャレに。土萌はグッズにつぎ込んでて、貯金ゼロとか言ってたけど。

 その度に俺におねだりしてくるの、やめてほしい。


 月乃が支払いを済ませている間、おもちゃコーナーを物色する。

 へぇ……最近のおもちゃって、クオリティ高いな。

 てか高ぇ。この変身ベルト7000円するんだけど。

 世の中のキッズたちは、こういうのをプレゼントで貰うのか……世の中の親御さんは大変だ。


 っと、そうだ。欲しいゲームがそろそろ売られる時期だっけ。

 ちょっとゲームコーナーに行ってみるか。

 月乃に移動する旨を伝えると、おもちゃコーナーの隣にあるゲームコーナーへ来た。

 えーっと……お、あった。

 革命児デンジャラスシスターズの最新作。

 各ゲームのメインヒロインが一堂に会し戦い合う格ゲーだ。

 昔から好きなんだよな、これ。

 どうやら最後の1つらしい。ラッキー。それじゃあ早速レジに……。


 ゲームに手を伸ばす。

 同時に、誰かが同じゲームに手を伸ばした。

 手と手が触れあい、一瞬硬直する。んなベタな。

 思わず手を引っ込めると、相手も同じタイミングで手を引いた。いや、本当にベタベタな展開だな。



「あ。す、すみません」

「い、いえっ、こちらこそ……って……に、虹谷明義……!?」

「え?」



 名前を呼ばれて、思わずそっちを見る。

 焦げ茶色のミディアムロングに、ピンクのメッシュ。

 地雷系ファッションというのか、ピンクと黒のコーデに、それに合わせたメイク。

 手にはエナジードリンクを持っていて、オタクなら誰もがイメージするような典型的な地雷系ガールがそこにいた。


 ……えーっと……。



「誰?」

「はあ? あんた、クラスメイトの顔と名前くらい覚えなさいよ」



 どうやらクラスメイトだったらしい。

 そんなこと言われても、クラスメイトなんて興味ゼロだから仕方ないじゃないか。

 地雷系ガールはジト目で俺を睨むと、深くため息をついた。



「まあ、あんたクラスじゃ寝てるだけだものね」

「喧しい」

「事実じゃない」



 そうだけども。知らない人に言われると腹立つ。



「ま、別にいいわ。名前聞いたら思い出すんじゃない? 私は雷香。宮地雷香みやじらいかよ」



 宮地……雷香……。



「誰?」

「あんたサイテー」

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