“なろう系”作群を構成する要素
“なろう系”という作品は独自の文化圏を持つ。
その大半がJRPGを基盤とするステータスの表示を扱い、不必要なレベルで外見描写を行い、心情描写は軽く、短いセンテンスで同じような物語を紡いでいく。
これがベース、という作品は少なくない。
勿論これが全てというわけではないが、その多くがこのスタイルに起因した文章を形成している。
好みに問わず多くの人が“なろう系”と想像して語るものはこうであろう。
「現実でうだつの上がらない主人公が何かしらによって現実から異世界に飛ばされ、神の福音によりチートと呼ばれる特殊能力を授かり、その世界で生きていく」
全て一致するものはなくとも本分ほど一致するという作家も少なくないだろう。
これが“なろう系”と呼ばれる作群のテンプレートである。
ここの変化で描かれることが多い。異世界チートものであればほとんどがこのテンプレートに該当するし、流行った悪役令嬢ものはゲームに取り込まれることが多いため、その作品の記憶をチートとして運命回避を行う、といった構成のものが多い。
言い換えてしまえば
「異世界」「チート(特殊能力)」「その特殊能力の根拠となる要素」
この三つが整っていれば“なろう系”が成り立つ。
昨今はwebの小説投稿サイト“小説になろう”から作品がそのまま持ってこられるパターンも多いが、きちんと編集を通した作品ですらこの三点が整っていれば“なろう系”と定義される。
“なろう系”とは“小説になろう”で投稿された小説群を指すこともあるが、その大半が三点の要素によって構想された作品であり、特に文章表現の柔らかい作風のものを指す傾向にある。そのためレーベルとして扱われるものそのものを指すことは現状の傾向にあるといっていいだろう。
しかしこの構成は実際問題“なろう系”から出てきたものではない。
古今東西にある多くの物語でよく見る累計でしかない。
例えばエクトル卿に仕えていたアーサーは台座に刺さった剣を抜くことで偉大な王家、ペンドラゴンの血を引くものとして扱われた。
三国志演義では田舎の貧しい母子家庭の青年が中山靖王劉勝の末裔劉備であり、彼に付き従う仲間達によって中国の覇者として天啓を得る。
さらに古くいえばイエス・キリストは神の子としてキリスト教を布教していった。
そのように「異世界」を「神の国」「王の血筋」という言葉に置き換えて成立している作品は枚挙に暇がない。
キリストが奇跡というチートを起こしても「神の子である」という根拠で全てを成すし、「漢の血筋が持つ仁徳」という根拠で劉備は誰彼からも慕われる。
構成そのものはいわゆる“どこにでもあるオーソドックスなもの”なのだ。
それでとそのような作品群と“なろう系”は全く別のものとして分類される。つまりこういった分類は“なろう系”小説の特徴とは限らないのだ。
では何故我々は“なろう系”を“なろう系”と分類するのだろうか。
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