反論税でスムーズなコミュニケーションを!

ちびまるフォイ

倍プッシュ総理

「総理。また今日も国会の議題が持ち越しになりました」


「またか。あっちがケンカふっかけてくるんだよ」


「それを向こうも待ってるんですよ」


「わかってる。だからといって答弁しないわけにもいかないだろ」


「ではこのままに?」


「それもなぁ……。娘がテレビつけるたびに

 どうしてパパはいつも怒ってるの?って聞かれると

 胃がぎゅうって締め付けられるんだよ」


「なんとか口論をしずめる方法はないものでしょうか」


「あ」

「総理?」


「閃いた! いますぐ国会を開こう!」


総理のとっさの思いつきで「反論税」はその日のうちにしれっと決まった。


反論税が導入されたことで、悪口を言うだけなら良いが

そこからモメはじめると税金が徴収されるというもの。


ヘイトスピーチを言ったら即逮捕。

というような高圧的なものでもなく、駐車禁止の罰金くらいの感覚で市民にも浸透した。


効果は絶大で、これまでそこかしこでケンカの火種となっていた口論が

税金が取られるとわかるとその数はニホンオオカミよりも激減した。


誰もが自分の頭ではわかっている。


"お金取られるほど、反論する価値はないな"と。



「総理」

「なんだ」


「反論税の効果は絶大ですよ。電車でのトラブル件数はぐっと減り、

 国民のストレス値は下がり、毎日みんなにこやかに過ごしています」


「そうだろうそうだろう。口論は周りの人をも不快にさせるからな」


「総理の考えは間違えていません。さあ、本国会も頑張りましょう」


「ああ。なんとしても我が正統の法案を通すぞ!」


何年も何年も議論されては反対されていた法案が本国会で議題にあげられた。

ありとあらゆる反論シミュレーションをし、長期戦も辞さない覚悟で望んだ総理だった。


しかし、国会はあっけないほどスムーズに進行してしまった。


「なにか意見のある人は?」


「意義なーーし」


「え……ほっ、本当に?」


「異議ありません」


「えぇ……? そ、そうなんだぁ……」


これまでの念入りな準備はなんだったんだと拍子抜けする総理。

とはいえ、肝いりの法案を通すことができてよかったなあと思っていると、秘書が部屋にやってきた。


「総理。先ほどの国会ですが」


「ああ、思ったより反論なくてよかったよ。法案も通せたし」


「それが問題なんです」


秘書はいましがたやっていた国会を中継しているテレビを見せた。

スタジオのコメンテーターが渋い顔をしてコメントしている。


「コメンテーターは反論税のせいで、国会議員が反論しなくなってるんじゃないかと言ってます」


「そ、そんなことないだろう!?」


「でもそう思われてるみたいですよ」


「そう思われているのは心外だな……。しかし否定できないところもある」


国民の税金を議員だけ免除する、というのもよくないので

反論税は国会議員も対象にしたことがここに来て失敗するとは。


国会議員ならば税金を収めてでも反論はしてくると考えるのは総理だけなのか。


「よし。口論免除デーを作ろう」


「なんですかそれ。割引されるんです?」


「ちがう。この日は口論しても税金不要という日を作るんだ。

 そうすれば、少なくともその日だけは誠実な議論ができるだろう」


「なるほど」


総理は新たに口論をしても税金徴収されない日を作った。


その日に合わせて大事な議論の予定を詰め込んで、

「ちゃんと議論できる環境で決まりました」という大義名分を掲げられるようにした。



そうしてやってきた口論免除デー。


これまで口論を税金で封じてきたこともあり

誰かに反論されることに慣れない総理はしっかりシミュレーションをして国会に望む。


「……以上が、我が政党の掲げる新しい法案です。何か意義は?」


「…………」


「え、いっ……意義は?」


「意義なーーし」


「うそでしょ。今日は反論税が免除されているんだよ。

 いくらでも反論していいのに異議ないの?」


「意義なーーし」


「本当に!? 本当の本当に!?」


「意義ありませーーん」


「本当は心の中で思ってるけど、言ったところで変わらないから

 さっさとこの場を収めようという目的での反論なしじゃないよね?」


「ちがいまーーす」


「そ、そぉ……? ほんとに反論ないんだね?」


反論がいくらでもできうる状況でも反論がないということは、

本当に反論や意見がないのかもしれない。


どんなこと言われるのかと寝ずに準備をしてきた総理だったが、

そんな準備もいまとなっては必要なかったのかもしれない。


肩の荷がおりた総理は、ふと時計を見る。


時刻はもう夜おそく。

あと1分で日付が変わろうかという時間を指している。



日付変更まであと1分というタイミングになるや、

これまで黙っていた議員がせきを切ったように反論をしはじめた。


「総理! こんな法案はめちゃくちゃだ!! 何を考えてる!」

「なにも考えてないんでしょう! そんな顔してる!」

「そんな法案じゃ国民の理解は得られませんよ! 私が理解できてないもの!」


「え、ええ!? 急に!?」


「急にじゃない! 法案を見たときからずっと思ってた!」

「こんなダメダメ法案、意義ありまくりに決まってる!」

「どうしてこんなのがいいと思えるんだ!」


さっきまで地蔵のように静かだったのに、

急に思い出したように反論しはじめる議員たちに総理はカッとなった。


「お前ら! 文句があるんなら、さっき言えば良かったじゃないか!

 なんでこんな終盤になってからあれこれ言うんだ!」


総理が反論すると、秘書がぽんと肩を叩く。


「総理。日付が変わりました」


「それがなんだってんだ!」


「反論免除デーは1分前に終了してます。今からの反論は税収されます」


なんで時間ギリになってから議員たちが一斉に反論したのか。

総理がそれを把握するのは1分ほど遅かった。


「お、お前ら! 日付変わるタイミングで言うなんてずるいぞ!

 日付変わったら税金取られるから反論しにくくなるじゃないかーー!!」





「総理。それも税収対象です」

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