第7話 ゴール
俺はゲイリーが作り上げた水の塔を蹴り倒そうとする。
「うおおおおおおおおお!!!!」
バッシャアアアアアン!!!
最初は水が鉄のように固くなったけれど、ある程度入り込んだらただの水の固さになった。
ただ、最初の時に勢いを殺され、水の塔は圧力で俺を押し潰そうとしてくる。
「させるかぁああああああああ!!!」
俺は魔法に魔力を回して、塔の水を蒸発させつつ進む。
「はあああああああああああ!!!」
俺は魔法に魔力を注ぎ込み、水の塔を蹴り破った。
「嘘だろ!?」
ゲイリーが驚きで目を見開くけれど、流石ジャックとトップを争うだけはある。
彼はすぐに真剣な目つきになると、その身を俺の前に
「なんだって!?」
「いかせねぇよ! もう速度はねぇだろうが!」
そう言ってくるが、彼は甘い。
俺は蹴りの姿勢のまま更に魔力を注ぎ込み、彼の腹に突撃する。
「ぐっほ!」
「気合で出せるんだよ!」
俺がゲイリーに言い返すと、彼は苦しそうな表情を浮かべながらも足に杖を叩きつける。
「ざけんな!」
「ぐあ!?」
叩きつけらた俺の足に鈍い痛みが走るが、そんなことはどうでもいい。
この状況で、俺が1人でゲイリーよりも先にゴールするにはどうしたらいい?
離れればそれだけで妨害されてしまうかもしれない。
でも、彼とこのままの態勢で戦う。
という選択肢は危険なように思えた。
なので、
「はぁ!? 登ってくんな!?」
俺は奴の服をなんとか掴み、彼の肩にしゃがみ込む。
そして、彼の返事を待たずに、ゴールに向かって飛び出した。
「『
「俺を踏み台に!?」
足に鋭い痛みが一瞬走り、それからすぐに感覚が無くなった。
でも、そんなことは関係ない。
俺はただゴールを目指して進む。
俺が勝つことだ大事なんだ。
いや、俺達が勝つ。
皆を優勝台に送り込む為に、俺は全力を尽くすんだ。
それが俺に最後を任せてくれたジャックへの一番の礼だ!
しかし、ゲイリーは甘くなかった。
「待て! 『
彼は速度重視の妨害用の魔法を俺に向かって放つ。
だが、全てを同時に使っている俺の速度には勝てない!
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は体に残っている魔力を全て魔法に注ぎ込み、速度をあげることだけに費やす。
ゴールした後のことはどうだっていい。
俺がゴールできれば問題ない。
そして、
『ゴーーーーーーーーール!!!!!!!! 今大会! 1位で駆け抜けたのはチーム
俺はその声を聞いた瞬間、全身の力が抜けるのを感じる。
次の瞬間には、ゲイリーの魔法が俺の全身に突き刺さった。
「ぐぅ……」
俺は
魔力を注ぐことはもちろん、指一本すら動かせないのだ。
「あ……もう……」
俺はそのまま魔法が切れ、慣性で地面に落ちていく。
そして、何か柔らかく、温かいものに包まれた。
******
時は少し
***シルヴィア視点***
「しかし……意外とやるね」
「何がですか?」
「地方の小さなウィザード達さ。中央との差は当然あるけど……それでも、磨けば光る物があるね」
アタシはそう言って、今もコースを飛んでいる者達に目を向ける。
最初こそあくまで地方レベルと思っていたけれど、あの雷の子や相手チームの水魔法の子。
彼らは少しいい指導者がつくだけで、恐らく化けるだろう。
だが、一番はアタシが泊まってる宿の子供だ。
最初こそ出力だけの脳筋かと思ったけれど、アタシのアドバイスを聞いてすぐに修正をしてきた。
そして、実戦で使えば使うほど、彼の魔法のキレは上がっていく。
「頑張れー! ロイドー!」
アタシの隣では一生懸命に彼の姉が応援をしていた。
彼女は基本的に不愛想だけれど、弟のことになるとかなり執着をみせる。
不器用な姉のようだ、相当弟が好きだろうに……。
そんな事を思っていると、レースでは目を見張るものが見えた。
今話をしていたロイド。
彼の直線の伸びはすごい。
プロでも通用しそうな程のキレ、伸び、鋭さだ。
正直、あれで曲がれるようになったら……想像するだけで楽しみに思う。
しかし、見るべき者は他にもいた。
「『
「なに!?」
まさかこんな田舎であんな魔法を観れるなんて。
水属性のサポート魔法として上位に位置する魔法。
所々ほころびがあり完璧とは言わないけれど、10代のあの年齢で使えていることがすごい。
「『
「お前もそんな魔法が使えるのか……」
あの魔法も妨害魔法としてはかなり使いやすいものだ。
しかも、自身が一緒に檻の中に入ることによって、敵の選択肢を増やして迷わせている。
もちろん、自身がやられる危険性もあるけれど、彼の行動を見る限り単体でもかなり強そうに感じる。
そして、彼を倒した頃にはすでにロイドはゴールだ。
「『
「ああ!」
アタシは姉の声でロイドの方を向く。
すると、姉は見るのが怖そうにアタシに聞いてくる。
「今のって大丈夫かしら? 足……あんな速度でぶつかったら大変なことに……」
「大丈夫でしょ。もしもの時には治療師がいるし。相当酷いものじゃない限り問題ない」
「ほんと? 絶対? 絶対大丈夫よね?」
「いいからレースを観て」
アタシはそれからロイドに目を光らせる。
彼の一挙手一投足、その判断や魔法の発動まで、全てを見逃さない。
そして、彼の前には大きな水の塔が立つ。
「『
「うおおおおおおおおお!!!!」
ロイドにとって塔などかかしでしかなかったらしい。
簡単に蹴り倒してしまった。
「すごいな……」
思わず声がこぼれる。
下手をしたら大けがをするような相手に、簡単に突っ込んでいく。
そんな……そんな選択肢が取れるなんて……。
勝利の為に……そんなことができるなんて……。
そして、ロイドはそのまま相手の選手を踏み台にして、ゴールに向かう。
「そこまで本質を忘れないか……」
ああやってぶつかったりしてしまう選手はいる。
だが、若ければ若いほど、ゴールを目指すのではなく、戦う事とがメインになってしまうのだ。
「っ!?」
しかし、そんなロイドの動きに違和感を感じる。
先ほど姉に大丈夫と言った手前問題ないとは思っていたけれど、もしかすると……。
「『
アタシは魔法を使うと観客席から飛び出して、コースに向かう。
『ゴーーーーーーーーール!!!!!!!! 今大会! 1位で駆け抜けたのはチーム
実況の声が響く中、速度をあげてコースに近付く。
ただ、コースは結界を張られているので、それを一瞬で解除する。
「ロイド!」
アタシは叫ぶけれど、彼は意識がほとんどないようだ。
それに、後ろから追いついた水の矢を全身に受けている。
守ることも一切していないのだ。
そしてその衝撃を受けて、徐々に高度を落としていく。
だが、それでも彼の魔法は出力に特化している魔法だ。
なので、アタシが出せる本気を出すべく、本気の魔法を使う。
「『
アタシの求める道筋を風が祝福してくれるように加速する魔法。
一瞬でトップスピードに達すると、急いでロイドの下に回って受け止める。
それと同時に、勢いを殺すために周囲の魔法を集めてクッションを作り、ゆっくりと地面に降り立った。
「……柔らかい……温かい……」
「ゆっくりお休み。君は頑張った。起きたらきっと皆が認めてくれるよ」
「スゥ……スゥ……」
アタシの胸の中でスヤスヤと眠る彼をそのまま見ていると、大会の運営者に話しかけられる。
「ちょっと! 貴方は誰ですか! 勝手に結界を破って!」
「アタシはこういうもんだよ。後、治療師の人を連れてきて。大至急」
ポケットから名刺を取り出して、相手に渡す。
「え……これは!? あ、貴方は……本当に?」
「そうだよ。信じられなきゃ問い合わせるといい。それよりも早い所
「! おい! 早く治療師を呼べ!」
「い、いいのですか?」
「構わん!」
「かしこまりました」
運営者は走り去っていくが、治療師は来てくれていたらしく、すぐに治療を開始する。
ただ、治療師の表情はとても重たいものだった。
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