第6話 ケビンの奥の手


「『水流よ我を運べウォータースライダー』!」


 ゲイリー達はレースの開始と同時に魔法を使い、我先にと先に進んでいく。

 それも、3人全員でだ。


 俺達が気が付いた時には、彼らはかなり遠くまで進んでいた。


「やられた! 俺らも追うぞ!」

「はい!」

「分かった!」


 ゲイリー達が逃げるのを見て、俺達も追いかける。

 しかし、奴らは3人ともかなりの速度で中々追いつくことが出来ない。

 伊達に何度も負けていない。


「彼らは……最初からこれを狙っていたんでしょうか」


 飛びながら、俺は走りながらだけど、ロビンがそう話すのを聞き返す。


「最初から?」

「さっきレース前にこちらをあおって来ていたでしょう? きっと、君に魔法を撃たせるようにする為にあんなことを話していたんだと思います」


『はん! 今までは雑魚チームだったからあの程度の攻撃でくたばってたんだろうぜ。俺達だったら余裕だよ。余裕』『そのいつも寝ている相手に負けて来た雑魚チームがよく言うよ。俺達には効かねぇ。撃って見ろよ。実力差を教えてやる』


 思い返せば確かにわざわざ撃ってこい。

 と言わんばかりのセリフだった気がする。


「確かに……。それに、君もそこまで速くないですからね」

「え?」

「今も少しづつ距離を開けられていますし、カーブになったらもっと距離は開くでしょう。今はジャックが彼らの後ろで圧をかけているからいけますけど、余り距離を離されると厳しい」

「それは……」


 ロビンは厳しい目をしてジャックの方を見ている。


 俺ももっとちゃんとした速度で飛ぶことが出来れば、そうすればあいつらにも追いつくことが出来るはずなのに……。


 現に、カーブに入った所で、俺の速度は急激に落ちる。


「という訳でロイドは何としてでも追いついて下さい。僕はジャックのヘルプに行ってあいつらの足を何とかして止めます」

「分かった」

「それでは、『飛べフライ』」


 ケビンはそう言って一人で加速する。


「俺も……何とか速度を出して……ダメだ。そんなことをしてまた結界にぶつかってしまうかもしれない」


 焦る気持ちを抑え、遅くとも少しずつでも進んでいく。


 前の方ではジャックとケビンが魔法を放ち、前の3人が協力をして注意をいでいる。

 けれど、数の差があるのかかなり厳しそうだ。


「ケビン……あんなに魔法を使ったら魔力が切れるだろうに……」


 しかしそのケビンの頑張りのお陰もあってカーブで差がついてしまったけれど、遠くまで離れるようなことにはなっていない。


 相手チームもかなり焦っているようだった。


 俺は彼らの動向を見ながら走り、カーブ地帯を抜ける。

 遠くには相手チームとジャックとケビン。

 ただ、その途中には曲がるものはなにもない!


「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト!』『飛べフライ!』」


 一瞬だけ、一瞬だけ『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト!』を使い、強力な加速をする。


「ぐ……う……」


 体が引き延ばされるような感覚を味わい、それでも、周囲の状況を見て足を前に出す。


 ドガアアアアアアアン!!!


「痛……!」


 足から結界にドロップキックをかまし、何とか勢いを殺すことに成功する。

 ただし、代償として足がめちゃくちゃ痺れるし痛い。


「ロイド! さっさとあいつらに止めを差せ!」


 ジャックがこちらを見てそう言ってくる。


 急加速をしたお陰で皆に追いついたらしい。


「任せて!」

「ダメです!」


 俺が魔法を使おうとするとロビンが止めてくる。


「何でだ!」


 ジャックは怒り、俺は困惑する。

 しかし、『飛べフライ』の魔法は使っているのでそこまで離されることはない。


「ロイドのあの魔法は発動が遅すぎます! その間に距離をとられかねない!」

「俺達が妨害すりゃ良いだろうが!」

「そうしたらゲイリー以外の2人がそれを止めてゲイリーだけで先に行ってしまうでしょう! そうなってしまえば奴らの思うつぼです!」

「なら何で今はそうなってねぇ!」

「まだ前半だったことと、ジャックが前を狙っていたからです! でも、妨害をやる様になってしまったら出来ない! 『水弾よ穿てアクアバレット』!」


 ケビンは話しながらも魔法を放って妨害を続けている。

 そのお陰で、何とか距離はそこまで離れていない。


「じゃあどうするんだ! このままだとじり貧だぞ! ロイド! 速度を上げろ!」

「ごめん!」


 ジャックとケビンが速度を落としてくれているのが分かる。


 ケビンが頭を抑えながら声を張り上げた。


「ジャック! そんなことはいいです! 今は2人とも僕のそばへ!」

「ふざけんな! 何するつもりだ!?」

「奥の手を使います!」

「魔力は底をついてんだろ!?」

「ポーションを飲みました! それに、僕はこんな時のために魔法を覚えていました! だから2人に頼みます!」

「っち!」


 俺はケビンに聞く。


「何をすればいい!」

「僕が魔法で前に送ります! 3対2で厳しいでしょうから、ロイドには敵を巻き込んででも敵の足を止めて下さい! 後はジャックに任せて!」

「……分かった!」

「…………」


 ケビンはそう言っているけれど、ジャックはイラついた顔のままだ。


「ジャック! 駄々をこねないで!」

「っち! 分かったよ! やってやる! その代わり本気で送れよ!」

「勿論です!」


 そうしてケビンは集中し始める。話している間にも距離は結構開けられている。


 しかし、ケビンの集中はすぐさま終了し、魔法が放たれた。


「『水龍よかの者を誘えアクアロード!!!』」

「ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 ケビンが放った魔法は細長い水で作られた龍を形作る。

 光が反射してきらめくうろこに、口元からは鋭い牙と優雅ゆうがひげが伸びている。


 俺とジャックはその龍の体から伸びる小さな腕にそれぞれ捕まれて飛んでいく。


 速度は圧倒的で、すぐに相手チームに追いつくほどだ。


「この魔法はすぐに切れます! 一瞬が勝負です!」

「分かった!」


 ケビンの言葉に俺は頷き魔法の準備を始めると、ジャックが話かけてくる。


「ロイド!」

「何!」

「役割を代われ!」

「え!? 突然どうしたの!?」


 さっきまではジャックが行くことになっていたはずなのに、どうして突然……。


「俺が行くことを奴らは確実に警戒している! それに、この魔法が弾けた後は水が飛び散る! 俺の雷魔法なら影響を広げられるんだよ! だから俺が全力で妨害してやる! お前が行け! わかったな!」

「! 分かった! 絶対に勝つ!」


 俺はジャックの言葉に力強く返して、頷いた。


 彼はフッと笑って前を向く。


(ロイド。お前は今まで、俺がこのチームに入るよりも前からずっと努力してきていた。そんな努力が実らないなんて俺は許さねぇ。それに前回レースでお前は俺よりも速かった。勝つ可能性に賭けるのはリーダーとして当然だ。だから負けるんじゃねぇぞ)


 もう少し、後少しでゲイリー達に追いつくといった所で、ゲイリーの後ろを守るように飛んでいる2人から魔法が飛んできた。


「今だ!」


 後ろでケビンの声が聞こえた瞬間、魔法が弾けた。


 バッシャアアアアアアアアアアアンンンン!!!


 水龍が飛び散った瞬間、俺とジャックも同様に前方に物凄い速度で弾き飛ばされる。


「『飛べフライ』!」


 俺はこの勢いを利用して姿勢を制御するだけに気を付ける。


「『水弾よ穿てアクアバレット』!」

「『土の礫よ穿てロックバレット』!」


 その間に、ジャックに相手チーム2人の魔法が襲い掛かっていた。


 しかし、ジャックはそんな攻撃をかわし、2人に近付き魔法を発動させる。


「はは、俺が来るのは予想外か? 『雷の牢獄よ顕現せよサンダープリズン!!!』

「なに!? ぐうぅぅぅぅ!!」

「がはぁぁぁぁぁ!!」


 ジャックは2人と共に自分も一緒に雷の牢獄ろうごくとらわれる。


 その際に周囲に浮かぶ水を伝って2人にもダメージが入っていた。


「いけ! ゲイリーより先にゴールしろ!」

「優勝台に立たせるよ!」


 俺はジャックの方を見ることなく答える。

 彼に視線を送る時間も惜しい。

 ゲイリーはケビンの魔法を見た瞬間2人の力を借りて加速していたらしく、かなり先を進んでいた。


「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!!!」


 出す時間を調整して、真っすぐに進む。

 ゲイリーから少し離れるように。


「?」


 遠くからでもゲイリーが首を傾げているのがわかる。

 でも、これは勝つために必要なことなんだ。


 俺は2回目のカーブを曲がり始め、今はやっと折り返しに来た所。

 そして、これからゴールに行くためには一回、どこかで曲がらなければならない。


 でも、今の俺にゆっくり曲がることは出来ない。

 であればどうするのか。

 簡単だ。

 一瞬だけ……ほんの一瞬だけ止まり、そしてまた直線で進めばいいのだ。


「いっくぞおおおおおお!!!」


 俺は魔法に目いっぱい魔力を注ぎ、加速する。


 ゲイリーはカーブの終わり掛けにいるようだ。

 でも、今はまだ多少の距離はあってもいい。


 俺は物凄い速度で目の前に迫ってくる結界を凝視して、足を前に出し魔法を使う。


炎の鎧を成れフレイムアーマー!!!」


 足さえ守れればでいい。

 それ以上無駄に魔力を使う必要なんてないからだ。

 そんな思いで足に防御魔法をかけて結界を蹴りつける。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!  メシィ


「っっっっっっっっ!!!」


 足にあり得ない程の痛みと衝撃が襲うけど、そんなことは後だ。

 今はゴールだけを目指して進まなければならない!


「いっけぇえええええええええええ!!! 『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』『飛べフライ』!!!」


 制御出来ないほどの加速力を経て、カーブの終わりの近くの結界からゴールまでの最短距離を飛ぶ。


 圧倒的な速度、この速度であればゲイリーは抜ける!

 そう思った瞬間。

 声が聞こえた。


「『水の塔よ立ち上れウォータータワー』!!!」

「!?」


 ゲイリーの妨害魔法。

 それも、たった一人なのに俺の進路上に大きく高い塔を作っている。


 この魔法はウォールよりも強固で、高い所までカバー出来る。

 ただし、少し横にれればかわせるので相手の勢いを止めたい時、直線の加速を止めたい時になど使われていた。


「そのままぶつかって死ね!」

「そうはならない! 『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!!!」

「なんだと!? ぶつかって死ぬぞ!」

「死なねない! 俺は最初にゴールするんだ!」


 俺は足で水の塔を蹴り倒す勢いで突っ込む。

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