第4話 ロイドの妨害魔法

 それから俺はずっと一人で練習をやり続けた。

 ある程度制御して走ることが出来るようになったけれど、バランスを取るのに忙しくて妨害されてしまったらどうしようもない。


 でも、今までの絶望感と比べると、いけるかもしれないという手ごたえを感じていた。


「いいぞ……これならもしかしたら……」


『これより、第3回戦……』


 一人で黙々と練習をしていると、放送がかかり俺の番を知らせる。


「やばい! 今すぐに行かないと!」


 俺は全力で走って控室の扉を蹴破るように入る。


 そこには、イラっとしたようなジャックと流石にムッとしたようなケイドがいた。


「おい、てめぇ! どこに居やがった!」

「休むなら休むで医務室にいて欲しかったんですけどね?」

「す、すまん。本当はもうちょっと早く帰ってくる予定だったんだけど、魔法の練習をしていて……」

「はぁ!? レースは1日で終わるんだぞ。魔力消費してどうすんだ!」

「……魔力ポーションも指定された数以上はもらえません。分かっていると思っていたんですけど?」


 2人して怒って来るけれど、それは間違っておらず言い返すことは出来ない。

 レース中に使った魔力は簡単には回復しないし、回復する為のポーションはそこまで数がある訳ではない。


 中央の大会であれば問題なく使用出来る場合はあるけれど、基本は何戦かごとに配ることが多い。


「分かってる……。でも、今回の俺の役割は妨害、最初に妨害して、それ以降なら問題ないと思う」


 俺が考えを言うと、ジャックとケビンは難しそうな顔をして話す。


「そんな簡単じゃねぇ。妨害がアントンで上手く決まっていたのはアイツが手慣れていたことに加えて、敵のチームが弱かったからだ」

「でもまぁ……それはそれでいいのでは? ロイドの魔法の威力がすごいのは知っていますし……ねぇ?」

「そうだが……かわされたらどうする?」

「相手は土属性ですから、意外と遅い気がします。一度やらせてみては?」


 ケビンはそう言って俺の方を向く。


 俺はそれに答えるようにして頷いた。


「大丈夫だ。誰もジャックの元には行かせないから」

「……ッチ。分かったよ。その代わり、次にしくったらマジで出さねぇからな」

「ああ!」


 ジャックはそれだけ言うと次の試合に出る為に扉を出て先に進む。


「いくぞてめぇら!」

「はい」

「ああ!」


 俺達は、次のレースに挑む。



 俺達は今回も外側だ。

 ジャックは一番妨害されにくい外側、そして、ケビンは敵の動きを一番に把握する為に内側に立つ。

 2人に挟まれるようにして俺が立つ。


「いいですか、今回の敵は皆土属性です。妨害も気合を入れてやらないとびくともしません。分かってますか?」


 ケビンが大丈夫か。

 というように俺を見つめて来るけれど、問題ない。


「大丈夫……だと思うけど、かなり力を出してもいいんだな?」

「ええ、彼らは頑丈ががんじょうです。あなたが本気を出した所で構わずに進むかもしれません」

「分かった。そこまで言うなら」

(僕の奥の手も使えませんしね……)

「なんだって?」

「なんでもありません」


 俺は使う魔法をしっかりと決める。

 ゴールはジャックが取ってくれる。

 そして敵の攻撃はロビンが防いでくれる、であるならば俺が敵を吹き飛ばす。

 そして、実際のレースで走るための練習時間を作りたい。


 敵チームも並び終え、審判が位置につく。

 そして、両チームの準備が整っていることを確認して、旗を掲げた。


「それでは両者準備が出来ているのでレースを始めます。レディ……フライ!」


 審判の掛け声と共に、ジャックとロビンがいつもの魔法を使う。


「『紫電になれライトニングチェンジ』! 『飛べフライ』!」

水流よ我を運べウォータースライダー! 『飛べフライ』!」

「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!」


 それと同時に相手チーム3人による魔法も発動する。


「『土の壁よ妨げよロックウォール』!×3」


 ズアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 俺達の目の前にとてつもなく高い土の壁が生まれた。


 突然のことにジャックの足は止まり、ロビンの魔法は何を受け止めるのか分からずにただそこにあった。


 ジャックとロビンは突然止められたせいか動きが完全に止まってしまい、何をしたらいいのか止まってしまっている。


 ここは俺がやるべき時だ。


「『「炎の怒りよ燃やし尽くせ《フレイムカオス》』!」


 ゴオオオオオ!!!!!


 相手チームの3人を燃やす尽くそうと炎の柱が立ち上り、まとめて飲み込んだ。


「ぐっ! 自分を守れ! 『大地の鎧と成れガイアアーマー』!」


 相手チームの3人が一斉に防御魔法を使い、身を守る。

 だけど、それまでに入っていたダメージがかなり重たいのか、かなり動きが遅い。


「ジャック! 今の内に避けて行って!」

「……」

「ジャック!」

「……あ、ああ。『紫電になれライトニングチェンジ』! 『飛べフライ』!」


 ジャックを何度か呼び、我に返らせると先へ進ませる。


「ケビン! 次は何をする!?」

「え? あ、あれ以上するのですか……?」

「え? だって頑丈だって……」

「そうは言いましたけど……」


 ロビンは視線を相手チームに向けると、未だに熱いのかよろよろと炎の柱から逃げ出そうとする彼らに憐みの目を向ける。


「流石に止めた方が良いのでは? もう十分でしょう」

「そ、そう?」


 俺は魔法を止めると、3人は鎧をしたままガシャリと地面に崩れ落ちた。


「いくらなんでもやりすぎでは……」

「次から気を付ける……」


 やってしまった。

 そう思う自分がどこかにいる。


「そうした方がいいですね。あんまりダメージを上げ過ぎて人から悪い感じを受けるのは違っていますからね」

「悪い……」

「いいですよ。僕も少し煽り過ぎた感じはありますから。あなたの魔法ってどこまで成長しているんですか? 前はそんなんじゃなかったと思いますが……」

「いやぁ……妨害魔法とかほとんど使わないから忘れてた」

「……あなたという人は……。まぁいいです。一応僕は彼らを見ておきますね。彼らを守る防御魔法があるので大丈夫だとは思いますが」

「頼んだ。俺は先に行く」


 頭を切り替えて前に進む。


 よし! これで邪魔な奴らは動けなくした。

 後は、実際のレースで使えるのか。

 そして、使うとどうなるのかということをしっかりと体に教え込まなければならない。


「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!」

「何を!?」


 俺は驚くロビンをおいて、練習する為に先へ進む。

 土の壁は横の方がギリギリ開いていたのでそこから通り抜けた。


「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』 うおっととと」

「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』 あぶな! やべ! ぶつかる!」


 バン! 結界に当たりそうになる。

 というか当たったけれど、何とか手をついて顔面から行くことは防げた。


「あぶな……って。次は……『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!」


 コースの曲がった部分。

 その時にはずっと強く進むわけにはいかない。

 ある程度の弱さをというか、走る方向等を調整して前に進む。


 バランスを取るのでかなり一杯一杯だけど、半分位まで来れるようになった。

 その時、


「ゴール!  勝者チーム雷電ジャックロード!」

「あ……終わっちゃった」


 声のした方を見てみると、ジャックが両手を上げて観客にアピールをしている。

 口は悪いけれど、観客にはサービスを忘れない。

 というか、結構目立ちたがり屋な所があるのだ。


 俺は消えた結界を通り抜け、スタート地点に戻ってくる。


「ん」


 俺が戻ると、ジャックがこちらに拳を差し出している。


「ん?」

「ん!」


 ジャックは黙ったまま拳を突き出している。

 しばらくその様子を見つめて、思い当たった。


「ん!」


 俺はジャックの拳に自分の拳をぶつけた。


「いて、強いんだよ。加減しろ」

「ごめんごめん」

「それにしても助かりました。今回の相手は我々の行動を読んでいたみたいですからね。まさかこんなことになるとは」

「勝ったからいいんじゃないか?」


 俺とジャックがいる所にケビンが近付いて来る。


「良くないですよ。僕たちのチームの弱点が露呈ろていしたと言ってもいいのですから」

「弱点?」

「ええ、いつも型にハメていましたけど、それを力技で潰しにくる相手にはかなり辛い。ということです。さっきの『土の壁よ妨げよロックウォール』のようにね」

「なるほど……」


 確かに、さっきの魔法を使われた時は、2人とも呆然としていて全然次の動きを出来ていなかった。


「貴方がいてくれて助かりました。ジャックは言わないですけど、そう思ってますよ」

「そうなのか?」

「……うるせぇ。しね。行くぞ」


 そう言ってジャックはサッサと先に進んでしまった。


「照れてるんですよ。僕たちも行きましょう」

「あ、ああ」


 俺達はジャックの後を追いかけた。

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