第42話 東海林 楓の遺書
僕は東海林さんとのお別れが終わった後、お母さんから東海林さんから僕への遺書を受け取った。東海林さんのお母さんは
「本当にありがとうね。いつもあの子のそばにいてくれて。五十嵐君の存在がどれだけ
「はい。本当に頑張ってました。その頑張りは僕も見てましたから」
と言って僕は涙が
「ほんとにね。でも五十嵐君はあらゆる意味であの子を救ってたのよ? 五十嵐君と生きていきたいっていう希望をもってた。だからあの子が頑張れたのは五十嵐君のおかげなのよ?」
僕は何も話せなかった。
「私たち家族は楓にどう接したらいいかも分からず喧嘩ばかりしてた。ミツルのときにどうしたらいいか、しっかり学んだはずなのにね」
東海林さんのお母さんは涙を
「何もかも諦めていた楓に、生きたいって勇気を与えてくれたのは五十嵐君なの。私たち家族はみんな五十嵐君に感謝してる。もちろん亡くなった楓もね。だから……それだけは忘れないでね……」
と東海林さんのお母さんは僕を励ましてくれた。僕は
◇
僕は無気力だった。布団にうずくまり食事もとらず、ただひたすらに目をつぶって夢の中で東海林さんに
ただひたすらに目をつぶって東海林さんに逢えることだけを考えた。あまりに寝すぎて頭が痛くなった。それでも僕は目をつぶり続けた。
掛け布団を体にかけ東海林さんに会えたら何を話そうか、どんな顔をして聞いてくれるんだろう? 笑ってくれるんだろうか? 怒りだしてしまうんだろうか? と想像しては目をつぶった。
けれども東海林さんはいないのだ、と現実を叩きつけられる毎日だった。そしてそんなことをしていても東海林さんに逢えないと僕は
◇
けれど僕は東海林さんの遺書を見る勇気がなかった。封筒に「
何が書かれているのか知りたいという気持ちと、東海林さんがもう死んだのだと打ちのめされるのが怖い気持ちで僕は遺書を見るのを
このまま読まないという選択肢もある。東海林さんが死んだという事実が怖い。お葬式も東海林さんの遺骨も見た。それでも、もしかしたら笑って現れてくれるんじゃないか? そんなありもしない期待を持ち続けていたかった。
でも、それ以上に東海林さんが何を書き残したのか知りたいという気持ちが上回った。震える手で封を開き、僕は東海林さんの遺書を読んだ。
☆東海林 楓の遺書☆
『五十嵐君。ありがとうね。私の病気と余命を知って、それでもみんなに黙っていてくれて。そのおかげで私は可能な限り、私は死ぬからと気をつかわれることなくみんなと一緒に学園生活を過ごせました。
私が死ぬからと変に気を使わせて学園生活を送るのは嫌だった。そんなことになるくらいなら学校に行きたくないと思った。
でも五十嵐君はその秘密を黙っている必要なんてないのに、私がもう学校にいけなくなるまで黙っててくれた。本当にありがとう。私の
怒ってる? 私は反省してる。本当に私の身勝手な考えで五十嵐君を巻き込んじゃったんだ。そこだけは私の後悔なんだ。
それに、むしろ私は五十嵐君を好きになってはいけないと思っていた。余命が残り少ない私が五十嵐君を好きだと言ってしまえば、五十嵐君の未来を
だから黙ってた。
五十嵐君と出会ったのが、あんな小さい頃だって分かった時にはほんとに驚いちゃった。憧れの王子様、まさにその張本人を目の前にして、はしゃいでた私の恥ずかしさを返して欲しい。
でも初恋の人と一緒に過ごせた時間は本当に嬉しかった。楽しかった。これ以上ないくらい幸せな時間でした。
五十嵐君は誰が見ても認めるくらい頑張ってくれたよ。私じゃない女性と結婚して子供もいて、そんな新しい家族と一緒に私の分まで生きてね。
私は最期まで頑張れたかな? 五十嵐君に認めてもらえるくらい頑張れたかな? 私は最期まで病気と闘えてたかな? それだけがちょっと心配。
体育祭では本当に最後に大活躍してたね。あの暴投したボールを取って勝てた瞬間、かっこよかったよ!
あとね。私が五十嵐君に
幼い私を守ってくれた男の子に五十嵐君が見えたんだ。それで偶然廊下でぶつかったとき、勇気をだして話しかけたんだよ? 色々話して五十嵐君のことをちょっとずつ知っていった。
不良グループから助けてもらった翌日の昼休みの教室で
「そういえば、なんで助けてくれたの? あんな不良グループなんて、逃げても知らんぷりしててもよかったじゃない?」
って私は聞いたよね? 覚えてる? あれは「
でも、ほんとに五十嵐君が公園で遊んでた男の子だったって知って、もう気持ちが止まらなかった。好きって気持ちを抑えきれなかった。
私には五十嵐君を好きって気持ちを、余命がないって思っても止められなかった。迷惑だったよね。私が気持ちを抑えてれば、五十嵐君が悲しい想いなんてしなくてよかったのに……ほんとにごめんね。
でも五十嵐君に出会えて本当に楽しかった。お弁当の献立を毎日考えるのだって楽しかった。お弁当食べてもらって五十嵐君の本音を聞けるのが嬉しかった。
また美味しいといってもらえるお弁当を作ろう。本音を言ってくれるくらいの美味しいお弁当を作ろうってほんとに思えたし頑張れた。
ほんとに、あのまま時が止まってほしかった……。
私のせいで水島さんたちのことで迷惑かけてごめんね。5人とも大変身して蓮野内君と仲直りできた。それからあとは本当に毎日がお祭り騒ぎみたいで楽しかった。
五十嵐君との長いようで短い学園生活は、本当に幸せな気持ちで一杯でした。
本当にありがとう』
東海林さんの遺書を読んで、僕は泣いていた。東海林さんの文字を見たからだ。東海林さんの想いを見たからだ。だからこそ、東海林さんの気持ちに応えるために僕は生きなくてはいけないと思ったんだ。
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