第38話 プレゼントと不良グループ三度(みたび)③

 翌日、目覚ましを止めて携帯をみると『今日の放課後から蓮野内君と会う時のために特訓をしたい。協力してくれ』と水島さんからメールがきていた。


 決戦は9月28日どころか水島さんたちは今日からとご希望だ。これは協力するしかないだろう。5日間という短い時間だけど何事も最初が肝心、っていうから良い心がけだと思った。


 実際に蓮野内はすのうち君と話したらボロはでるかもしれない。そこは僕と東海林しょうじさんでフォローしていければいいなと思った。


 そこで『おはようございます。分かりました。今日の放課後からみっちり特訓しましょう』と水島さんに僕はメールを返信した。


 忙しい5日間になりそうだ! 登校中、タイミングよく東海林さんとも会えたので、水島さんのメールの件を話す。


「水島さんって蓮野内君のこと、本気で好きなんだね」と東海林さんはびっくりしている様子だ。

「ですね。だから5日間みっちり特訓予定です」と僕も東海林さんの感想に頷きながら話す。


「東海林さんはどういう感じで特訓したら良いと思います?」と僕は東海林さんに相談してみた。

「付け焼刃だと上手くいかない気はするかなぁ」と東海林さんも心配してる。僕も同じ感想だ。

「印象を変えるだけなら言葉尻を『です。ます』にするだけでもいいんじゃないかと僕は思うんですよね」

 僕の考えにポンと手を叩いて東海林さんは頷く。

「そうね。それだけでかなり違うね」


 実際にはやってみないと分からないけど、何もしないよりはいいだろう。


「多くを教えようとしても短い期間で変えるのは無理です。だからこれから5日間、言葉尻を『です。ます』にすることだけを徹底しようかなと思うんです」

「いい方法だと思う。でも……ほんっとに五十嵐いがらし君って悪知恵が働くねぇ」

 と東海林さんは呆れた様子だ。

め言葉と受け取っておきましょう。東海林様」

「五十嵐、そちもなかなかにワルよのぉ」なんて言って東海林さんと笑ってた。



 そして放課後、水島さんたちの特訓が始まる。


「まずはとりあえず5日間は言葉尻を『です、ます』でしゃべってください。これだけで話した人の印象は変わります。できそうなら相手の呼び方も気を付ける感じで」

「そんなもんか?」と水島さんは疑問をそのまま話す。

「そこです。それは『そんなもんです?』と言い換えるだけでいいんです」

「そうか」

「そこは『そうですか』と話すように気を付けましょう」

「お前、イチイチうるさいな」と水島さんはイラっとした様子だ。

「そこは『君、イチイチうるさいですね』です」と僕は気にせず注意する。

「他の方も練習です。今、練習しておかないと28日に蓮野内君の好感度がダダ下がりですよ? 特に男性陣は女性陣に恥をかかせないためだ、と思って気合入れて練習してください」

「「「「「お前、ほんとにメンドクサイやつだな!」」」」」

「そこは『君、ほんとにメンドクサイやつですね!』って言うんです」


 とまぁ、こんな感じのやり取りを5日間ひたすら繰り返した。そしていよいよ決戦の9月28日を迎える。


 ☆決戦の9月28日☆


 蓮野内君の今日の予定はフリーなのは調べ済みだ。朝のホームルームが終わったわずかな時間を使って予定通り行動を開始する。 


 東海林さんは蓮野内君に話しかける。


「蓮野内君、今日って時間ある?」

「し、東海林さん!? も、もちろんあります! 時間はありますとも!」

「そっか、よかった。じゃぁ、放課後、校門の前で待ってるからね!」

「はい! 必ず行きます!」


 と元気いっぱいに答えてる蓮野内君を見て、僕の心は罪悪感でいっぱいだ。でも、僕と東海林さんが助かるためだ。もう後戻りはできない。あとは水島さんたちの頑張りに期待するしかない。ほんとに頼むよって神様に祈る僕がいた。


 ◇


 そして放課後、校門前でそわそわしてる蓮野内君に会いに行く。僕は離れて様子を見守る。

 東海林さんは


「お待たせ~。蓮野内君!」と話しだす。

「東海林さん! いや、全然待ってなんかいないですよ!」蓮野内君はあわあわしている。

「そう? 実は会ってもらい人たちがいるんだ。蓮野内君とどうしても友達になりたいって言っててね」

「と、友達? っていうと?」と蓮野内君は不安そうだ。


「みんな、こっち~」と東海林さんは5人を呼び寄せる。そこに現れるのは清楚な女性3人とイケメンの男性2人だ。

「「「「「よろしくお願いします」」」」」


「こ、この方たちは一体?」と蓮野内君は突然の事態に戸惑っているようだ。

「実は東海林さんに頼みこんで、蓮野内君に紹介してもらえるようにお願いしたんです。私たち」と水島さんは話した。特訓の成果も見えている。色んなパターンを想定し何十回練習したか覚えてないくだりだ。

「そうなの。あんまり熱心に頼まれるから紹介だけだよ? って話したんだ。もしかして迷惑だった?」

 と東海林さんはしょんぼりした様子をみせる。東海林さんは演技もいけるクチか!? っていってもまぁ、これもパターンごとに何十回練習したか分かんないもんね。

「そ、そんなことはないですよ! 東海林さんのお友達なんですから!」と言いながら蓮野内君は5人を見る。

「仲良くしてね!」と水島さんは明るく話す。

「「あたしもよろしくね!」」と女性2人も元気に話す。

「「よろしくです!」」とイケメン男性2人も追従する。


 東海林さんに近づこうと頑張った水島さんたちを、頬を染めて呆然ぼうぜんと見とれているのは蓮野内君だ。


「蓮野内君? どうかしたんです?」と水島さんは蓮野内君に見つめられて、照れてるような仕草が自然とでている。 

「い、いや、ごめん。なんでもないんだ」と蓮野内君も照れている。


 その様子を隠れて見ていた僕は蓮野内君にも春がくるのかな、なんて思った。東海林さんは蓮野内君と変わってみせた5人の様子を見ていた。そして家に帰るために移動する。心配だったので駅までついて行ってもらう予定だ。しばらく蓮野内君と5人の様子を見てたけど、仲良さそうにみんなで笑ってた。

「じゃぁ、みんなと仲良くしてあげてね! 蓮野内君!」と東海林さんは微笑んだ。

「は、はい!」と条件反射ぽく蓮野内君は東海林さんに答えてた。


 みんなが見えなくなったあと、東海林さんと合流して僕は話しかける。

 

「蓮野内君もみんなも大丈夫そうだね」と僕ははなんだか嬉しくなって笑ってた。つられて東海林さんも

「案ずるより産むが易しってほんとなんだね」

と笑ってた。



「じゃぁ、蓮野内君の方は心配もなさそうだから……五十嵐君! 誕生日おめでとう!」と東海林さんは笑顔で僕にプレゼントをくれた。


「あ、覚えててくれたんだ?」と僕は返事をしてプレゼントを受け取った。

「うん、もちろん! 忘れてないよ? 忘れるわけがないって!」

 たはは~って東海林さんは微笑んだ。そのやさしい笑顔を見て、みんなうまくいってよかったと思った。


「見てもいい?」

「うん、もちろん!」


 僕が受け取ったプレゼントは、僕が東海林さんに贈った『くるくる猫が回るオルゴール』の色違いだった。


「これでおそろいだね! でもデパートを歩き回って見つけるのに、ものすんごい苦労したんだからね!」


 なんて東海林さんのねてるけど心からの笑顔を見た。神様はこの世にいないかもしれない。けれど、女神は目の前にいるなぁなんて僕は思ってた。

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