第36話 プレゼントと不良グループ三度(みたび)①

 さっきの不良グループとの話し合いはほんとに綱渡りだった。


 3人の女性陣は蓮野内君とお近づきになれるチャンスだ。これを逃す手はないだろう。蓮野内君は1人だ。3人の女性と付き合う訳にはいかないのだ。だとすれば蓮野内君と女性3人のうちからカップルが成立したら、残った女性2人と男性陣はお付き合いできる可能性があるというわけだ。


 同じ人を好きになってしまうか? 別々の人を好きになるか? 同じ人を好きにならないように男性2人で相談するのか? フラれてしまえばあきらめるしかない。けれども恋心はコントロールができないことが多い。


 僕は誰が好きとあえて聞かなかったのはこのためだ。好きな人を聞いていれば自然と応援しなくてはいけなくなる。だがしかしだ。誰が誰を好きか? そもそも知らない僕は


(残念ですが、お力にはなれません。5人で頑張ってください)


 と言い逃れすることはぎりぎり可能という訳だ。


 そして僕は忘れちゃいけない事実を思い出した。さっきまで必死すぎて忘れていた。今日は東海林さんの誕生日だ。プレゼントを渡すという目的があったのだ。


 いつ渡そうか? ぐるぐる思考回路は回りだす。空回りする思考回路だけど、今をのがすと、もう渡す機会がなくなるんじゃないかと思った。不良グループに絡まれてからちょっと時間も経って、歩いてたら気持ちも落ち着いてきたので僕は話しだした。


「さっきは散々でしたけど、今日は東海林さんの誕生日でしたよね?」

「ほんとに怖かった。でも私の誕生日なんてよく覚えてたね。はなが言ってたのを覚えてたの?」とさっきの話し合いを思い出しおびえつつも東海林さんは微笑んだ。

「そうです。ずっと前にお弁当を食べてる時、前田さんが話してた内容を覚えてました」

「たはは~。私も年をとったねぇ、ごほごほ、世話をかけてすまないねぇ」なんて東海林さんは演技しながら笑ってた。


「で、これなんですけど……」と僕は綺麗にラッピングされたプレゼントをかばんから取りだして東海林さんに手渡した。


「開けていい?」と東海林さんが微笑む。僕は「もちろん」と答えた。

 

 僕と『猫がくるくる回るオルゴール』を何度も見返した東海林さん。満面の笑みを浮かべ


「ありがとう! 大事にするね!」


 と東海林さんは言ってくれた。プレゼントを渡したときの東海林さんの喜んだ顔も見れた。そしてこの言葉を聞くのにどんだけ苦労したんだろうと思った。でもやり遂げたという達成感は計り知れないほど大きかった。


 そのあと東海林さんを家に送り届けて、僕はグッと背を伸ばし深呼吸した。明日からも頑張るぞと気合をいれる僕だった。



 不良グループと話し合いをしてから2週間ほど経ったころだろうか。今日もいつも通り東海林さんと一緒の帰り道だ。


 「ちょっと待ちな。あんたら」


 とドスの効いた声で話しかけられた。周りには僕と東海林さん以外には誰もいない。このデジャブ感はなんだろうと思い僕たちは振り返った。


 そこにはお上品な女性3人とイケメンの男性2人がいた。


 周りをもう一度、見渡した。ドスの効いた声をだしそうな女性は周りにはいなかった。空耳だったのかなと僕は思って、また僕たちは歩き出した。


「待てって言ってんだろうが!」


 どこからの声なのよ? ともう一度辺りを見回すけど、、あんな地獄の底からわきあがってきそうな声をだしそうな人はいない。


 東海林さんと顔を見合わせる。さっきと同じく清楚な女性3人とイケメン男性2人しかいない。


「こっちだ。無視してんのか? お前ら」とさっきから聞こえてくるドスの効いた声は、清楚な女生徒からだったようだ。


「どなたですか? 初めて会いますよね、僕たち?」

「蓮野内君に紹介してくれるって話しだったろうが! もう忘れたのか!?」


 その言葉を聞いて僕は不良グループを思い出し、そして5人の姿を見て驚愕きょうがくしていた。


 そこにいたのは全く見覚えのない真面目そうな女性3人と、イケメンで爽やかな男性2人だったからだ。


「えっ? あなたたちがあの時の人たち!? マジで!?」と思わず声が出ていた。

「…………」


 呆然ぼうぜんとして、東海林さんはまったく言葉も出ない様子だ。その様子を見て、とても気持ちは分かると思った。


 そこには制服をさわやかに着こなし、髪も黒く染めストレートになった3人の女性がいた。アイラインが不自然なくらい紫とピンク色になっていた以前と比べると、お化粧もかなり控えめだ。でもそれが清楚さをかもし出している。


 しかもかばんくつと靴下まで新調したのか、まるでお嬢様と言われても違和感のない女性3人が立っていた。


 以前あったときの男性2人の方はリーゼントだったはずだ。元々の黒髪はそのままに、短くカットした髪をヘアワックスで固めたのか? 制服に合わせたかばんくつもビシッと決めたおしゃれなイケメンたちがそこにいた。


 自分で変わる覚悟はありますか? と煽っておいてほんとにアレなんだけど、君たち変わりすぎじゃない!?


「誰かと思いましたよ。ほんとに信じられないくらい変わりましたね!」

「「「「「まぁなぁ」」」」」


 照れてる5人の大変身だ。


「髪型を黒髪ストレートにして東海林さんに近づくようにと考えたら自然とこうなった」


 清楚な女性が恥ずかしそうに呟いた。最初は東海林さんを『あんた』呼ばわりしていた女性陣が『東海林さん』と呼んでいるというこの事実はとても大きい。声から判断するにこの女性がリーダー格だった女性みたいだ。


 女性3人の中で一番清楚といっていい雰囲気を醸しだしている。一番ドスが効いてる声もご愛敬って感じだ。何かしら思うところがあったのだろうか? 乙女の恋心ってすごいね! 


 リーゼントの髪型だった男性2人は


「おしゃれな美容室のマスターに頼んだら、こうなった」


 と言っていた。その美容室のマスターは美容師のコンテストで優勝しちゃうんじゃないの? ってレベルの大変身だった。


 人間って外見だけでこんなにイメージが変わるんだねぇ、と思った瞬間だった。


 この恰好かっこうだったら蓮野内君に紹介するのは、僕はやぶさかではないと思った。でも一応、東海林さんにも「どう思う?」と小声で聞いた。「これなら良いと思う」と東海林さんからも前向きな感想が返ってきた。


 それくらいのイメージの大変身だ。これならわきあがってた蓮野内君への罪悪感も減るってものだ。正直な話だけど蓮野内君に紹介した後で何かあっても(残念ですが、お力にはなれません。5人で頑張ってください)と逃げようかなぁと僕は思っていた。動画の証拠もあるしね。でも僕の言ったことを信じてここまでやってくれたのだ。しかも僕が望む方向へ、ものすんごく大きく変わってくれた。


 状況は大きく変わった。ありがたいと思うと同時に、できる限り力になろうと僕は思い直したのだった。

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