第34話 誕生日と不良グループ再び④

 作戦の大前提を説明した僕に 


「だからなんだって言うんだい? あたしはありのままのあたしを、蓮野内君に好きになってほしいんだ。容姿なんて関係ないんだよ!」

 とリーダー格の女性は聞いてきた。


「ほんとにそうですか? 蓮野内君の好みが分かってる状況でそれをしないってことは、いつまで経っても東海林しょうじさんには勝てないってことですよ? 今までの1年間で何の変化もなかったことが、何もしないままで急に動き出すなんて事態はありえるんですか?」


「けれど、それでも! あたしはあたしを見てほしい!」


「あなた自身は髪型が変わっただけで何か大きく変わるんですか? あなたの内面を見てほしいなら、外見を東海林さんのように整えて仲良く話をすること。これをまずは目標にした方がいい結果につながるとは思いませんか?」


「でも……」


 歯切れが悪くなった女性にさらにもう一押しだ。


「あなたが大好きな蓮野内君は、外見を見ただけで態度を変えるような、そんな男なんですか?」


 僕からみた感じだと蓮野内君は東海林さんしか見えてないから、他の女性が見えてないだけだと思うけども。そこを言ってしまうとこの作戦は破綻する。容姿どうこうって話じゃなくなっちゃうからね! 


「いや、それは……」


「どうしても今の状態のあなたを見てほしいなら、仲良くなってから蓮野内君に『こういう髪型と色にしたいんだけどいいと思う?』って確認とってから今の姿に戻してもいいんじゃないですか?」


「…………」女性の方々は黙ってしまう。


「髪の毛を金色や赤に派手に染め、ピアスしてる女性に蓮野内君はなびきません。東海林さんが理想の女性だからです」


 じろりと5人の不良グループの方々は東海林さんを見つめる。5人から不躾ぶしつけな視線を一斉に向けられて、東海林さんは涙目でおろおろしている。(怖い思いさせてごめんね)と心の中で僕は東海林さんに謝った。


「蓮野内君が好む姿や服装の答えは東海林さんです。まずは相手の好みに近づく。現在ある情報から判断できるんですから、この情報を参考にした方がいいと思いませんか?」


 と再度、僕は主張した。今の自分で挑戦するか? ちょっとでも努力をして、相手に好きになってもらえる確率をあげるか?


 どう考えるかは人それぞれかな、と僕も思う。けれど努力して変わろう、相手の好みの自分に変わろう、と思って行動してもらわないとこの作戦自体が詰んでしまう。女性陣が悩んで考えてるところで悪いんだけども僕は話を続ける。


「以上を踏まえた上での作戦はこうです。女性の皆さんは東海林さんのように外見から変わってもらう必要があります。髪は黒く染めて、短い人は伸ばしてもらう。全て形から入ります。だってそれが蓮野内君の好みだからです。好みが分かっているのにそれを利用しないなんて選択肢はないと僕は思いますよ?」


「なんでそんなに髪型を変える必要があるっていうのさ?」


 女性陣は疑問をぶつけてくる。今の格好によほど自信があるんだろうなぁ。というか僕の信用がないから聞いてもらえないのかな。焦らずゆっくり話すしかないと考えた。


「蓮野内君もあなた方もお互いがどんな人間か分からないからです。知らないからこそ、外見しか判断できるものがないんです。でも、あなた方に髪型やピアス、そして服装に至るまで、こだわりがあるのは聞いててよく分かりました」


 人には何か譲れないものがあるように、この方々にとってはポリシーなのかなぁと思う。


「だから僕が聞きたいのは、蓮野内君とほんとに付き合いたいという気持ちはあるんですか? 自分を変える覚悟はあるんですか? ということです」


 今まで1年ものあいだ過ごしてきて変化は起こらなかったのだ。このまま変わらずいくなら、卒業してもさらにその先も何も起こらないんじゃないかと僕は思った。だからそれを告げる。


「はっきり分かっているのは、あなた方は1年間、何も変わらなかったということです。今のままだとこれから先も、何も進展しないってことだとは思いませんか?」 


「…………」


 さっきから反応がないなぁと思って不良グループの5人の方々を僕は見ていた。


 悩んでるのは女性の3人で2人の男性は女性陣を見ているだけだ。余裕ありそうだし、男性陣の考えも変えておいてもらおうかと僕は思った。


 蓮野内君の好みの女性に変われるかどうか? 努力してるのが女性陣だけってのは僕としてはそれはそれでどうなの? と思う。だから男性陣だって変わる必要があるだろう。そこはそう思ってもらう必要がある。


「2人の男性もリーゼントの髪型は変えてもらいますよ?」

「「ふざけんじゃねぇ。この髪型は俺の魂のあらわれだ!」」


 2人の男性たちの声はハモってた。今までの話の流れからおっしゃることはごもっとも、と僕も思う。でも蓮野内君は基本的にはお坊ちゃまだ。当然、金髪や赤髪でピアスつけた女性3人と、リーゼントの髪型の男性2人の合計5人が蓮野内君に会いに行ったら、それだけでおびえられて破談だろう。


 そこは強調する必要があると考えた。


「蓮野内君はいいところのお坊ちゃまです。それは知ってるんでしょう? 噂にもなってますしね」


「あぁ、確かに知ってるね。でも、こんな男どもの髪型を変える意味なんてあるのかい?」


 よくぞ、聞いてくださった。我が意を得たりである。質問してくれたリーダー格の女性に目を合わせて僕は答える。


「こちらの男性2人も蓮野内君にあなたたちと一緒に会ってもらうからです」


 話を聞いていた女性たち、東海林さんも含めてみんなの目が点になっている。でもこの条件は僕のこれからの身の安全に関わる大問題だ。譲るわけにはいかないとこなのだ。

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