第31話 誕生日と不良グループ再び①

 最終下校の音楽が流れる。それを聞いた僕は荷物をまとめ、いそいそと帰り支度をする。これからいよいよ東海林しょうじさんにプレゼントを贈るわけだ。


 フンッと気合を入れる。その様子が変だったのか、司書の先生は不審者を見るような目をして僕を見つめる。ぺこぺこしながら図書室を去る僕をクスクス笑って見ている女生徒もいて、いたたまれなくなった僕はそそくさと図書室から出た。


 廊下を歩きそういえば東海林さんと初めて会ったのって、今くらいの時間だなって思い返した。で、そこの廊下の角を曲がったら東海林さんとぶつかったんだよなぁ、なんて懐かしく思いだした。


 廊下を注意して曲がった。今日は東海林さんは現れなかった。でも校門で待ってくれているはずだと僕は足を速めた。


 下駄箱で靴を履き、靴の紐って結ぶの面倒だなと思いながら紐を結んだ。そして校門の前に行くと、ハンカチで汗をいている東海林さんが見えた。


「ごめん。待った?」と喋りながら待たせちゃってたと僕は焦る。

「ううん。全然」と、汗を拭きながら東海林さんは答える。

「そうか、よかった」と安堵あんどする。

「じゃぁ、帰ろう!」といって東海林さんは、んふふーと笑っている。

「ですね!」と、やわらかな雰囲気に嬉しくなる僕がいた。


 いつも通りの帰り道だ。

「明日のお弁当は何か希望ある?」と東海林さんが聞いてきた。

「リクエストなんてしていいですか?」と問い返す。


「献立も毎日考えるのって結構大変なのよ」

「そうなんですね。僕は東海林さんの作るお弁当ならなんでもいいんですけど。考えるのが大変なら……そうですね。やっぱり東海林さんが作るから揚げが僕は印象に残ってます。あれは毎日でも食べたいレベルです」

「から揚げね。久しぶりだしそれもいいわね」

「ですです、あれは絶品です。間違いない!」

 なんて明日のお弁当のことを話してた。


「ちょっと待ちな。あんたら」


 とドスの効いた声で話しかけられた。周りには僕と東海林さん以外には誰もいない。誰かに呼ばれたのかなと僕は後ろを振りかえる。


 そこには以前、階段の踊り場で東海林さんに絡んでた3人の女性の不良グループのメンバーがいた。今回は僕を力でねじ伏せようと考えたのか、ガタイのいいリーゼントの不良の男性を2人、従えてやってきた。


 相手は女性3人と男性2人、そしてこちらは東海林さんと僕の2人だ。僕たちは圧倒的に不利な状況にある。逃げたとしても僕より足の遅い東海林さんが捕まる可能性は高い。


 しかも相手の目的は恐らく東海林さんだ。でも僕にしてみれば、東海林さんを置き去りにして1人で逃げきってもなんの意味もない。そんな事態は考えただけでも危険すぎる。


 ついでに以前の僕の行動に怒りを感じているなら、僕たちがこの場を一旦、のがれたとしても別の機会にまた絡んでくる可能性の方が高い。


 つまりここは運よく逃げれたとしても、僕と東海林さんにとっては何の解決にもならない場面だ。これはどうしたもんかねぇと僕は考える。


「お前だって? お嬢の顔に泥をかけてくれたってのは?」

「話を聞いたからには倍返しにさせてもらうぜ?」


 2人の不良男性は脅しをかけてきた。これは東海林さんというより、僕の方をつぶしに来たのかなと思った。


蓮野内はすのうち君の好意を踏みにじったのはあんたでしょうが!」

「「そうよそうよ!」」


 と3人の女性グループの女性陣は東海林さんを目の敵にしていた。この状況をみる限り、3人の女性陣は東海林さん目当てのようだ。


 男性陣は女性陣に協力を頼まれて僕をつぶしに来た。そう考えるのが普通なのかなぁと僕は思った。


「あなたたちの目的はなんなんです?」と僕は聞いてみた。

「あんたの知ったことじゃないでしょうが!」

「『次に絡んできたときは容赦しません』と僕は言いましたよね?」

「この状況で容赦もクソもないでしょうが」

 と不良グループの女性はにやりと笑う。圧倒的に自分たちが有利なのは自覚してるみたいだ。


「女性の方々は蓮野内君の好意を踏みにじった東海林さんに腹を立てているんですか?」

「そうよ! 蓮野内君の顔に泥をぬっておいて、ただで済むと思わないでほしいわね!」

「「そうよそうよ!」」と不良グループの女性陣はご立腹だ。

 

「なんでそう思うんです? 東海林さんが蓮野内君のメンツをつぶした。これって君たちにとってみれば、蓮野内君の彼女になれるチャンスでもあるじゃないですか?」


 僕がそう言うと女性陣は黙った。それを見て僕は聞いてみる。


「君たちの誰かが蓮野内君の彼女になるつもりはないんですか? 蓮野内君のメンツをつぶした、と蓮野内君のためにここまで行動していきどおりを感じている君たちなのに?」


「そ、それは……」


 目をふせ、口ごもる3人の不良女性陣をみるに図星のようだ。僕は脈はありそうだと判断した。


「蓮野内君の好みは東海林さんです。でも東海林さんの真似だけしても、きっとその想いは蓮野内君には届きません。でも蓮野内君の好みは分かります。僕の情報ルートで仕入れてあるんですよ?」


 と僕はにやりとして見せる。


「その情報を知りたくはないですか?」と食いつくのを待って釣り糸をらす。とりあえず、女性陣の対応は今のとこはこれくらいでいい。存分に3人の女性同士で話し合ってもらうとしよう。女性陣は顔を見合わせ話しだした。


 その間にしておかないといけないことは不良の2人の男性との話し合いだ。僕と東海林さんのこれからの生活にも関わってくるお話だ。


 おびえている東海林さんをなんとしても守らないといけない、と僕は知恵を振り絞る。なんとかこの男性2人を納得させないといけない。気付かれないように静かに気合を入れる僕だった。

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